こんにちは、ひかりです。
今回はベクトル解析から微分形式の定義とその性質について解説していきます。
この記事では以下のことを紹介します。
- 微分形式の定義について
- 微分形式の外微分について
微分形式の定義
ベクトル解析12とベクトル解析13の記事にて、ガウスの発散定理・グリーンの定理・ストークスの定理の3つの積分定理について紹介しました。
これらの積分定理は一見関係ないように見えますが、実は微分形式というものを用いることにより1つの式にまとめることができます。
微分形式の定義の参考になるのが、微分積分学09で紹介した全微分です。
\( x_1x_2x_3 \) 空間内の領域上で定義された関数 \( f(x_1,x_2,x_3) \) の全微分は
\[ df=\frac{\partial f}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial f}{\partial x_2}dx_2+\frac{\partial f}{\partial x_3}dx_3 \]
で与えられました。これをもとにして、次を定義します。
関数
\[ a_1=a_1(x_1,x_2,x_3), \quad a_2=a_2(x_1,x_2,x_3), \quad a_3=a_3(x_1,x_2,x_3) \]
に対して、
\[ a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3 \]
で表される形式のことを1次微分形式といい、 \( \omega \) で表す。
また、通常の関数 \( f=f(x_1,x_2,x_3) \) のことを0次微分形式という。
(1) 関数 \( f(x_1,x_2,x_3)=x_1x_2+x_3^2 \) は0次微分形式である。
(2) 関数
\[ a_1=x_2x_3^2, \quad a_2=x_1x_3, \quad a_3=x_2^2 \]
に対して、
\[ (x_2x_3^2)dx_1+(x_1x_3)dx_2+(x_2^2)dx_3 \]
は1次微分形式である。
次に、2次微分形式を定義するために次の演算を導入します。
\( dx_i,dx_j \) に対して、次をみたす演算 \( dx_i\wedge dx_j \) を定める。
(1) (多重線形性)
\[ adx_i\wedge dx_j=a(dx_i\wedge dx_j), \ dx_i\wedge bdx_j=b(dx_i\wedge dx_j) \quad (a,b:定数, \ i,j=1,2,3) \]
(2) (交代性)
\[ dx_i\wedge dx_j=-dx_j\wedge dx_i \quad (i,j=1,2,3) \]
(3) (結合法則)
\[ (dx_i\wedge dx_j)\wedge dx_k=dx_i\wedge (dx_j\wedge dx_k) \quad (i,j,k=1,2,3) \]
(4) (分配法則)
\[ dx_i\wedge (dx_j+dx_k)=dx_i\wedge dx_j+dx_i\wedge d_k \quad (i,j,k=1,2,3) \]
これを微分形式のウェッジ積という。
ウェッジ積には次の性質が成り立ちます。
(1) \[ dx_i\wedge dx_i=0 \quad (i=1,2,3) \]
(2) \( dx_i,dx_j,dx_k \) のウェッジ積においてどれか2つの順番を入れ替えると符号が変わる。例えば、
\[ dx_i\wedge dx_j\wedge dx_k=-dx_i\wedge dx_k \wedge dx_j \quad (i,j,k=1,2,3) \]
(3) 3つのウェッジ積において同じものが2つあれば0となる。例えば、
\[ dx_i\wedge dx_i\wedge dx_j=0 \quad (i,j=1,2,3) \]
(4) 4つ以上のウェッジ積は必ず0となる。
\[ dx_i\wedge dx_j\wedge dx_k \wedge d_{\ell}=0 \quad (i,j,k,\ell=1,2,3) \]
定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)
(1) ウェッジ積の交代性より、
$$ dx_i\wedge dx_i=-dx_i\wedge dx_i \quad (i=1,2,3) $$
となるので、
\[ dx_i\wedge dx_i=0 \quad (i=1,2,3) \]
(2) ウェッジ積の交代性と結合法則と多重線形性より、
$$ \begin{align} dx_i\wedge dx_j\wedge dx_k&=dx_i\wedge (dx_j \wedge dx_k)=dx_i\wedge (-dx_k\wedge dx_j) \\ &=-dx_i\wedge (dx_k\wedge dx_j)=-dx_i\wedge dx_k\wedge dx_j \end{align} $$
他の入れ替えも同様に示せます。
(3) ウェッジ積の交代性と結合法則と多重線形性より、
$$ \begin{align} dx_i\wedge dx_i\wedge dx_j&=(dx_i\wedge dx_i)\wedge dx_j=(-dx_i\wedge dx_i)\wedge dx_j \\ &=-(dx_i\wedge dx_i)\wedge dx_j=-dx_i\wedge dx_i\wedge dx_j \end{align} $$
となるので、
\[ dx_i\wedge dx_i\wedge dx_j=0 \quad (i,j=1,2,3) \]
他の場合も同様に示せます。
(4) \( i,j,k,\ell=1,2,3 \) より、 \( i,j,k,\ell \) の中には同じ数字が存在します。
よって、(3)と同様にして
\[ dx_i\wedge dx_j\wedge dx_k \wedge d_{\ell}=0 \quad (i,j,k,\ell=1,2,3) \]
このウェッジ積を用いて次を定義します。
関数
\[ a_1=a_1(x_1,x_2,x_3), \quad a_2=a_2(x_1,x_2,x_3), \quad a_3=a_3(x_1,x_2,x_3) \]
に対して、
\[ a_1dx_2\wedge dx_3+a_2dx_3\wedge dx_1+a_3dx_1\wedge dx_2 \]
で表される形式のことを2次微分形式といい、 \( \omega \) で表す。また、関数
\[ a=a(x_1,x_2,x_3) \]
に対して、
\[ adx_1\wedge dx_2\wedge dx_3 \]
で表される形式のことを3次微分形式といい、 \( \omega \) で表す。
(1) 2つの1次微分形式
\[ \omega_1=a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3, \quad \omega_2=b_1dx_1+b_2dx_2+b_3dx_3 \]
に対して、 \( \omega_1\wedge \omega_2 \) を求めると、
$$ \begin{align} \omega_1\wedge \omega_2&=(a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3)\wedge (b_1dx_1+b_2dx_2+b_3dx_3) \\ &=a_1b_1dx_1\wedge dx_1+a_1b_2dx_1\wedge dx_2+a_1b_3dx_1\wedge dx_3 \\ & \quad +a_2b_1dx_2\wedge dx_1+a_2b_2dx_2\wedge dx_2+a_2b_3dx_2\wedge dx_3 \\ & \quad +a_3b_1dx_3\wedge dx_1+a_3b_2dx_3\wedge dx_2+a_3b_3dx_3\wedge dx_3 \\ &=(a_1b_2-a_2b_1)dx_1\wedge dx_2+(a_2b_3-a_3b_2)dx_2\wedge dx_3 \\ & \quad +(a_3b_1-a_1b_3)dx_3\wedge dx_1 \end{align} $$
したがって、
\[ \omega_1=a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3, \quad \omega_2=b_1dx_1+b_2dx_2+b_3dx_3 \]
\[ \mathbf{a}=(a_1,a_2,a_3), \quad \mathbf{b}=(b_1,b_2,b_3) \]
\[ \omega_1\wedge \omega_2=c_1dx_2\wedge dx_3+c_2dx_3\wedge dx_1+c_3dx_1\wedge dx_2 \]
とおくと、
\[ (c_1,c_2,c_3)=(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1)=\mathbf{a}\times\mathbf{b} \]
(2) (1)と同様にして、
\[ \omega_1=a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3, \quad \omega_2=b_1dx_1+b_2dx_2+b_3dx_3, \]
\[ \omega_3=c_1dx_1+c_2dx_2+c_3dx_3 \]
\[ \mathbf{a}=(a_1,a_2,a_3), \quad \mathbf{b}=(b_1,b_2,b_3), \quad \mathbf{c}=(c_1,c_2,c_3) \]
とおくと、
\[ \omega_1\wedge \omega_2\wedge \omega_3=\det\begin{pmatrix} \mathbf{a} & \mathbf{b} & \mathbf{c} \end{pmatrix}dx_1\wedge dx_2\wedge dx_3 \]
微分形式の外微分
再び、全微分を見てみましょう。
\[ df=\frac{\partial f}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial f}{\partial x_2}dx_2+\frac{\partial f}{\partial x_3}dx_3 \]
これはつまり0次微分形式 \( f \) の全微分が1次微分形式 \( df \) となることを意味しています。
これをもとにして、次を定義します。
(1) 0次微分形式 \( f \) に対して、1次微分形式
\[ df=\frac{\partial f}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial f}{\partial x_2}dx_2+\frac{\partial f}{\partial x_3}dx_3 \]
を0次微分形式 \( f \) の外微分という。
(つまり、0次微分形式の外微分は全微分のことである)
(2) 1次微分形式
\[ \omega=a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3 \]
に対して、
\[ d\omega=da_1\wedge dx_1+da_2\wedge dx_2+da_3\wedge dx_3 \]
を1次微分形式 \( \omega \) の外微分という。
(3) 2次微分形式
\[ \omega=a_1dx_2\wedge dx_3+a_2dx_3\wedge dx_1+a_3dx_1\wedge dx_2 \]
に対して、
\[ d\omega=da_1\wedge dx_2\wedge dx_3+da_2\wedge dx_3\wedge dx_1+da_3 \wedge dx_1\wedge dx_2 \]
を2次微分形式 \( \omega \) の外微分という。
外微分に関して次の性質が成り立ちます。
(1) 1次微分形式の外微分は2次微分形式となる。くわしくいうと、1次微分形式
\[ \omega=a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3 \]
に対して、 \( \mathbf{A}=(a_1,a_2,a_3) \) とおくと、外微分は
\[ d\omega=b_1dx_2\wedge dx_3+b_2dx_3\wedge dx_1+b_3dx_1\wedge dx_2 \]
となり、
\[ (b_1,b_2,b_3)=\text{rot} \ \mathbf{A}=\nabla \times \mathbf{A} \]
(2) 2次微分形式の外微分は3次微分形式となる。くわしくいうと、2次微分形式
\[ \omega=a_1dx_2\wedge dx_3+a_2dx_3\wedge dx_1+a_3dx_1\wedge dx_2 \]
に対して、 \( \mathbf{A}=(a_1,a_2,a_3) \) とおくと、外微分は
\[ d\omega=bdx_1\wedge dx_2\wedge dx_3 \]
となり、
\[ b=\text{div} \ \mathbf{A}=\nabla \cdot \mathbf{A} \]
(3) 任意の微分形式 \( \omega \) に対して、 \( d^2\omega=d(d\omega)=0 \)
定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)
(1) 1次微分形式
\[ \omega=a_1dx_1+a_2dx_2+a_3dx_3 \]
に対して、
\[ d\omega=da_1\wedge dx_1+da_2\wedge dx_2+da_3\wedge dx_3 \]
となります。よって、
$$ \begin{align} da_1\wedge dx_1&=\left( \frac{\partial a_1}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial a_1}{\partial x_2}dx_2+\frac{\partial a_1}{\partial x_3}dx_3\right) \wedge dx_1 \\ &=-\frac{\partial a_1}{\partial x_2}dx_1\wedge dx_2+\frac{\partial a_1}{\partial x_3}dx_3\wedge dx_1 \end{align} $$
$$ da_2\wedge dx_2=\frac{\partial a_2}{\partial x_1}dx_1\wedge dx_2-\frac{\partial a_2}{\partial x_3}dx_2\wedge dx_3 $$
$$ da_3\wedge dx_3=-\frac{\partial a_3}{\partial x_1}dx_3\wedge dx_1+\frac{\partial a_3}{\partial x_2}dx_2\wedge dx_3 $$
であるので、
$$ \begin{align} d\omega&=\left(\frac{\partial a_3}{\partial x_2}-\frac{\partial a_2}{\partial x_3} \right) dx_2\wedge dx_3+\left( \frac{\partial a_1}{\partial x_3}-\frac{\partial a_3}{\partial x_1}\right) dx_3\wedge dx_1 \\ & \quad +\left( \frac{\partial a_2}{\partial x_1}-\frac{\partial a_1}{\partial x_2}\right) dx_1\wedge dx_2 \end{align} $$
となり、これは2次微分形式となります。とくに、
\[ d\omega=b_1dx_2\wedge dx_3+b_2dx_3\wedge dx_1+b_3dx_1\wedge dx_2, \quad \mathbf{A}=(a_1,a_2,a_3) \]
とおくと、
\[ (b_1,b_2,b_3)=\text{rot} \ \mathbf{A}=\nabla \times \mathbf{A} \]
(2) (1)と同様に示せます。
(3) 0次微分形式 \( f \) に対して、 \( d^2f=0 \) を示します。ほかの次数でも同様に示せます。
$$ df=\frac{\partial f}{\partial x_1}dx_1+\frac{\partial f}{\partial x_2}dx_2+\frac{\partial f}{\partial x_3}dx_3 $$
は1次微分形式であるので、(1)より、
$$ \begin{align} d^2f=d(df)&=\left\{\frac{\partial}{\partial x_2}\left(\frac{\partial f}{\partial x_3} \right)-\frac{\partial}{\partial x_3}\left( \frac{\partial f}{\partial x_2}\right)\right\} dx_2\wedge dx_3 \\ & \quad +\left\{\frac{\partial}{\partial x_3}\left(\frac{\partial f}{\partial x_1} \right)-\frac{\partial}{\partial x_1}\left( \frac{\partial f}{\partial x_3}\right)\right\} dx_3\wedge dx_1 \\ & \quad +\left\{\frac{\partial}{\partial x_1}\left(\frac{\partial f}{\partial x_2} \right)-\frac{\partial}{\partial x_2}\left( \frac{\partial f}{\partial x_1}\right)\right\} dx_1\wedge dx_2 \\ &=\left( \frac{\partial^2f}{\partial x_2\partial x_3}-\frac{\partial^2f}{\partial x_3\partial x_2}\right) dx_2\wedge dx_3 \\ & \quad +\left( \frac{\partial^2f}{\partial x_3\partial x_1}-\frac{\partial^2f}{\partial x_1\partial x_3}\right) dx_3\wedge dx_1 \\ & \quad +\left( \frac{\partial^2f}{\partial x_1\partial x_2}-\frac{\partial^2f}{\partial x_2\partial x_1}\right) dx_1\wedge dx_2 \\ &=0 \end{align} $$
今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。