ベクトル解析12:ガウスの発散定理とガウスの積分

こんにちは、ひかりです。

今回はベクトル解析からガウスの発散定理とガウスの積分について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • ガウスの発散定理について
  • ガウスの積分について
目次

ガウスの発散定理

微分積分学13の記事で3重積分について、ベクトル解析11の記事でベクトル場の面積分について紹介しました。

ガウスの発散定理とはそれらの間の関係について述べたものであり、物理学においてとても重要な定理となります。

定理1 (ガウスの発散定理)

\( V \) を3次元空間内の閉曲面(ある一部分の空間をすべて包み込む曲面) \( S \) で囲まれた有界な閉領域( \( S \) で包み込まれた領域)として、 \( \mathbf{f} \) を \( V \) 上のベクトル場とする。

このとき、次が成り立つ。

$$ \iiint_V \text{div} \ \mathbf{f} dxdydz=\iint_S\mathbf{f}\cdot \mathbf{n}dS $$

ここで、 \( \mathbf{n} \) は \( S \) の外向き単位法線ベクトルである。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

まず、 \( V \) が直方体領域

$$ V=\{(x,y,z)|a_1≦x≦b_1, \ a_2≦y≦b_2, \ a_3≦z≦b_3\} $$

のとき、

$$ \iiint_V \frac{\partial A_3}{\partial z}dxdydz=\iint_SA_3n_3dS \tag{1} $$

を示します。ここで、

$$ \mathbf{A}=(A_1,A_2,A_3), \quad \mathbf{n}=(n_1,n_2,n_3) $$

4つの平面(側面)

$$ x=a_1, \ x=b_1, \ y=a_2, \ y=b_2 $$

上で \( n_3=0 \) となります。

また、平面(下面) \( z=a_3 \) 上で \( n_3=-1, \ dS=dxdy \) であり、平面(上面) \( z=b_3 \) 上で \( n_3=1, \ dS=dxdy \) となります。したがって、

$$ \begin{align} \iint_SA_3n_3dS&=\iint_{S_U}A_3dxdy-\iint_{S_L}A_3dxdy \\ &=\iint_D(A_3(x,y,b_3)-A_3(x,y,a_3))dxdy \end{align} $$

ここで、 \( S_U \) は \( S \) の上面で \( z=b_3 \) をみたし、 \( S_L \) は \( S \) の下面で \( z=a_3 \) をみたします。また、

$$ D=\{ (x,y) | a_1≦x≦b_1, \ a_2≦y≦b_2 \} $$

一方で、

$$ \begin{align} \iiint_V\frac{\partial A_3}{\partial z}dxdydz&=\iint_Ddxdy\int_{a_3}^{b_3}\frac{\partial A_3}{\partial z} dz \\ &= \iint_D(A_3(x,y,b_3)-A_3(x,y,a_3))dxdy \end{align} $$

となるので、まとめると式(1)が成り立ちます。同様にして、

$$ \iiint_V \frac{\partial A_1}{\partial x}dxdydz=\iint_SA_1n_1dS $$

$$ \iiint_V \frac{\partial A_2}{\partial y}dxdydz=\iint_SA_2n_2dS $$

が成り立つので、組み合わせると、

$$ \iiint_V \text{div} \ \mathbf{f} dxdydz=\iint_S\mathbf{f}\cdot \mathbf{n}dS $$

が成り立ちます。

\( V \) が一般の領域の場合は \( V \) を微小な直方体領域に分割することにより、同様のことが成り立ちます。

例1

(1) 次の閉曲面 \( S_1,S_2 \) で囲まれた閉曲面\( S \) を考える。

$$ S_1 : x^2+y^2+z^2=4 \quad (z≧0) $$

$$ S_2 : x^2+y^2≦4 \quad (z=0) $$

このとき、空間ベクトル場

$$ \mathbf{f}(x,y,z)=(2xz,2yz,0) $$

に対して、面積分 \( \displaystyle \iint_S\mathbf{f}\cdot \mathbf{n}dS \) を求める。

ここで、 \( \mathbf{n} \) は \( S \) の外向き単位法線ベクトルである。

$$ \text{div} \ \mathbf{f}=2z+2z+0=4z $$

なので \( V \) を閉曲面 \( S \) で囲まれた閉領域とするとガウスの発散定理より、

$$ \begin{align} \iint_S\mathbf{f}\cdot \mathbf{n}dS&=\iiint_V \text{div} \ \mathbf{f} dxdydz \\ &=4\iiint_V zdxdydz \\ &=4\int_{-2}^2\left\{ \int_{-\sqrt{4-x^2}}^{\sqrt{4-x^2}}\left( \int_0^{\sqrt{4-x^2-y^2}}zdz\right) dy \right\} dx \\ &=2\int_{-2}^2\int_{-\sqrt{4-x^2}}^{\sqrt{4-x^2}}\{4-(x^2+y^2)\}dydx \end{align} $$

ここで、

$$ x=r\cos \theta, \quad y=r\sin \theta \quad (0≦r≦2, \ 0≦\theta≦2\pi) $$

変数変換をすると、ヤコビアン

$$ J=\begin{vmatrix} \frac{\partial x}{\partial r} & \frac{\partial x}{\partial \theta} \\ \frac{\partial y}{\partial r} & \frac{\partial y}{\partial \theta} \end{vmatrix}=\begin{vmatrix} \cos \theta & -r\sin\theta \\ \sin\theta & r\cos \theta \end{vmatrix}=r $$

であるので、

$$ \begin{align} \iint_S\mathbf{f}\cdot \mathbf{n}dS&=2\int_0^{2\pi}d\theta\int_0^2(4-r^2)rdr \\ &=4\pi\int_0^2(4r-r^3)dr=16\pi \end{align} $$


(2) 流体の密度を \( \rho(x,y,z,t) \) 、速度場を \( \mathbf{v}(x,y,z,t) \) とするとき、連続の方程式(質量保存則)

$$ \frac{\partial \rho}{\partial t}+\text{div} \ (\rho \mathbf{v})=0 $$

が成り立つことを示す。

流体の中に任意の有界閉領域 \( V \) をとると、 \( V \) 内の流体の質量 \( M \) は

$$ M=\iiint_V\rho dxdydz $$

よって、単位時間内に \( V \) の内部で増加する流体の質量は

$$ \frac{dM}{dt}=\frac{\partial}{\partial t}\iiint_V\rho dxdydz=\iiint_V\frac{\partial \rho}{\partial t}dxdydz $$

一方で、単位時間内に \( V \) の境界 \( \partial V \) を通じて \( V \) から流出する流体の質量はガウスの発散定理より、

$$ \iint_{\partial V}\rho(\mathbf{v}\cdot \mathbf{n})dS=\iint_{\partial V}(\rho\mathbf{v})\cdot\mathbf{n}dS=\iiint_V\text{div} \ (\rho\mathbf{v})dxdydz $$

また、流体が領域外に流出すると領域内ではその分だけ減少するので、

$$ \frac{dM}{dt}=-\iint_{\partial V}\rho(\mathbf{v}\cdot \mathbf{n})dS $$

したがって、

$$ \iiint_V\left( \frac{\partial \rho}{\partial t}+\text{div} \ (\rho\mathbf{v}) \right) dxdydz=0 $$

よって、 \( V \) は任意なので、

$$ \frac{\partial \rho}{\partial t}+\text{div} \ (\rho \mathbf{v})=0 $$

また、ガウスの発散定理を用いることにより、次が成り立ちます。

定理2

(1) \( f \) を閉曲面 \( S \) で囲まれた領域 \( V \) におけるスカラー値関数とするとき、次が成り立つ。

$$ \iiint_V\nabla f dxdydz=\iint_Sf\mathbf{n}dS $$

(2) \( \mathbf{f} \) を閉曲面 \( S \) で囲まれた領域 \( V \) におけるベクトル値関数とするとき、次が成り立つ。

$$ \iiint_V\text{rot} \ \mathbf{f} dxdydz=\iint_S\mathbf{n}\times \mathbf{f}dS $$

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) \( \mathbf{c} \) を任意の定数ベクトルとすると、ガウスの発散定理より、

$$ \begin{align} & \iiint_V\text{div} \ (f\mathbf{c})dxdydz=\iint_Sf\mathbf{c}\cdot \mathbf{n}dS \\ \iff& \iiint_V(\nabla f)\cdot \mathbf{c}dxdydz=\iint_S\mathbf{c}\cdot f\mathbf{n}dS \\ \iff& \mathbf{c}\cdot \iiint_V\nabla f dxdydz=\mathbf{c}\cdot \iint_Sf\mathbf{n}dS \end{align} $$

いま、 \( \mathbf{c} \) は任意なので、

$$ \iiint_V\nabla f dxdydz=\iint_Sf\mathbf{n}dS $$


(2) \( \mathbf{c} \) を任意の定数ベクトルとすると、ガウスの発散定理より、

$$ \begin{align} & \iiint_V\text{div} \ (\mathbf{f}\times\mathbf{c})dxdydz=\iint_S(\mathbf{f}\times\mathbf{c})\cdot \mathbf{n}dS \\ \iff& \iiint_V(\text{rot} \ \mathbf{f})\cdot \mathbf{c}dxdydz=\iint_S\mathbf{c}\cdot (\mathbf{n}\times\mathbf{f})dS \\ \iff& \mathbf{c}\cdot \iiint_V\text{rot} \ \mathbf{f} dxdydz=\mathbf{c}\cdot \iint_S\mathbf{n}\times\mathbf{f}dS \end{align} $$

いま、 \( \mathbf{c} \) は任意なので、

$$ \iiint_V\text{rot} \ \mathbf{f} dxdydz=\iint_S\mathbf{n}\times \mathbf{f}dS $$

ガウスの積分

ガウスの発散定理を用いた応用として、次のガウスの積分を考えてみましょう。

定理3 (ガウスの積分)

閉曲面 \( S \) に関する任意の位置ベクトル \( \mathbf{p}=(x,y,z) \) に対して、次が成り立つ。

$$ \iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=\begin{cases} 0 & (原点がSの内部にあるとき) \\ 4\pi & (原点がSの外部にあるとき) \\ 2\pi & (原点がS上にあるとき) \end{cases} $$

ここで、 \( p=\|\mathbf{p}\| \) であり、 \( \mathbf{n} \) は \( S \) の外向き単位法線ベクトルである。

また、原点が \( S \) 上にあるときは原点において \( S \) は滑らかであるとする。

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

(i) 原点が \( S \) の外部にあるとき

この場合は被積分関数 \( \frac{\mathbf{p}}{p^3} \) の分母が0にはならないので、ガウスの発散定理と \( \text{div} \ \left( \frac{\mathbf{p}}{p^3} \right)=0 \) より、

$$ \iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=\iiint_V\text{div} \ \left( \frac{\mathbf{p}}{p^3} \right) dxdydz=0 $$


(ii) 原点が \( S \) の内部にあるとき

この場合は被積分関数 \( \frac{\mathbf{p}}{p^3} \) は原点で分母が0となります。

そこで、原点を中心とする \( S \) に含まれる十分小さい半径 \( r \) の球面 \( S_1 \) を考えます。

すると、 \( S \) と \( S_1 \) で囲まれる領域においては原点は含まれないので、(i)と同様にガウスの発散定理より、

$$ \iint_{S+S_1}\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=0 $$

これはつまり、

$$ \iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS+\iint_{S_1}\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=0 $$

となります。ここで、 \( S_1 \) 上では \( p=r \) かつ \( \frac{\mathbf{p}}{p^3},\mathbf{n} \) は逆向きの単位ベクトルであるので、 \( \frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot\mathbf{n}=-1 \) となります。

したがって、

$$ \begin{align} &\iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS-\frac{1}{r^2}\iint_{S_1}dS=0 \\ \iff & \iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS-\frac{1}{r^2}\cdot 4\pi r^2=0 \end{align} $$

となるので、

$$ \iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=4\pi $$


(iii) 原点が \( S \) 上にあるとき

こんどは、原点を中心とする \( S \) に半分含まれる十分小さい半径 \( r \) の半球面 \( S_2 \) を考えます。

すると、 \( S \) と \( S_2 \) で囲まれる領域においては原点は含まれないので、(i)と同様にガウスの発散定理より、

$$ \iint_{S+S_2}\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=0 $$

あとは(ii)と同様にして、

$$ \begin{align} &\iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS+\iint_{S_2}\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=0 \\ \iff&\iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS-\frac{1}{r^2}\iint_{S_2}dS=0 \\ \iff & \iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS-\frac{1}{r^2}\cdot 2\pi r^2=0 \end{align} $$

となるので、

$$ \iint_S\frac{\mathbf{p}}{p^3}\cdot \mathbf{n}dS=2\pi $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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