ベクトル解析09:スカラーポテンシャルとベクトルポテンシャル

こんにちは、ひかりです。

今回はベクトル解析からスカラーポテンシャルとベクトルポテンシャルについて解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • スカラーポテンシャルについて
  • ベクトルポテンシャルについて
  • ヘルムホルツの定理について
目次

スカラーポテンシャル

空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) に対して、スカラーポテンシャルを次で定義します。

定義1 (スカラーポテンシャル)

空間ベクトル場

$$ \mathbf{f}(x,y,z)=(f(x,y,z),g(x,y,z),h(x,y,z)) $$

に対して、 \( \mathbf{f}=\nabla \varphi \) となるスカラー値関数 \( \varphi \) が存在するとき、 \( \varphi \) を \( \mathbf{f} \) のスカラーポテンシャルといい、 \( \mathbf{f} \) はスカラーポテンシャル \( \varphi \) をもつという。

空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) がスカラーポテンシャルをもつことの必要十分条件として次のことが成り立ちます。

定理1 (スカラーポテンシャルをもつための必要十分条件)

空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) がスカラーポテンシャルをもつための必要十分条件は \( \text{rot} \ \mathbf{f}=\mathbf{0} \) である。つまり、

$$ \mathbf{f}=\nabla \varphi \ \iff \ \text{rot} \ \mathbf{f}=\mathbf{0} $$

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

(\(\Rightarrow\)) \( \mathbf{f}=\nabla \varphi \) を \( \text{rot} \ \mathbf{f} \) に代入すると、ベクトル解析08の定理4より、

$$ \text{rot} \ \mathbf{f}=\text{rot} \ (\nabla \varphi)=\text{rot} \ \text{grad} \ \varphi=\mathbf{0} $$


(\(\Leftarrow\)) \( \mathbf{f}=(f,g,h) \) として、\( \varphi \) を次のようにおくと \( \mathbf{f}=\nabla \varphi \) が成り立ちます。

$$ \varphi=\int_0^xf(x,y,z)dx+\int_0^yg(0,y,z)dy+\int_0^zh(0,0,z)dz $$

実際、 \( \text{rot} \ \mathbf{f}=\mathbf{0} \) より、

$$ \text{rot} \ \mathbf{f}=\left( \frac{\partial h}{\partial y}-\frac{\partial g}{\partial z},\frac{\partial f}{\partial z}-\frac{\partial h}{\partial x},\frac{\partial g}{\partial x}-\frac{\partial f}{\partial y}\right)=(0,0,0) $$

であるので、

$$ \frac{\partial h}{\partial y}=\frac{\partial g}{\partial z}, \quad \frac{\partial f}{\partial z}=\frac{\partial h}{\partial x}, \quad \frac{\partial g}{\partial x}=\frac{\partial f}{\partial y} $$

したがって、

$$ \begin{align} \frac{\partial \varphi}{\partial x}&=\frac{\partial}{\partial x}\left\{ \int_0^xf(x,y,z)dx+\int_0^yg(0,y,z)dy+\int_0^zh(0,0,z)dz \right\} \\ &=f(x,y,z)=f \end{align} $$

$$ \begin{align} \frac{\partial \varphi}{\partial y}&=\frac{\partial}{\partial y}\left\{ \int_0^xf(x,y,z)dx+\int_0^yg(0,y,z)dy+\int_0^zh(0,0,z)dz \right\} \\ &=\int_0^x\frac{\partial f(x,y,z)}{\partial y}dx+\frac{\partial}{\partial y}\int_0^yg(0,y,z)dy \\ &=\int_0^x\frac{\partial g(x,y,z)}{\partial x}dx+g(0,y,z) \\ &=g(x,y,z)-g(0,y,z)+g(0,y,z)=g \end{align} $$

$$ \begin{align} \frac{\partial \varphi}{\partial z}&=\frac{\partial}{\partial z}\left\{ \int_0^xf(x,y,z)dx+\int_0^yg(0,y,z)dy+\int_0^zh(0,0,z)dz \right\} \\ &=\int_0^x\frac{\partial f(x,y,z)}{\partial z}dx+\int_0^y\frac{\partial g(0,y,z)}{\partial z}dy+\frac{\partial}{\partial z}\int_0^zh(0,0,z)dz \\ &=\int_0^x\frac{\partial h(x,y,z)}{\partial x}dx+\int_0^y\frac{\partial h(0,y,z)}{\partial y}dy+h(0,0,z) \\ &=h(x,y,z)-h(0,y,z)+h(0,y,z)-h(0,0,z)+h(0,0,z)=h \end{align} $$

より、 \( \mathbf{f}=\nabla \varphi \) が成り立ちます。

例1

(1) 次の空間ベクトル場を考える。

$$ \mathbf{f}(x,y,z)=(x^2y,yz,z^2) $$

これがスカラーポテンシャルをもつかどうかを調べる。

$$ \begin{align} \text{rot} \ \mathbf{f}&=\nabla \times \mathbf{f}=\begin{vmatrix} \mathbf{e}_1 & \mathbf{e}_2 & \mathbf{e}_3 \\ \frac{\partial}{\partial x} & \frac{\partial}{\partial y} & \frac{\partial}{\partial z} \\ x^2y & yz & z^2 \end{vmatrix} \\ &=\left( \frac{\partial}{\partial y}z^2-\frac{\partial}{\partial z}(yz),\frac{\partial}{\partial z}(x^2y)-\frac{\partial}{\partial x}z^2,\frac{\partial}{\partial x}(yz)-\frac{\partial}{\partial y}(x^2y) \right) \\ &=(-y,0,-x^2) \end{align} $$

したがって、 \( \text{rot} \ \mathbf{f}\not=\mathbf{0} \) であるので、定理1より \( \mathbf{f} \) はスカラーポテンシャルをもたない。


(2) 次の空間ベクトル場を考える。

$$ \mathbf{f}(x,y,z)=(y+z\sin (xz),x,x\sin (xz)) $$

これがスカラーポテンシャルをもつかどうかを調べる。

$$ \begin{align} \text{rot} \ \mathbf{f}&=\nabla \times \mathbf{f}=\begin{vmatrix} \mathbf{e}_1 & \mathbf{e}_2 & \mathbf{e}_3 \\ \frac{\partial}{\partial x} & \frac{\partial}{\partial y} & \frac{\partial}{\partial z} \\ y+z\sin (xz) & x & x\sin (xz) \end{vmatrix} \\ &=(0,\sin(xz)+xz\cos(xz)-\sin(xz)-xz\cos(xz),1-1)=(0,0,0) \end{align} $$

したがって、 \( \text{rot} \ \mathbf{f}=\mathbf{0} \) であるので、定理1より \( \mathbf{f} \) はスカラーポテンシャルをもつ。実際、定理1の証明のように

$$ \begin{align} \varphi&=\int_0^xf(x,y,z)dx+\int_0^yg(0,y,z)dy+\int_0^zh(0,0,z)dz \\ &=\int_0^x(y+z\sin (xz))dx+\int_0^y0dy+\int_0^z0dz \\ &=[yx]^x_0+[-\cos(xz)]^x_0=yx-\cos(xz) \end{align} $$

とすると、 \( \nabla \varphi=\mathbf{f} \) となる。

ベクトルポテンシャル

空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) に対して、ベクトルポテンシャルを次で定義します。

定義2 (ベクトルポテンシャル)

空間ベクトル場

$$ \mathbf{f}(x,y,z)=(f(x,y,z),g(x,y,z),h(x,y,z)) $$

に対して、 \( \mathbf{f}=\text{rot} \ \mathbf{g} \) となるベクトル値関数 \( \mathbf{g} \) が存在するとき、 \( \mathbf{g} \) を \( \mathbf{f} \) のベクトルポテンシャルといい、 \( \mathbf{f} \) はベクトルポテンシャル \( \mathbf{g} \) をもつという。

空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) がベクトルポテンシャルをもつことの必要十分条件として次のことが成り立ちます。

定理2 (ベクトルポテンシャルをもつための必要十分条件)

空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) がベクトルポテンシャルをもつための必要十分条件は \( \text{div} \ \mathbf{f}=0 \) である。つまり、

$$ \mathbf{f}=\text{rot} \ \mathbf{g} \ \iff \ \text{div} \ \mathbf{f}=0 $$

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

(\(\Rightarrow\)) \( \mathbf{f}=\text{rot} \ \mathbf{g} \) を \( \text{div} \ \mathbf{f} \) に代入すると、ベクトル解析08の定理4より、

$$ \text{div} \ \mathbf{f}=\text{div} \ (\text{rot} \ \mathbf{g})=0 $$


(\(\Leftarrow\)) \( \mathbf{f}=(f,g,h) \) として、\( \mathbf{g} \) を次のようにおくと \( \mathbf{f}=\text{rot} \ \mathbf{g} \) が成り立ちます。

$$ \mathbf{g}=\left(\int_0^zg(x,y,z)dz,-\int_0^zf(x,y,z)dz+\int_0^xh(x,y,0)dx,0\right) $$

実際、 \( \text{div} \ \mathbf{f}=0 \) より、

$$ \text{div} \ \mathbf{f}=\frac{\partial f}{\partial x}+\frac{\partial g}{\partial y}+\frac{\partial h}{\partial z}=0 $$

であるので、

$$ \frac{\partial f}{\partial x}+\frac{\partial g}{\partial y}=-\frac{\partial h}{\partial z} $$

したがって、

$$ \begin{align} \text{rot} \ \mathbf{g}&=\text{rot} \ \left(\int_0^zg(x,y,z)dz,-\int_0^zf(x,y,z)dz+\int_0^xh(x,y,0)dx,0\right) \\ &=\left( \frac{\partial}{\partial z}\left\{ \int_0^zf(x,y,z)dz-\int_0^xh(x,y,0)dx \right\},\frac{\partial}{\partial z}\int_0^zg(x,y,z)dz, \right. \\ &\left. \quad \frac{\partial}{\partial x}\left\{ -\int_0^zf(x,y,z)dz+\int_0^xh(x,y,0)dx \right\}-\frac{\partial}{\partial y}\int_0^zg(x,y,z)dz \right) \\ &=\left( f(x,y,z),g(x,y,z), \right. \\ &\left. \quad -\int_0^z\left( \frac{\partial f(x,y,z)}{\partial x}+\frac{\partial g(x,y,z)}{\partial y} \right) dz+h(x,y,0) \right) \\ &=\left( f(x,y,z),g(x,y,z),\int_0^z\frac{\partial h(x,y,z)}{\partial z}dz+h(x,y,0) \right) \\ &=(f(x,y,z),g(x,y,z),h(x,y,z)-h(x,y,0)+h(x,y,0)) \\ &=(f,g,h)=\mathbf{f} \end{align} $$

より、 \( \mathbf{f}=\text{rot} \ \mathbf{g} \) が成り立ちます。

例2

(1) 次の空間ベクトル場を考える。

$$ \mathbf{f}(x,y,z)=(x^2,xy,xyz) $$

これがベクトルポテンシャルをもつかどうかを調べる。

$$ \text{div} \ \mathbf{f}=\frac{\partial}{\partial x}x^2+\frac{\partial}{\partial y}(xy)+\frac{\partial}{\partial z}(xyz)=3x+xy $$

したがって、 \( \text{div} \ \mathbf{f}\not=0 \) であるので、定理2より \( \mathbf{f} \) はベクトルポテンシャルをもたない。


(2) 次の空間ベクトル場を考える。

$$ \mathbf{f}(x,y,z)=(2x,-y,-z) $$

これがベクトルポテンシャルをもつかどうかを調べる。

$$ \text{div} \ \mathbf{f}=\frac{\partial}{\partial x}(2x)+\frac{\partial}{\partial y}(-y)+\frac{\partial}{\partial z}(-z)=0 $$

したがって、 \( \text{div} \ \mathbf{f}=0 \) であるので、定理2より \( \mathbf{f} \) はベクトルポテンシャルをもつ。実際、定理2の証明のように

$$ \begin{align} \mathbf{g}&=\left( \int_0^zg(x,y,z)dx,-\int_0^zf(x,y,z)dz+\int_0^xh(x,y,0)dx,0 \right) \\ &=\left( \int_0^z(-y)dx,-\int_0^z(2x)dz+\int_0^x0dx,0 \right) \\ &=(-yz,-2xz,0) \end{align} $$

とすると、 \( \text{rot} \ \mathbf{g}=\mathbf{f} \) となる。

ヘルムホルツの定理

最後に、定理2に関連して \( \text{div} \ \mathbf{f}\not=0 \) のときに空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) がどういう形をしているかを考えてみましょう。

一般に、空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) は考えている領域があまり複雑でなければ次のように分解することができます。

定理3 (ヘルムホルツの定理)

1つの滑らかな曲面で囲まれた単連結な領域 \( \Omega\subset \mathbb{R}^3 \) 上で定義された任意の空間ベクトル場 \( \mathbf{f} \) は \( \Omega \) 上のスカラー場 \( \varphi \) と空間ベクトル場 \( \mathbf{g} \) が存在して、次のように分解することができる。

\[ \mathbf{f}=\text{grad} \ \varphi+\text{rot} \ \mathbf{g} \]

証明は省略します。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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