ベクトル解析05:多変数のベクトル値関数の微分積分

こんにちは、ひかりです。

今回はベクトル解析から多変数のベクトル値関数の微分積分について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 2変数のベクトル値関数の微分について
  • 2変数のベクトル値関数の積分について
  • 位置ベクトルと曲面の面積について
目次

2変数のベクトル値関数の微分

ベクトル解析02の記事では、1変数のベクトル値関数の微分を紹介しました。

ここでは、多変数、とくに2変数のベクトル値関数の微分を考えます。(3変数以上の場合も同様のことがいえます)

2つのスカラー \( (u,v) \) に対して、1つのベクトル \( \mathbf{a}(u,v)=(a_1(u,v),a_2(u,v),a_3(u,v)) \) を対応させる2変数関数 \( \mathbf{a}(u,v) \) のことを2変数のベクトル値関数といいます。

1変数と同様にして、2変数のベクトル値関数の偏微分を次で定義します。

定義1 (2変数のベクトル値関数の偏微分)

領域 \( D \) 上の2変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(u,v)=(a_1(u,v),a_2(u,v),a_3(u,v)) \) に対して、

\[ \frac{\partial a_1(u,v)}{\partial u}=\lim_{h\to 0}\frac{a_1(u+h,v)-a_1(u,v)}{h}, \]

\[ \frac{\partial a_2(u,v)}{\partial u}=\lim_{h\to 0}\frac{a_2(u+h,v)-a_2(u,v)}{h}, \]

\[ \frac{\partial a_3(u,v)}{\partial u}=\lim_{h\to 0}\frac{a_3(u+h,v)-a_3(u,v)}{h} \]

が存在するとき、 \( \mathbf{a}(u,v) \) は \( u \) に関して偏微分可能であるという。

このとき、 \( \mathbf{a}(u,v) \) の \( u \) に関する偏導関数 \( \frac{\partial\mathbf{a}(u,v)}{\partial u} \) は各成分の導関数を用いて次のように表される。

\[ \frac{\partial\mathbf{a}(u,v)}{\partial u}=\left(\frac{\partial a_1(u,v)}{\partial u},\frac{\partial a_2(u,v)}{\partial u},\frac{\partial a_3(u,v)}{\partial u}\right) \]

同様に \( v \) に関して偏微分可能であることや \( v \) に関する偏導関数も定義できる。

さらに、高階導関数もスカラー値関数と同様に定義される。

シュワルツの定理についても、スカラー値関数と同様に成り立ちます。

定理1 (シュワルツの定理)

領域 \( D \) 上の点 \( (a,b) \) のまわりで \( \frac{\partial \mathbf{a}}{\partial u}, \ \frac{\partial \mathbf{a}}{\partial v}, \ \frac{\partial^2 \mathbf{a}}{\partial u\partial v} \) が存在して、 \( \frac{\partial^2 \mathbf{a}}{\partial u\partial v} \) が点 \( (a,b) \) で連続であるならば、 \( \frac{\partial^2 \mathbf{a}}{\partial v\partial u}(a,b) \) も存在して、

$$ \frac{\partial^2 \mathbf{a}}{\partial u\partial v}(a,b)=\frac{\partial^2 \mathbf{a}}{\partial v\partial u}(a,b) $$

また、全微分についても同様に定義されます。

定義2 (全微分可能性)

領域 \( D \) 上の2変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(u,v)=(a_1(u,v),a_2(u,v),a_3(u,v)) \) が点 \( (a,b) \) で全微分可能であるとは、

$$ \lim_{(u,v)\to(a,b)}\frac{a_1(u,v)-a_1(a,b)-A_1(u-a)-B_1(v-b)}{\sqrt{(u-a)^2+(v-b)^2}}=0 $$

$$ \lim_{(u,v)\to(a,b)}\frac{a_2(u,v)-a_2(a,b)-A_2(u-a)-B_2(v-b)}{\sqrt{(u-a)^2+(v-b)^2}}=0 $$

$$ \lim_{(u,v)\to(a,b)}\frac{a_3(u,v)-a_3(a,b)-A_3(u-a)-B_3(v-b)}{\sqrt{(u-a)^2+(v-b)^2}}=0 $$

となる定数 \( A_i,B_i \ (i=1,2,3) \) が存在することをいう。

定義3 (全微分)

領域 \( D \) 上の2変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(u,v)=(a_1(u,v),a_2(u,v),a_3(u,v)) \) が点 \( (a,b) \) で全微分可能であるとき、 \( \mathbf{a}(u,v) \) の点 \( (a,b) \) における全微分 \( d\mathbf{a} \) を次で定める。

$$ d\mathbf{a}=d\mathbf{a}(a,b)=\frac{\partial \mathbf{a}}{\partial u}(a,b)du+\frac{\partial \mathbf{a}}{\partial v}(a,b)dv $$

例1

次の2変数のベクトル値関数を考える。

$$ \mathbf{a}(u,v)=\left(\frac{1}{u},uv,3\right) $$

このとき、

$$ \frac{\partial \mathbf{a}}{\partial u}(u,v)=\left( -\frac{1}{u^2},v,0 \right), \quad \frac{\partial \mathbf{a}}{\partial v}(u,v)=(0,u,0) $$

$$ \begin{align} d\mathbf{a}&=\frac{\partial \mathbf{a}}{\partial u}(a,b)du+\frac{\partial \mathbf{a}}{\partial v}(a,b)dv \\ &=\left( -\frac{1}{u^2},v,0 \right)du+(0,u,0)dv \\ &=\left( -\frac{1}{u^2}du,vdu+udv,0\right) \end{align} $$

2変数のベクトル値関数の積分

ベクトル解析04の記事にて、1変数のベクトル値関数の積分について定義しました。

同様に、2変数のベクトル値関数に対しても次のように重積分を定義することができます。

定義4 (2変数のベクトル値関数の重積分)

領域 \( D \) 上の2変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(u,v)=(a_1(u,v),a_2(u,v),a_3(u,v)) \) に対して、その重積分 \( \displaystyle \iint_D \mathbf{a}(u,v)dudv \) を次で定義する。

$$ \iint_D \mathbf{a}(u,v)dudv=\left( \iint_D a_1(u,v)dudv, \iint_D a_2(u,v)dudv, \iint_D a_3(u,v)dudv \right) $$

例2

次の2変数のベクトル値関数を考える。

$$ \mathbf{a}(u,v)=\left(\frac{1}{u},uv,3\right) $$

このとき、領域 \( D=[1,2]\times[0,1] \) 上の重積分は

$$ \begin{align} &\iint_D\mathbf{a}(u,v)dudv \\ &=\left( \int_0^1\int_1^2 \frac{1}{u}dudv,\int_0^1\int_1^2 uvdudv,\int_0^1\int_1^2 3dudv\right) \\ &=\left( \int_1^2\frac{1}{u}du,\left(\int_1^2udu\right)\left(\int_0^1vdv\right),3\right) \\ &=\left(\log2,\frac{3}{4},3\right) \end{align} $$

位置ベクトルと曲面の面積

ベクトル解析03の記事にて、3次元空間上の曲線を1変数のベクトル値関数(位置ベクトル)で表すことを考えました。

ここでは、3次元空間上の曲面を2変数のベクトル値関数で表してみましょう。

定義5 (位置ベクトル)

3次元空間上の曲面 \( S \) をパラメータ \( (u,v) \) で媒介変数表示

$$ \begin{cases} x=x(u,v) \\ y=y(u,v) \\ z=z(u,v) \end{cases} $$

をする。このとき、曲面 \( S \) の動点 \( P \) の座標は原点からのベクトル値関数

$$ \mathbf{p}(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v)) $$

で表現することができる。

この \( \mathbf{p}(u,v) \) を位置ベクトルという。

また、この位置ベクトル

$$ \mathbf{p}(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v)) $$

に対して、 \( v \) を固定して \( u \) に関する関数とみると、媒介変数が1つなので曲線が得られる。

この曲線のことを \( u \)-曲線という。

同様に \( u \) を固定して \( v \) に関する関数とみることにより得られる曲線を \( v \)-曲線という。

また、接線ベクトルについても同様に定義されます。

定義6 (接線ベクトル)

曲面 \( S \) の位置ベクトル

$$ \mathbf{p}(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v)) $$

に対して、パラメータ \( u \) で偏微分した偏導関数

$$ \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial u}(u,v)=\left(\frac{\partial x}{\partial u}(u,v),\frac{\partial y}{\partial u}(u,v),\frac{\partial z}{\partial u}(u,v)\right) $$

を曲面 \( S \) の \( u \)-曲線上の点 \( P \) における接線ベクトルという。

同様に、パラメータ \( v \) で偏微分した偏導関数

$$ \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial v}(u,v)=\left(\frac{\partial x}{\partial v}(u,v),\frac{\partial y}{\partial v}(u,v),\frac{\partial z}{\partial v}(u,v)\right) $$

を曲面 \( S \) の \( v \)-曲線上の点 \( P \) における接線ベクトルという。

このとき、領域 \( D \) 上の曲面 \( S \) が関数 \( z=f(x,y) \) と表される場合を考えると、 \( S \) の面積 \( A \) は微分積分学15より次のようになります。

$$ A=\iint_Dd\sigma=\iint_D \sqrt{1+(f_x)^2+(f_y)^2}dxdy $$

また、この場合は位置ベクトルのパラメータとして \( x,y \) がそのまま使えて、

$$ \mathbf{p}(x,y)=(x,y,f(x,y)) $$

となるので、

$$ \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial x}=\left(1,0,\frac{\partial f}{\partial x}\right), \quad \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial y}=\left(0,1,\frac{\partial f}{\partial y}\right) $$

$$ \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial x}\times \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial y}=\left( -\frac{\partial f}{\partial x},-\frac{\partial f}{\partial y},1 \right) $$

したがって、

$$ \begin{align} A&=\iint_D \sqrt{1+(f_x)^2+(f_y)^2}dxdy \\ &=\iint_D\left\|\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial x}\times \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial y}\right\|dxdy \end{align} $$

まとめると、

定理2 (曲面の面積)

領域 \( D \) 上の曲面 \( S \) が関数 \( z=f(x,y) \) と表される場合、 \( S \) の面積 \( A \) はその接線ベクトル \( \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial x},\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial y} \) を用いて次のように表すことができる。

$$ A=\iint_D\left\|\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial x}\times \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial y}\right\|dxdy=\iint_D \sqrt{1+(f_x)^2+(f_y)^2}dxdy $$

実は定理2の前半の等式は一般の曲面 \( S \) においても成り立ちます。

定理3 (曲面の面積)

領域 \( D \) 上の曲面 \( S \) が位置ベクトル

$$ \mathbf{p}(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v)) \quad ((u,v)\in D) $$

で表現されているとする。このとき、 \( S \) の面積 \( A \) はその接線ベクトル \( \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial u},\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial v} \) を用いて次のように表すことができる。

$$ A=\iint_DdS=\iint_D\left\|\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial u}\times \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial v}\right\|dudv $$

ここで、

$$ dS=\left\|\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial u}\times \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial v}\right\|dudv $$

であり、これを曲面 \( S \) の面積要素または面素という。

例3

単位球面

$$ \mathbf{p}(\theta,\varphi)=(\sin \theta\cos\varphi,\sin\theta\sin\varphi,\cos\theta) $$

の \( 0≦\theta≦\pi,0≦\varphi≦2\pi \) 上の面積 \( A \) を求める。

$$ \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \theta}(\theta,\varphi)=(\cos\theta\cos \varphi,\cos\theta\sin\varphi,-\sin\theta) $$

$$ \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \varphi}(\theta,\varphi)=(-\sin\theta\sin \varphi,\sin\theta\cos\varphi,0) $$

$$ \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \theta}\times\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \varphi}=(\sin^2\theta\cos\varphi,\sin^2\theta\sin\varphi,\sin\theta\cos\theta) $$

であるので、 \( 0≦\theta≦\pi \) より、

$$ \begin{align} \left\|\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \theta}\times\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \varphi}\right\|&=|\sin\theta|=\sin \theta \end{align} $$

したがって、

$$ \begin{align} A&=\iint_D\left\|\frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \theta}\times \frac{\partial \mathbf{p}}{\partial \varphi}\right\|d\theta d\varphi \\ &=\int_0^{\pi}\sin\theta d\theta\int_0^{2\pi}1d\varphi=4\pi \end{align} $$

これは球の表面積の公式と一致する。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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