ベクトル解析04:1変数のベクトル値関数の積分

こんにちは、ひかりです。

今回はベクトル解析から1変数のベクトル値関数の積分について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 1変数のベクトル値関数の不定積分・定積分について
  • 1変数のベクトル値関数の積分公式について
  • 1変数のベクトル値関数の微分方程式について
目次

1変数のベクトル値関数の不定積分・定積分

ベクトル解析02の記事では1変数のベクトル値関数の微分について紹介しました。

ここでは、1変数のベクトル値関数の積分について考えてみましょう。

微分のときと同様にして、各成分に対して積分をすることによって定義します。

定義1 (1変数のベクトル値関数の不定積分)

1変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t)=(a_1(t),a_2(t),a_3(t)) \) に対して、その不定積分 \( \displaystyle \int \mathbf{a}(t)dt \) を次で定義する。

$$ \int \mathbf{a}(t)dt=\left( \int a_1(t)dt, \int a_2(t)dt, \int a_3(t)dt \right) $$

ここで、

$$ \int a_1(t)dt=A_1(t)+C_1, \ \int a_2(t)dt=A_2(t)+C_2, \quad \int a_3(t)dt=A_3(t)+C_3 $$

$$ \mathbf{A}(t)=\begin{pmatrix} A_1(t) \\ A_2(t) \\ A_3(t) \end{pmatrix}, \quad \mathbf{C}=\begin{pmatrix} C_1 \\ C_2 \\ C_3 \end{pmatrix} $$

( \( A_1,A_2,A_3 \) は \( a_1,a_2,a_3 \) の原始関数、 \( C_1,C_2,C_3 \) は積分定数)

とするとき、この不定積分を次のように表す。

$$ \int \mathbf{a}(t)dt=\mathbf{A}(t)+\mathbf{C} $$

定義2 (1変数のベクトル値関数の定積分)

1変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t)=(a_1(t),a_2(t),a_3(t)) \) に対して、その定積分 \( \displaystyle \int_{t_1}^{t_2} \mathbf{a}(t)dt \) を次で定義する。

$$ \int_{t_1}^{t_2} \mathbf{a}(t)dt=\left( \int_{t_1}^{t_2} a_1(t)dt, \int_{t_1}^{t_2} a_2(t)dt, \int_{t_1}^{t_2} a_3(t)dt \right) $$

ここで、 \( A_1,A_2,A_3 \) を \( a_1,a_2,a_3 \) の原始関数として、

$$ \mathbf{A}(t)=\begin{pmatrix} A_1(t) \\ A_2(t) \\ A_3(t) \end{pmatrix} $$

とするとき、この定積分を次のように表す。

$$ \int_{t_1}^{t_2} \mathbf{a}(t)dt=\mathbf{A}(t_2)-\mathbf{A}(t_1) $$

例1

次の1変数のベクトル値関数を考える。

$$ \mathbf{a}(t)=\left(\frac{1}{t},1,t^3\right), \quad \mathbf{b}(t)=(t-3,3t^2+t,1) $$

このとき、

$$ \begin{align} \int \mathbf{a}(t)dt&=\left( \int \frac{1}{t}dt,\int 1dt,\int t^3 dt \right) \\ &=\left( \log|t|+C_1,t+C_2,\frac{1}{4}t^4+C_3 \right) \end{align} $$

$$ \begin{align} \int_0^1 \mathbf{b}(t)dt&=\left( \int_0^1 (t-3)dt,\int_0^1 (3t^2+t)dt,\int_0^1 1dt \right) \\ &=\left( -\frac{5}{2},\frac{3}{2},1 \right) \end{align} $$

1変数のベクトル値関数の積分公式

スカラー値関数の場合と似たようにして、ベクトル値関数に対しても次のような積分公式が成り立ちます。

定理1 (ベクトル値関数の積分公式1)

ベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t),\mathbf{b}(t) \) 、定数 \( k \) 、定数ベクトル \( \mathbf{k} \) に対して、次が成り立つ。

(1) $$ \int k\mathbf{a}(t)dt=k\int \mathbf{a}(t)dt $$

(2) $$ \int \{\mathbf{a}(t)+\mathbf{b}(t)\}dt=\int \mathbf{a}(t)dt+\int \mathbf{b}(t)dt $$

(3) $$ \int \mathbf{k}\cdot \mathbf{a}(t)dt=\mathbf{k}\cdot \left\{ \int \mathbf{a}(t)dt \right\} $$

(4) $$ \int \mathbf{k}\times \mathbf{a}(t)dt=\mathbf{k}\times \left\{ \int \mathbf{a}(t)dt\right\} $$

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

(3)のみ示します。

((1),(2)は積分の線形性から、(4)は(3)と同様に示せます)

(3) $$ \begin{align} \int \mathbf{k}\cdot \mathbf{a}(t)dt&=\int (k_1,k_2,k_3)\cdot (a_1(t),a_2(t),a_3(t))dt \\ &=\int (k_1a_1(t)+k_2a_2(t)+k_3a_3(t))dt \\ &=k_1\int a_1(t)dt+k_2\int a_2(t)dt+k_3\int a_3(t)dt \\ &=(k_1,k_2,k_3)\cdot \left( \int a_1(t)dt,\int a_2(t)dt,\int a_3(t)dt \right) \\ &=\mathbf{k}\cdot \left\{ \int \mathbf{a}(t)dt \right\} \end{align} $$

定理2 (ベクトル値関数の積分公式2)

ベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t),\mathbf{b}(t) \) とスカラー値関数 \( f(t) \) が \( t \) に関して微分可能であるとすると、次が成り立つ。

(1) $$ \int f(t)\mathbf{a}'(t)dt=f(t)\mathbf{a}(t)-\int f'(t)\mathbf{a}(t)dt $$

(2) $$ \int f'(t)\mathbf{a}(t)dt=f(t)\mathbf{a}(t)-\int f(t)\mathbf{a}'(t)dt $$

(3) $$ \int \mathbf{a}(t)\cdot \mathbf{b}'(t)dt=\mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{b}(t)-\int \mathbf{a}'(t)\cdot\mathbf{b}(t)dt $$

(4) $$ \int \mathbf{a}(t)\times \mathbf{b}'(t)dt=\mathbf{a}(t)\times\mathbf{b}(t)-\int \mathbf{a}'(t)\times\mathbf{b}(t)dt $$

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1),(4)のみ示します。

((2)は(1)と同様に、(3)は(4)と同様に示せます)

(1) $$ \begin{align} \int f(t)\mathbf{a}'(t)dt&=\int f(t)(a’_1(t),a’_2(t),a’_3(t))dt \\ &=\left( \int f(t)a’_1(t)dt,\int f(t)a’_2(t)dt,\int f(t)a’_3(t)dt \right) \\ &=\left( f(t)a_1(t)-\int f'(t)a_1(t)dt,f(t)a_2(t)-\int f'(t)a_2(t)dt, \right. \\ & \quad \quad \quad \left. f(t)a_3(t)-\int f'(t)a_3(t)dt \right) \\ &=f(t)(a_1(t),a_2(t),a_3(t))-\int f'(t)(a_1(t),a_2(t),a_3(t))dt \\ &=f(t)\mathbf{a}(t)-\int f'(t)\mathbf{a}(t)dt \end{align} $$


(4) $$ \begin{align} \int \mathbf{a}(t)\times \mathbf{b}'(t)dt&=\int (a_1(t),a_2(t),a_3(t))\times (b’_1(t),b’_2(t),b’_3(t))dt \\ &=\int (a_2b’_3-a_3b’_2,a_3b’_1-a_1b’_3,a_1b’_2-a_2b’_1) dt \\ &=\left( \int (a_2b’_3-a_3b’_2)dt,\int (a_3b’_1-a_1b’_3)dt,\int (a_1b’_2-a_2b’_1)dt \right) \\ &=(a_2b_3-a_3b_2,a_3b_1-a_1b_3,a_1b_2-a_2b_1) \\ & \quad \quad \quad -\int (a’_2b_3-a’_3b_2,a’_3b_1-a’_1b_3,a’_1b_2-a’_2b_1)dt \\ &=\mathbf{a}(t)\times\mathbf{b}(t)-\int \mathbf{a}'(t)\times\mathbf{b}(t)dt \end{align} $$

例2

次の1変数のベクトル値関数とスカラー値関数を考える。

$$ \mathbf{a}(t)=(2t,t^2-3,1), \quad \mathbf{b}(t)=(t-2,t^2+2t,t), \quad f(t)=3t $$

このとき、

$$ \begin{align} \int f'(t)\mathbf{a}(t)dt&=f(t)\mathbf{a}(t)-\int f(t)\mathbf{a}'(t)dt \\ &=3t(2t,t^2-3,1)-\int 3t(2,2t,0)dt \\ &=(6t^2,3t^3-9t,3t)-\left( \int 6tdt,\int 6t^2,\int 0dt \right) \\ &=(6t^2,3t^3-9t,3t)-(3t^2+C_1,2t^3+C_2,C_3) \\ &=(3t^2-C_1,t^3-9t-C_2,3t-C_3) \end{align} $$

$$ \begin{align} \int \mathbf{a}(t)\times \mathbf{b}'(t)dt&=\int (2t,t^2-3,1)\times(1,2t+2,1) dt \\ &=\int (t^2-2t-5,-2t+1,3t^2+4t+3)dt \\ &=\left( \int (t^2-2t-5)dt,\int (-2t+1)dt,\int (3t^2+4t+3)dt \right) \\ &=\left( \frac{1}{3}t^3-t^2-5t+C_1,-t^2+t+C_2,t^3+2t^2+3t+C_3 \right) \end{align} $$

(後半は積分公式を用いない方が簡単に計算できる)

1変数のベクトル値関数の微分方程式

スカラー値関数での微分方程式はベクトル値関数に拡張することができます。

スカラー値関数の微分方程式については「微分方程式」シリーズをご覧ください。

ここでは、一例として1階線形微分方程式を考えてみましょう。

(スカラー値関数の場合は微分方程式03にて解説しています)

定義1 (1階線形微分方程式)

1変数のベクトル値関数 \( \mathbf{x}(t)=(x_1(t),x_2(t),x_3(t)) \) に対して、微分方程式が

$$ \mathbf{x}'(t)+p(t)\mathbf{x}(t)=\mathbf{q}(t) \tag{1} $$

という形で表されるとき、1階線形微分方程式という。

ここで、 \( p(t) \) はスカラー値関数、 \( \mathbf{q}(t)=(q_1(t),q_2(t),q_3(t)) \) はベクトル値関数である。

とくに、 \( \mathbf{q}(t)\equiv 0 \) であるものを同次(斉次)1階線形微分方程式といい、 \( \mathbf{q}(t)\not\equiv 0 \) であるものを非同次(非斉次)1階線形微分方程式という。

この微分方程式を成分ごとに考えると、3つの1階線形微分方程式

$$ \begin{cases} x’_1(t)+p(t)x_1(t)=q_1(t) \\ x’_2(t)+p(t)x_2(t)=q_2(t) \\ x’_3(t)+p(t)x_3(t)=q_3(t) \end{cases} $$

が得られるので、それぞれの両辺に

$$ \exp\left( \int^t p(\xi)d\xi \right)=e^{\int^t p(\xi)d\xi} $$

をかけることにより、それぞれの非同次1階線形微分方程式の一般解は

$$ x_i(t)=\exp\left( -\int^t p(\xi)d\xi \right)\left\{ \int^t \exp\left( \int^{\xi} p(\eta)d\eta \right) q_i(\xi) d\xi+C_i \right\} \quad (C_i:任意定数, \ i=1,2,3) $$

となります。したがって、方程式(1)の一般解は次で与えられます。

$$ \mathbf{x}(t)=(x_1(t),x_2(t),x_3(t)) $$

例3

次の1階線形微分方程式を考える。

$$ \mathbf{x}'(t)+3\mathbf{x}(t)=(e^{2t},t,5) $$

この微分方程式を成分ごとに考えると、

$$ \begin{cases} x’_1(t)+3x_1(t)=e^{2t} \\ x’_2(t)+3x_2(t)=t \\ x’_3(t)+3x_3(t)=5 \end{cases} $$

それぞれの両辺に

$$ \exp\left( \int^t p(\xi)d\xi \right)=e^{\int^t 3 d\xi}=e^{3t} $$

をかけることにより、

$$ \begin{align} \mathbf{x}_1(t)&=e^{-3t}\left\{ \int^t e^{3\xi}e^{2\xi}d\xi+C_1 \right\} \\ &=e^{-3t}\int^t e^{5\xi}d\xi+C_1e^{-3t} \\ &=\frac{1}{5}e^{2t}+C_1e^{-3t} \quad (C_1:任意定数) \end{align} $$

$$ \mathbf{x}_2(t)=\frac{1}{3}t-\frac{1}{9}+C_2e^{-3t} \quad (C_2:任意定数) $$

$$ \mathbf{x}_3(t)=\frac{5}{3}+C_3e^{-3t} \quad (C_3:任意定数) $$

したがって、この方程式の一般解は

$$ \begin{align} \mathbf{x}(t)&=(x_1(t),x_2(t),x_3(t)) \\ &=\left( \frac{1}{5}e^{2t}+C_1e^{-3t},\frac{1}{3}t-\frac{1}{9}+C_2e^{-3t},\frac{5}{3}+C_3e^{-3t} \right) \end{align} $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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