線形代数学15:固有値と固有ベクトルおよび行列の対角化

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学から固有値と固有ベクトルおよび行列の対角化について解説していきます。

行列の \( n \) 乗の計算について知りたい方は前回の記事をご覧ください。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 固有値と固有ベクトルについて
  • 行列の対角化について
目次

固有値と固有ベクトル

今回は行列の対角化というものについて解説していきます。

前回の記事の例4のように、正方行列 \( A \) に対して、正則行列 \( P \) を見つけて \( P^{-1}AP \) を対角行列にすることを \( A \) の対角化といいます。

前回の記事については下のリンクからご覧ください。

ただし、行列 \( P \) は問題に与えられないこともあります。

よって、行列 \( A \) から \( P \) を見つけるために固有値と固有ベクトルというものが重要となります。

定義1 ( 固有値と固有ベクトル)

\( n \) 次正方行列 \( A=\begin{pmatrix} a_{11} & \dots & a_{1n} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix} \) に対して、

$$ A\begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}=\lambda \begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \tag{1} $$

をみたす \( n \) 次元ベクトル \( x=\begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \left( \not=\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} \right) \) と実数 \( \lambda \) が存在するとき、 \( \lambda \) を固有値といい、 \( x \) を固有ベクトルという。

固有ベクトルとしてゼロベクトルは選べないことに注意してください。

固有値と固有ベクトルの求め方

正方行列 \( A \) に対して、その固有値 \( \lambda \) と固有ベクトル \( x \) を求めたい。

(1)より、

$$ Ax=\lambda x \tag{2} $$

(2)の両辺に単位行列 \( E \) を左からかけると、 \( EAx=E\lambda x \)

よって、 \( Ax=\lambda E x \)

つまり、

$$ (A-\lambda E)x=0 \quad (x\not=0) \tag{3} $$

となります。よって、 \( T=A-\lambda E \) とおきます。

もし、 \( T \) が逆行列 \( T^{-1} \) をもつならば、(3)の両辺に \( T^{-1} \) を左からかけると、 \( T^{-1}Tx=T^{-1}0=0 \) より、 \( x=0 \) となり \( x\not=0 \) に矛盾します。

よって、 \( T \) は \( T^{-1} \) をもちません。

つまり、 \( |T|=|A-\lambda E|=0 \) (これを \( A \) の固有方程式といいます。)

これは \( \lambda \) は \( n \) 次方程式なので、解 \( \lambda=\lambda_1,\lambda_2,\dots,\lambda_n \) が求まります。

この \( \lambda_1,\dots,\lambda_n \) を(3)に代入することで、それぞれの固有ベクトル \( x=x_{\lambda_1},\dots,x_{\lambda_n} \) も求まります。

各固有値に対してその固有ベクトル \( x \) はただ一つに定まらず、いくつも存在することに注意してください。

例1

\( A=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 2 & 3 \end{pmatrix} \) の固有値と固有ベクトルを求める。

$$ T=A-\lambda E=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}-\lambda\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2-\lambda & 1 \\ 2 & 3-\lambda \end{pmatrix} $$

よって、

$$ |T|=\begin{vmatrix} 2-\lambda & 1 \\ 2 & 3-\lambda \end{vmatrix}=(2-\lambda)(3-\lambda)-2=\lambda^2-5\lambda+4 $$

\( |T|=0 \) となる必要があるので、 \( \lambda^2-5\lambda+4=0 \)

解くと、 \( \lambda=1,4 \)

(i) \( \lambda=1 \) のとき

\( (A-E)x=0 \) より、 \( \begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 2 & 2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \)

よって、

$$ x_1+x_2=0 \tag{4} $$

(4)をみたすならば、 \( x_1,x_2 \) は何でもよいので、たとえば、

\( \lambda=1 \) のときの固有ベクトルは \( \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \end{pmatrix} \)

(ii) \( \lambda=4 \) のとき

\( (A-4E)x=0 \) より、 \( \begin{pmatrix} -2 & 1 \\ 2 & -1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \)

よって、

$$ -2x_1+x_2=0 \tag{5} $$

(5)をみたすならば、 \( x_1,x_2 \) は何でもよいので、たとえば、

\( \lambda=4 \) のときの固有ベクトルは \( \begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2 \\ 4 \end{pmatrix} \)

行列の対角化

改めて、行列の対角化について定義します。

定義2 (行列の対角化)

\( n \) 次正方行列 \( A \) に対して、ある正則行列 \( P \) が存在して、 \( P^{-1}AP \) が対角行列となるとき、 \( A \) は対角化可能であるといい、行列 \( A \) に対して、正則行列 \( P \) を見つけて、 \( P^{-1}AP \) を対角行列にすることを \( A \) の対角化という。

対角化に関して、次の定理が成り立つことが知られています。

定理1 (対角化可能の1つの条件)

\( n \) 次正方行列 \( A \) が相異なる \( n \) 個の固有値をもつならば、 \( P^{-1}AP \) が対角行列となるような正則行列 \( P \) が存在する。

証明についてはここでは省略します。(証明は線形代数学続論11の定理4でしています)

よって、 \( A \) が相異なる \( n \) 個の固有値をもつ場合の対角化を考えます。

\( A \) の固有値を \( \lambda_1,\dots,\lambda_n \)、それぞれの固有ベクトルを \( x_{\lambda_1},\dots,x_{\lambda_n} \) とおきます。

このとき、 \( P=\begin{pmatrix} x_{\lambda_1} & x_{\lambda_2} & \cdots & x_{\lambda_n} \end{pmatrix} \) (これは \( n \) 次正方行列) とおくと、

$$ \begin{align} AP&=A\begin{pmatrix} x_{\lambda_1} & x_{\lambda_2} & \cdots & x_{\lambda_n} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} Ax_{\lambda_1} & Ax_{\lambda_2} & \cdots & Ax_{\lambda_n} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} \lambda_1x_{\lambda_1} & \lambda_2x_{\lambda_2} & \cdots & \lambda_nx_{\lambda_n} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} x_{\lambda_1} & x_{\lambda_2} & \cdots & x_{\lambda_n} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix}=P\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \end{align} $$

したがって、最両辺に左から \( P^{-1} \) をかけると、

$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\dots,\lambda_n\text{は}A\text{の固有値}) $$

となり、対角化ができました。

例2

\( A=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 2 & 3 \end{pmatrix} \) に対して、行列 \( P \) を見つけ、 \( P^{-1}AP \) により \( A \) を対角化する。

例1より、 \( A \) の固有値は \( \lambda_1=1, \ \lambda_2=4 \) であり、それぞれの固有ベクトルは \( x_{\lambda_1}=\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \end{pmatrix}, \ x_{\lambda_2}=\begin{pmatrix} 2 \\ 4 \end{pmatrix} \) である。

よって、 \( P=\begin{pmatrix} x_{\lambda_1} & x_{\lambda_2} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} -1 & 2 \\ 1 & 4 \end{pmatrix} \) とおくと、

$$ AP=P\begin{pmatrix} \lambda_1 & 0 \\ 0 & \lambda_2 \end{pmatrix}=P\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 4 \end{pmatrix} \tag{6} $$

\( |P|=\begin{vmatrix} -1 & 2 \\ 1 & 4 \end{vmatrix}=-6 \) より、 \( P^{-1} \) が存在するので、(6)の最両辺に \( P^{-1} \) を左からかけると、

$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 4 \end{pmatrix} $$

よって、対角化された。

最後に1つ補足を述べて終わりにしたいと思います。

固有値 \( \lambda \) が重複していたり、そもそも存在しない場合( \( \lambda \) の固有方程式を解いた結果、重解や虚数解をもつ場合)については、対角化できない場合もあります。ただし、対角化できない場合でも、ジョルダン標準形とよばれる対角行列に近い形にまで変形することはできます。

今回までで線形代数学の基礎について一通り紹介しました。お疲れ様でした。

次に勉強するのにおすすめなシリーズとしては、「微分積分学」シリーズもしくは「確率・統計」シリーズとなっています。

また、線形代数学のさらなる内容について知りたい方は「線形代数学続論」シリーズをご覧ください。

それでは、またどこかの記事でお会いしましょう。ひかりでした。

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