線形代数学09:逆行列の求め方

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学から行列式の定義について解説していきます。

行列式について知りたい方は線形代数学07と08の記事をご覧ください。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 行列の積の行列式について
  • 余因子行列について
  • 逆行列の公式について
目次

行列の積の行列式

今回の記事では、行列式を用いて逆行列の公式を求めることを考えていきます。

そのために、行列の積の行列式と余因子行列というものについて紹介します。

まず、行列の積の行列式について次が成り立ちます。

定理1 (行列の積の行列式)

\( A,B \) を \( n \) 次正方行列とすると、

$$ |AB|=|A|\cdot |B| $$

(つまり、積\( AB \) の行列式は \( A \) の行列式と \( B \) の行列式の積である。)

証明についてはここでは省略します。線形代数学続論04にて、行列式を別の方法で定義することにより証明をしています。

例1

\( A=\begin{pmatrix} 4 & -5 \\ -2 & 3 \end{pmatrix}, \ B=\begin{pmatrix} -7 & -6 \\ 5 & 6 \end{pmatrix} \) とおくと、

$$ \begin{align} AB&=\begin{pmatrix} 4 & -5 \\ -2 & 3 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} -7 & -6 \\ 5 & 6 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} -28-25 & -24-30 \\ 14+15 & 12+18 \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} -53 & -54 \\ 29 & 30 \end{pmatrix} \end{align} $$

よって、

$$ \begin{align} |AB|&=\begin{vmatrix} -53 & -54 \\ 29 & 30 \end{vmatrix} \\ &=\begin{vmatrix} -53-54\times(-1) & -54 \\ 29+30\times(-1) & 30 \end{vmatrix} \quad (\text{(R5) ①+②×(-1)}) \\ &=\begin{vmatrix} 1 & -54 \\ -1 & 30 \end{vmatrix}=30-54=-24 \end{align} $$

一方で、

$$ |A|=\begin{vmatrix} 4 & -5 \\ -2 & 3 \end{vmatrix}=12-10=2 $$

$$ |B|=\begin{vmatrix} -7 & -6 \\ 5 & 6 \end{vmatrix}=-42+30=-12 $$

よって、 \( |A||B|=2\times(-12)=-24=|AB| \)

余因子行列

次に余因子行列を定義します。

余因子行列の定義に必要な余因子について知りたい方は以下の記事をご覧ください。

定義1 (余因子行列)

\( n \) 次正方行列 \( A \) に対して、\( A \) の \( (i,j) \) 余因子 \( \widetilde{a}_{ij} \) を並べた行列

$$ \begin{pmatrix} \widetilde{a}_{11} & \dots & \widetilde{a}_{1n} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ \widetilde{a}_{n1} & \dots & \widetilde{a}_{nn} \end{pmatrix} $$

転置行列

$$ \widetilde{A}=\begin{pmatrix} \widetilde{a}_{11} & \dots & \widetilde{a}_{n1} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ \widetilde{a}_{1n} & \dots & \widetilde{a}_{nn} \end{pmatrix} $$

と表し、 \( A \) の余因子行列という。

余因子行列に関して次の定理が成り立ちます。

定理2

\( A \) を \( n \) 次正方行列、 \( E \) を \( n \) 次単位行列、 \( \widetilde{A} \) を \( A \) の余因子行列とするとき、次が成り立つ。

$$ A\widetilde{A}=\widetilde{A}A=|A|E $$

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( A\widetilde{A}=|A|E \) のみ示します。

\( A \) を次のようにおきます。

$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n 1} & a_{n 2} & \dots & a_{n n} \end{pmatrix} $$

すると、

$$ \begin{align} A\widetilde{A}&=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n 1} & a_{n 2} & \dots & a_{n n} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \widetilde{a}_{11} & \widetilde{a}_{21} & \dots & \widetilde{a}_{n1} \\ \widetilde{a}_{12} & \widetilde{a}_{22} & \dots & \widetilde{a}_{n2} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ \widetilde{a}_{1n} & \widetilde{a}_{2n} & \dots & \widetilde{a}_{nn} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} b_{11} & b_{12} & \dots & b_{1n} \\ b_{21} & b_{22} & \dots & b_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ b_{n 1} & b_{n 2} & \dots & b_{n n} \end{pmatrix} \end{align} $$

ここで、 \( b_{ij}=a_{i1}\widetilde{a}_{j1}+a_{i2}\widetilde{a}_{j2}+\dots +a_{in}\widetilde{a}_{jn} \)

もし、 \( i=j \) であるならば、

$$ b_{ii}=a_{i1}\widetilde{a}_{i1}+a_{i2}\widetilde{a}_{i2}+\dots +a_{in}\widetilde{a}_{in} $$

となり、これは \( |A| \) の第 \( i \) 行における展開となります。

次に、 \( i\not= j \) とします。このとき、 \( A \) の第 \( j \) 行を \( a_{i1}, a_{i2}, \cdots, a_{in} \) に置き換えた行列

$$ \begin{pmatrix} a_{11} & \dots & a_{1n} \\ \vdots & & \vdots \\ a_{i1} & \dots & a_{in} \\ \vdots & & \vdots \\ a_{i1} & \dots & a_{in} \\ \vdots & & \vdots \\ a_{n1} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix} $$

の行列式を考えて、第 \( j \) 行で展開すると、

$$ \begin{vmatrix} a_{11} & \dots & a_{1n} \\ \vdots & & \vdots \\ a_{i1} & \dots & a_{in} \\ \vdots & & \vdots \\ a_{i1} & \dots & a_{in} \\ \vdots & & \vdots \\ a_{n1} & \dots & a_{nn} \end{vmatrix}=a_{i1}\widetilde{a}_{j1}+a_{i2}\widetilde{a}_{j2}+\dots+a_{in}\widetilde{a}_{jn}=b_{ij} $$

この行列式は2つの行が等しいので線形代数学08の定理4より、0となります。

まとめると、 \( b_{ij} \) は

$$ b_{ij}=\begin{cases} |A| & (i=j) \\ 0 & (i\not=j) \end{cases} $$

したがって、

$$ A\widetilde{A}=\begin{pmatrix} |A| & \dots & 0 \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & \dots & |A| \end{pmatrix}=|A|\begin{pmatrix} 1 & \dots & 0 \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & \dots & 1 \end{pmatrix}=|A|E $$

行列の正則条件と逆行列の公式

定理1と定理2より、行列の正則条件と逆行列の公式が得られます。

定理3 (行列の正則条件と逆行列の公式)

\( A \) を \( n \) 次正方行列、 \( \widetilde{A} \) を \( A \) の余因子行列とすると、次が成り立つ。

(1) \( A \) が正則行列であるための必要十分条件は \( |A|\not= 0 \)

(2) \( A \) が正則であるとき、 \( A^{-1}=\frac{1}{|A|}\widetilde{A} \)

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1)と(2)を同時に示します。

まず、 \( A \) が正則であるならば、正則行列の定義より、

$$ AX=XA=E $$

をみたす \( n \) 次正方行列 \( X \) が存在します。両辺に行列式をとると、

$$ |AX|=|XA|=|E| $$

定理1と \( |E|=1 \) より、

$$ |A||X|=|X||A|=1 $$

よって、 \( |A|\not=0 \) となります。

逆に、 \( |A|\not=0 \) とします。このとき、 \( X \) を \( A \) の余因子行列 \( \widetilde{A} \) を用いて、次のように定めます。

$$ X=\frac{1}{|A|}\widetilde{A} $$

定理2より、

$$ AX=A\left( \frac{1}{|A|}\widetilde{A} \right)=\frac{1}{|A|}(A\widetilde{A})=\frac{1}{|A|}(|A|E)=E $$

$$ XA=\left( \frac{1}{|A|}\widetilde{A} \right)A=\frac{1}{|A|}(\widetilde{A}A)=\frac{1}{|A|}(|A|E)=E $$

よって、

$$ AX=XA=E $$

をみたすので、 \( A \) は正則であり、逆行列 \( A^{-1} \) は次で与えられます。

$$ A^{-1}=X=\frac{1}{|A|}\widetilde{A} $$

例2

(1) \( A=\begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 2 & 0 & -1 \\ -1 & 5 & 4 \end{pmatrix} \) とおくと、

\( |A|=\begin{vmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 2 & 0 & -1 \\ -1 & 5 & 4 \end{vmatrix}=5 \) より、 \( A \) は正則である。

\( \widetilde{A} \) を求める。

$$ \begin{align} &\widetilde{a}_{11}=(-1)^{1+1}\begin{vmatrix} 0 & -1 \\ 5 & 4 \end{vmatrix}=5, \quad \widetilde{a}_{12}=(-1)^{1+2}\begin{vmatrix} 2 & -1 \\ -1 & 4 \end{vmatrix}=-7, \\ &\widetilde{a}_{13}=(-1)^{1+3}\begin{vmatrix} 2 & 0 \\ -1 & 5 \end{vmatrix}=10, \quad \widetilde{a}_{21}=(-1)^{2+1}\begin{vmatrix} 0 & 0 \\ 5 & 4 \end{vmatrix}=0, \\ &\widetilde{a}_{22}=(-1)^{2+2}\begin{vmatrix} 1 & 0 \\ -1 & 4 \end{vmatrix}=4, \quad \widetilde{a}_{23}=(-1)^{2+3}\begin{vmatrix} 1 & 0 \\ -1 & 5 \end{vmatrix}=-5, \\ &\widetilde{a}_{31}=(-1)^{3+1}\begin{vmatrix} 0 & 0 \\ 0 & -1 \end{vmatrix}=0, \quad \widetilde{a}_{32}=(-1)^{3+2}\begin{vmatrix} 1 & 0 \\ 2 & -1 \end{vmatrix}=1, \\ &\widetilde{a}_{33}=(-1)^{3+3}\begin{vmatrix} 1 & 0 \\ 2 & 0 \end{vmatrix}=0, \end{align} $$

よって、

$$ \widetilde{A}=\begin{pmatrix} 5 & 0 & 0 \\ -7 & 4 & 1 \\ 10 & -5 & 0 \end{pmatrix} \quad (\text{転置に注意}) $$

したがって、逆行列 \( A^{-1} \) は、

$$ A^{-1}=\frac{1}{|A|}\widetilde{A}=\frac{1}{5}\begin{pmatrix} 5 & 0 & 0 \\ -7 & 4 & 1 \\ 10 & -5 & 0 \end{pmatrix} $$


(2) \( A=\begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 \\ 2 & 0 & -1 \\ 2 & 1 & 1 \end{pmatrix} \) とおくと、

\( |A|=\begin{vmatrix} 0 & 1 & 2 \\ 2 & 0 & -1 \\ 2 & 1 & 1 \end{vmatrix}=0 \) より、 \( A \) は正則ではない。

最後に、逆行列の行列式について次が成り立ちます。

定理4 (逆行列の行列式)

正則行列 \( A \) に対して、\( |A^{-1}|=|A|^{-1}=\frac{1}{|A|} \)

(つまり、逆行列 \( A^{-1} \) の行列式は行列 \( A \) の行列式の逆数である。)

定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)

定理1より、

$$ |A||A^{-1}|=|AA^{-1}|=|E|=1 $$

よって、 \( |A^{-1}|=\frac{1}{|A|}=|A|^{-1} \)

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

目次