線形代数学05:正則行列と逆行列

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学から正則行列と逆行列について解説していきます。

行列の定義や演算について知りたい方は、線形代数学03および04の記事をご覧ください。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 正則行列と逆行列とは何か?
  • 正則行列と逆行列の性質について
  • 2次正方行列に関する逆行列の求め方の公式について
目次

正則行列と逆行列の定義

今まで勉強してきた数の世界において、 \( 3x=1 \) を求めるときは両辺の \( 3 \) の逆数である \( \frac{1}{3} \) をかけて \( \color{red}{\frac{1}{3}\times}3x=\color{red}{\frac{1}{3}\times}1 \) で \( x=\frac{1}{3} \) と求めていました。

同じようにして、行列の世界において、 \( A : n \) 次正方行列、 \( E : n \) 次単位行列に対して、 \( AX=E \) となる \( n \) 次正方行列 \( X \) を求めることを考えたい。

そのため、正則行列と逆行列というものを定義します。

定義1 (正則行列・逆行列)

\( n \) 次正方行列 \( A \) に対して、 \( AX=E \) かつ \( XA=E \) となる \( n \) 次正方行列 \( X \) が存在するとき、 \( A \) を正則行列という。

また、 \( A \) が正則行列であるとき、上をみたす \( X \) のことを \( A \) の逆行列といい、 \( A^{-1} \) (エー・インバース)と表す。

実は \( AX=E \) か \( XA=E \) の片方だけ調べれば、もう片方は自動的に成り立つことが知られています。

例1

(1) \( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix} \) が正則かどうかを調べる。

\( X=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix} \) とおく。すると、

$$ AX=\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} x+2z & y+2w \\ 2x+3z & 2y+3w \end{pmatrix} $$

\( AX=E=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} \) となるためには、

\( \begin{cases} x+2z=1 \\ 2x+3z=0 \end{cases}, \ \begin{cases} y+2w=0 \\ 2y+3w=1 \end{cases} \) をみたせばよい。

これを解くと、 \( x=-3, \ y=2, \ z=2, \ w=-1 \) となる。

したがって、 \( X=\begin{pmatrix} -3 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \) とおくと、 \( AX=E \)となる。また、

$$ XA=\begin{pmatrix} -3 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix}=E $$

よって、 \( AX=XA=E \) となる \( X \) が存在するので、 \( A \) は正則行列である。

また、 \( A \) の逆行列 \( A^{-1} \) は \( A^{-1}=X=\begin{pmatrix} -3 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \)


(2) \( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 4 \end{pmatrix} \) が正則かどうかを調べる。

\( X=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix} \) とおく。すると、

$$ AX=\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} x+2z & y+2w \\ 2x+4z & 2y+4w \end{pmatrix} $$

\( AX=E=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} \) となるためには、

\( \begin{cases} x+2z=1 \\ 2x+4z=0 \end{cases}, \ \begin{cases} y+2w=0 \\ 2y+4w=1 \end{cases} \) をみたせばよい。

これを解くと、 \( 2=0, 1=0 \) となってしまう。よって、これをみたす \( x,y,z,w \) は存在しない。

したがって、 \( A \) は正則ではない。

正則行列と逆行列の性質

正則行列と逆行列の性質について定理の形でいくつか紹介します。

定理1

\( A \) が正則ならば、 \( A \) の逆行列 \( A^{-1} \) はただ1つ存在する。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( A \) の逆行列が2つ存在するとします。これを \( A_1, \ A_2 \) とおきます。

このとき、逆行列の定義より次をみたします。

$$ AA_1=A_1A=E, \quad AA_2=A_2A=E $$

よって、

$$ A_1=EA_1=(A_2A)A_1=A_2(AA_1)=A_2E=A_2 $$

したがって、逆行列 \( A^{-1} \)は存在するならばただ一つである。

定理2

\( A, B \) を \( n \) 次正則行列とする。このとき、積 \( AB \) も正則行列であり、 \( (AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1} \)

つまり、積 \( AB \) の逆行列は \( B \) の逆行列 \( B^{-1} \) と \( A \) の逆行列 \( A^{-1} \) の積で与えられる。

\( A^{-1}B^{-1} \) ではないことに注意してください。

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( A, B \) は \( n \) 次正則行列であるので、それぞれ逆行列 \( A^{-1}, B^{-1} \) が存在して定義から次が成り立ちます。

$$ AA^{-1}=A^{-1}A=E, \quad BB^{-1}=B^{-1}B=E $$

よって、積 \( AB \) を考えて定義の \( X \) を \( X=B^{-1}A^{-1} \) とすると、

$$ (AB)(B^{-1}A^{-1})=A(BB^{-1})A^{-1}=AEA^{-1}=AA^{-1}=E $$

$$ (B^{-1}A^{-1})(AB)=B^{-1}(A^{-1}A)B=B^{-1}EB=B^{-1}B=E $$

したがって、積 \( AB \) も正則行列であり、逆行列 \( (AB)^{-1} \) は \( (AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1} \) となります。

定理3

\( A \) が正則行列ならば、 \( A^{-1} \) も正則行列であり、 \( (A^{-1})^{-1}=A \)

つまり、 \( A \) の逆行列の逆行列はもとの \( A \) となる。

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( A \) は正則行列であるので、逆行列 \( A^{-1} \) が存在して定義から次が成り立ちます。

$$ AA^{-1}=A^{-1}A=E $$

これは、逆行列 \( A^{-1} \) を考えて定義の \( X \) を \( X=A \) とみてあげると、

$$ A^{-1}A=AA^{-1}=E $$

となります。よって、 \( A^{-1} \) も正則行列であり、その逆行列 \( (A^{-1})^{-1} \) は \( (A^{-1})^{-1}=A \) となります。

定理4

\( A \) が正則行列ならば、転置行列 \( ^tA \) も正則行列であり、 \( ({}^tA)^{-1}= {}^t(A^{-1}) \)

つまり、 \( {}^tA \) の逆行列は \( A \) の逆行列の転置行列である。

定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( A \) は正則行列であるので、逆行列 \( A^{-1} \) が存在して定義から次が成り立ちます。

$$ AA^{-1}=A^{-1}A=E $$

よって、転置 \( {}^tA \) を考えて定義の \( X \) を \( X={}^t(A^{-1}) \) とすると、線形代数学04の定理3(3)より、

$$ {}^tA{}^t(A^{-1})={}^t(A^{-1}A)={}^tE=E $$

$$ {}^t(A^{-1}){}^tA={}^t(AA^{-1})={}^tE=E $$

したがって、転置 \( {}^tA \) も正則行列であり、逆行列 \( ({}^tA)^{-1} \) は \( ({}^tA)^{-1}= {}^t(A^{-1}) \) となります。

2次正方行列の逆行列の公式

ここでは2次正方行列に限定して、逆行列を求める公式を導出します。

\( A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}, \ X=\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix} \) とします。このとき、

$$ AX=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x & y \\ z & w \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} ax+bz & ay+bw \\ cx+dz & cy+dw \end{pmatrix} $$

\( AX=E=\begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} \) となるためには、

\( \begin{cases} ax+bz=1 \\ cx+dz=0 \end{cases}, \ \begin{cases} ay+bw=0 \\ cy+dw=1 \end{cases} \) をみたせばよい。これを解くと、

$$ \displaystyle x=\frac{d}{ad-bc}, \quad y=\frac{-b}{ad-bc}, \quad z=\frac{-c}{ad-bc}, \quad w=\frac{a}{ad-bc} $$

したがって、 \( \displaystyle X=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix} \) となります。

ただし、これが成り立つには \( ad-bc\not= 0 \) でなければなりません。

以上を定理の形でまとめると、次のような逆行列の公式が得られます。

定理5 (2次正方行列の逆行列の公式)

\( A=\begin{pmatrix} a & b \\ c & d \end{pmatrix} \) のとき、 \( ad-bc\not=0 \) ならば \( A \) は正則行列となり、その逆行列 \( A^{-1} \) は次で計算できる。

$$ A^{-1}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix} $$

例2

例1(1)の行列 \( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix} \) を考える。

このとき、

$$ ad-bc=1\times 3-2\times 2=-1\not=0 $$

より、逆行列 \( A^{-1} \) が存在して、

$$ A^{-1}=\frac{1}{ad-bc}\begin{pmatrix} d & -b \\ -c & a \end{pmatrix}=-\begin{pmatrix} 3 & -2 \\ -2 & 1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} -3 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} $$

これは例1(1)での計算と一致する。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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