線形代数学03:行列の定義と特別な行列の名称

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学から行列の定義と特別な行列の名称について解説していきます。

ベクトルについて知りたい方は、線形代数学01および02の記事をご覧ください。

この記事では以下のことを紹介します。

  • なぜ「行列」を考える必要があるのか?
  • 行列とは何か?
  • 2つの行列が等しいとは何か?
  • 特別な行列の名称について
目次

行列を考える意味

「行列」の定義を与える前に、「行列」を考える意味を1つ紹介します。

連立一次方程式 \( \begin{cases} 2x+y=1 \\ x+2y=5 \end{cases} \) を次のように表現することを考えます。

$$ \begin{cases} \color{red}2x+\color{red}1y=\color{blue}1 \\ \color{red}1x+\color{red}2y=\color{blue}5 \end{cases} \ \Longrightarrow \ \begin{pmatrix} \color{red}2 & \color{red}1 \\ \color{red}1 & \color{red}2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} \color{blue}1 \\ \color{blue}5 \end{pmatrix} $$

ここで、 \( \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} \) と \( \begin{pmatrix} \color{blue}1 \\ \color{blue}5 \end{pmatrix} \) は今までで解説してきましたベクトルですので大丈夫でしょう。

問題は \( \begin{pmatrix} \color{red}2 & \color{red}1 \\ \color{red}1 & \color{red}2 \end{pmatrix} \) です。これがこれから定義する「行列」となります。

まとめると、連立一次方程式は「行列」とベクトルで表現できます。

これを用いることで連立一次方程式を比較的簡単に解くことができます。

そのために「行列」について理解する必要が出てきます。

行列の定義と用語の説明

行列という言葉を聞くとたくさんの人が規則正しく並んでいるのが思い浮かびます。

それと同じで数学で「行列」とは、たくさんの数が規則正しく並んでいるものとなります。

正確に表現すると、次のようになります。

定義1 (行列)

\( m,n \) を自然数とし、 \( m\times n \) 個の実数を次のように並べる。

$$ \begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \dots & a_{mn} \end{pmatrix} $$

これを \( (m,n) \) 型行列または \( m\times n \) 行列という。

行列は \( A,B,\dots \) で表わすこともある。

さらに、 \( A=\begin{pmatrix} a_{11} & \dots & a_{1j} & \dots & a_{1n} \\ \vdots & & \vdots & & \vdots \\ a_{i1} & \dots & a_{ij} & \dots & a_{in} \\ \vdots & & \vdots & & \vdots \\ a_{m1} & \dots & a_{mj} & \dots & a_{mn} \end{pmatrix} \) としたとき、

\( (a_{i1} \ \dots \ a_{ij} \ \dots \ a_{in}) \) を行列 \( A \) の第 \( i \) 行といい、\( \begin{pmatrix} a_{1j} \\ \vdots \\ a_{ij} \\ \vdots \\ a_{mj} \end{pmatrix} \) を行列 \( A \) の第 \( j \) 列といいます。

また、 \( a_{ij} \) を行列 \( A \) の \( (i,j) \) 成分といいます。

行列のそれぞれの実数の間に,(カンマ)はつけないので注意しましょう。

例1

(1) \( \begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 2 \end{pmatrix} \) は \( 2\times 2 \) 行列

ここで、この行列の第1行は \( (2 \ 1) \) 、第2列は \( \begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix} \) 、 \( (2,1) \) 成分は1である。


(2) \( \begin{pmatrix} 2 & 3 & 4 \\ 1 & 2 & 1 \end{pmatrix} \) は \( 2\times 3 \) 行列

ここで、この行列の第2行は \( (1 \ 2 \ 1) \) 、第3列は \( \begin{pmatrix} 4 \\ 1 \end{pmatrix} \) 、 \( (1,2) \) 成分は3である。

ここで、いくつか行列の用語について紹介します。

定義2 (正方行列)

正方形に数字が並んでいる \( n\times n \) 行列 \( \begin{pmatrix} a_{11} & \dots & a_{1n} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix} \) を \( n \) 次正方行列という。

例2

(1) \( \begin{pmatrix} 1 & 2 & 1 \\ 2 & 3 & 1 \\ 4 & 1 & 4 \end{pmatrix} \) は3次正方行列


(2) \( \begin{pmatrix} 1 & 4 & 3 \\ 2 & 1 & 2 \end{pmatrix} \) は正方行列ではない。

定義3 (ゼロ行列・単位行列)

(1) 成分がすべて0である行列をゼロ行列といい、 \( O \) と表す。つまり、

$$ O=\begin{pmatrix} 0 & \dots & 0 \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & \dots & 0 \end{pmatrix} $$

(2) 左上から右下への対角線上に \( 1 \) が並び、ほかの成分がすべて0の正方行列単位行列といい、 \( E \) と表す。つまり、

$$ E=\begin{pmatrix} 1 & 0 & \dots & 0 \\ 0 & 1 & \dots & 0 \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ 0 & 0 & \dots & 1 \end{pmatrix} $$

例3

(1) \( \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & 1 \end{pmatrix} \) や \( \begin{pmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix} \) は単位行列


(2) \( \begin{pmatrix} 0 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \) や \( \begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \end{pmatrix} \) は単位行列ではない。

( \( 1 \) が左上から右下への対角線上に並んでいないと、単位行列ではない)

行列の相等

2つのベクトルが等しいとはどういうことなのかを線形代数学01の記事で定義しました。

同様に、2つの行列が等しいとはどういうことなのかを見ていきましょう。

定義4 (行列の相等)

2つの行列 \( A,B \) が同じ \( m\times n \) 行列であり、すべての \( i=1,2,\dots,m, \ j=1,2,\dots,n \) に対して、

\( A \) の \( (i,j) \) 成分 \( =B \) の \( (i,j) \) 成分 となるとき、行列 \( A \) と \( B \) は等しいといい、 \( A=B \) とかく。

例4

(1) \( A=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix}, \ B=\begin{pmatrix} 2 & 1 \\ 1 & 0 \end{pmatrix} \) は \( A=B \)


(2) \( A=\begin{pmatrix} 0 & 0 \\ 0 & 0 \end{pmatrix}, \ B=\begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} \) は \( A=B \) ではない。

( \( A \) は \( 2\times 2 \) 行列、 \( B \) は \( 2\times 3 \) 行列であり、異なる次数の行列であるので等しくない)


(3) \( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 9 \end{pmatrix}, \ B=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \\ 7 & 8 & 1 \end{pmatrix} \) は \( A=B \) ではない。

(1つでも成分が異なる場合は2つの行列は等しくない)

特別な行列の名称

ここでは、特別な名前がついている行列についていくつか紹介していきます。

定義5 (対角行列)

正方行列において、左上から右下への対角線上に並ぶ成分

$$ a_{11}, \ a_{22}, \ \dots, \ a_{nn} $$

対角成分とよび、対角成分以外の成分がすべて0である行列

$$ \begin{pmatrix} a_{11} & 0 & \dots & 0 \\ 0 & a_{22} & & \vdots \\ \vdots & & \ddots & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & a_{nn} \end{pmatrix} $$

対角行列という。

とくに、対角成分がすべて等しい対角行列をスカラー行列という。

対角成分がすべて1の対角行列が単位行列となります。

例5

(1) 次の行列は対角行列である。

$$ \begin{pmatrix} 2 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & \frac{1}{2} \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} 1 & 0 \\ 0 & \sqrt{5} \end{pmatrix} $$


(2) 次の行列はスカラー行列である。

$$ \begin{pmatrix} 3 & 0 & 0 \\ 0 & 3 & 0 \\ 0 & 0 & 3 \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} \sqrt{2} & 0 & 0 \\ 0 & \sqrt{2} & 0 \\ 0 & 0 & \sqrt{2} \end{pmatrix} $$

定義6 (転置行列)

行列 \( A \) の行と列を入れ替えた行列を行列 \( A \) の転置行列といい、 \( ^tA \) と表す。つまり、

$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & \color{red}{a_{12}} & \color{red}{\dots} & \color{red}{a_{1n}} \\ \color{blue}{a_{21}} & a_{22} & \color{red}{\dots} & \color{red}{a_{2n}} \\ \color{blue}{\vdots} & \color{blue}{\vdots} & \ddots & \color{red}{\vdots} \\ \color{blue}{a_{m1}} & \color{blue}{a_{m2}} & \color{blue}{\dots} & a_{mn} \end{pmatrix} \ のとき、 \ ^tA=\begin{pmatrix} a_{11} & \color{blue}{a_{21}} & \color{blue}{\dots} & \color{blue}{a_{m1}} \\ \color{red}{a_{12}} & a_{22} & \color{blue}{\dots} & \color{blue}{a_{m2}} \\ \color{red}{\vdots} & \color{red}{\vdots} & \ddots & \color{blue}{\vdots} \\ \color{red}{a_{1n}} & \color{red}{a_{2n}} & \color{red}{\dots} & a_{mn} \end{pmatrix} $$

\( ^t(^tA)=A \) となることに注意してください。(詳しくは線形代数学04の記事をご覧ください。)

例6

\( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 4 & 5 & 6 \end{pmatrix} \) のとき \( ^tA=\begin{pmatrix} 1 & 4 \\ 2 & 5 \\ 3 & 6 \end{pmatrix} \)

定義7 (対称行列・交代行列)

(1) \( ^tA=A \) となる正方行列 \( A \) のことを対称行列という。

(2) \( ^tA=-A \) となる正方行列 \( A \) のことを交代行列という。

例7

(1) \( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix} \) は \( ^tA=\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}=A \) より、対称行列である。


(2) \( A=\begin{pmatrix} 0 & -1 & -2 \\ 1 & 0 & -3 \\ 2 & 3 & 0 \end{pmatrix} \) は \( ^tA=\begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 \\ -1 & 0 & 3 \\ -2 & -3 & 0 \end{pmatrix}=-A \) より、交代行列である。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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