微分方程式15:定数係数連立線形微分方程式

こんにちは、ひかりです。

今回は微分方程式から定数係数連立線形微分方程式について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 定数係数同次連立線形微分方程式の基本解と一般解について
  • 定数係数非同次連立線形微分方程式の一般解について
目次

定数係数同次連立線形微分方程式の基本解と一般解

微分方程式13微分方程式14において、定数係数の単独線形微分方程式について紹介しました。

最後に定数係数の連立線形微分方程式について紹介していきます。

まず、定数係数同次連立線形微分方程式

$$ \mathbf{y}'(x)=A\mathbf{y}(x) \tag{1} $$

を考えます。ここで、

$$ \mathbf{y}(x)=\begin{pmatrix} y_1(x) \\ \vdots \\ y_n(x) \end{pmatrix} \ (未知), \quad A=\begin{pmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1n} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} \ (定数行列) $$

まず、方程式(1)の基本解 \( \mathbf{y}_1(x),\cdots,\mathbf{y}_n(x) \) を求めてみましょう。

$$ Y(x)=\begin{pmatrix} \mathbf{y}_1(x) & \cdots & \mathbf{y}_n(x) \end{pmatrix} $$

とおくと、基本解は一次独立なので方程式(1)は次のように表せます。

$$ \begin{cases} Y'(x)=AY(x) \\ Y(x_0)=正則行列 \end{cases} $$

(簡単のため、 \( x_0=0,Y(x_0)=E \) とします)

\( Y(x) \) をピカールの逐次近似法で求めていきます。つまり、

$$ \begin{cases} Y_0(x)=E \\ Y’_m(x)=AY_{m-1}(x) \\ Y_m(0)=E \end{cases} \ \iff \ Y_m(x)=E+\int_0^xAY_{m-1}(\xi)d\xi $$

にて \( Y_m(x) \) を定義すると、 \( \displaystyle Y(x)=\lim_{m\to\infty}Y_m(x) \) となります。

これは微分方程式06の例1と似たように考えることで、

$$ Y_m(x)=\sum_{k=0}^{m}\frac{1}{k!}(xA)^k $$

となります。したがって、

$$ Y(x)=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{k!}(xA)^k \tag{2} $$

ここで、 \( a\in\mathbb{R} \) のときはマクローリン展開より \( \displaystyle e^a=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{a^k}{k!} \) となるので、これをもとに次を定義します。

定義1 (行列の指数関数)

\( n \) 次正方行列 \( A \) に対して、行列 \( A \) の指数関数 \( e^{A} \) を次で定義する。

$$ e^{A}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{A^k}{k!} $$

\( A=(a_{ij})_{1≦i,j≦n} \) のとき、一般に \( e^A=(e^{a_{ij}})_{1≦i,j≦n} \) とはならないことに注意してください。(下の例からもわかります)

例1

(1) \( O \) を零行列とする。このとき、

$$ O^k=\begin{cases} E & (k=0) \\ O & (k : 自然数) \end{cases} $$

したがって、

$$ e^O=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{O^k}{k!}=E $$

また、 \( E^k=E \) なので、

$$ e^E=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{E^k}{k!}=\left( \sum_{k=0}^{\infty}\frac{1}{k!} \right)E=eE $$


(2) \( A=\begin{pmatrix} 0 & 1 \\ -1 & 0 \end{pmatrix} \) とするとき、 \( e^{xA} \) を求める。

$$ A^0=E, \ A^1=A, \ A^2=-E, \ A^3=-A, \ A^4=E, \cdots $$

となるので、

$$\begin{align} e^{xA}の(1,1)成分&=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(xA)^k}{k!}の(1,1)成分 \\ &=1+0-\frac{1}{2!}x^2-0+\frac{1}{4!}x^4-\cdots \\ &=\sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^jx^{2j}}{(2j)!}=\cos x \end{align} $$

同様にして、

$$ e^{xA}の(2,2)成分=\cos x, \quad e^{xA}の(1,2)成分=\sin x $$

$$ e^{xA}の(2,1)成分=-\sin x $$

となるので、

$$ e^{xA}=\begin{pmatrix} \cos x & \sin x \\ -\sin x & \cos x \end{pmatrix} $$

したがって、 \( \mathbf{y}'(x)=A\mathbf{y}(x) \) に対して、

$$ e^{xA}=\begin{pmatrix} \mathbf{y}_1(x) & \cdots & \mathbf{y}_n(x) \end{pmatrix} \tag{3} $$

とおくと、式(2)より \( \mathbf{y}_1(x),\cdots,\mathbf{y}_n(x) \) が方程式(1)の基本解となります。

よって、一般解は

$$ \mathbf{y}(x)=\sum_{m=1}^nc_m\mathbf{y}_m(x)=e^{xA}\mathbf{c}, \quad \mathbf{c}=\begin{pmatrix} c_1 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix} $$

例2

\( A=E \) とした定数係数同次連立線形微分方程式

$$ \mathbf{y}'(x)=\mathbf{y}(x) $$

の一般解を求める。

$$ e^{xE}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(xE)^k}{k!}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{x^k}{k!}E=e^xE $$

であるので一般解は

$$ \mathbf{y}(x)=e^{xE}\mathbf{c}=e^xE\mathbf{c}=e^x\mathbf{c} $$

次に行列 \( A \) が特別な形をしている場合を考えます。

例3

行列 \( A \) が対角行列 \( A=\begin{pmatrix} a & 0 \\ 0 & d \end{pmatrix} \) の場合は、

$$ A^k=\begin{pmatrix} a^k & 0 \\ 0 & d^k \end{pmatrix} $$

であるので、

$$\begin{align} e^{A}の(1,1)成分&=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{A^k}{k!}の(1,1)成分 \\ &=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{a^k}{k!}=e^a \end{align} $$

同様にして、

$$ e^{A}の(2,2)成分=e^d, \quad e^{A}の(2,1)成分=e^{A}の(1,2)成分=0 $$

となるので、

$$ e^{A}=\begin{pmatrix} e^a & 0 \\ 0 & e^d \end{pmatrix} $$

例3のように \( A \) が対角行列であれば、 \( e^{A} \) は簡単に求められます。

しかし、一般には行列 \( A \) は対角行列ではありません。よって、次のことを考えます。

定義2 (行列の対角化可能性)

\( n \) 次正方行列 \( A \) が対角化可能であるとは、ある正則行列 \( P \) が存在して次が成り立つことをいう。

$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

(対角化可能の条件については「線形代数学続論」シリーズをご覧ください。)

\( A \) が対角化可能であるとき、 \( e^A \) は次のようになります。

定理1

\( A \) が対角化可能で次のようになったとする。

$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

このとき、

$$ e^A=P\begin{pmatrix} e^{\lambda_1} & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & e^{\lambda_n} \end{pmatrix}P^{-1} $$

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

$$ P^{-1}A^kP=(P^{-1}AP)^k=\begin{pmatrix} \lambda_1^k & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n^k \end{pmatrix} $$

となるので、

$$ \begin{align} e^A&=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{A^k}{k!}=\sum_{k=0}^{\infty}\frac{P(P^{-1}AP)^kP^{-1}}{k!}=P\left(\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(P^{-1}AP)^k}{k!} \right)P^{-1} \\ &=Pe^{P^{-1}AP}P^{-1}=P\begin{pmatrix} e^{\lambda_1} & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & e^{\lambda_n} \end{pmatrix}P^{-1} \end{align} $$

例4

次の定数係数同次連立線形微分方程式を考える。

$$ \mathbf{y}'(x)=A\mathbf{y}(x), \quad A=\begin{pmatrix} 2 & -1 \\ -2 & 3 \end{pmatrix} $$

この方程式の一般解を求める。

まず、 \( P=\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -2 \end{pmatrix} \) とおくと、

$$ P^{-1}(xA)P=\begin{pmatrix} x & 0 \\ 0 & 4x \end{pmatrix} $$

よって、定理1より、

$$ \begin{align} e^{xA}&=P\begin{pmatrix} e^x & 0 \\ 0 & e^{4x} \end{pmatrix} P^{-1} \\ &=\begin{pmatrix} 1 & 1 \\ 1 & -2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} e^x & 0 \\ 0 & e^{4x} \end{pmatrix}\left( -\frac{1}{3}\begin{pmatrix} -2 & -1 \\ -1 & 1 \end{pmatrix} \right) \\ &=\frac{1}{3}\begin{pmatrix} 2e^x+e^{4x} & e^x-e^{4x} \\ 2e^x-2e^{4x} & e^x+2e^{4x} \end{pmatrix} \end{align} $$

となるので、一般解は

$$ \mathbf{y}(x)=\frac{c_1}{3}\begin{pmatrix} 2e^x+e^{4x} \\ 2e^x-2e^{4x} \end{pmatrix}+\frac{c_2}{3}\begin{pmatrix} e^x-e^{4x} \\ e^x+2e^{4x} \end{pmatrix} \quad (c_1,c_2:任意定数) $$

であり、

$$ \alpha_1=\frac{1}{3}(2c_1+c_2), \quad \alpha_2=\frac{1}{3}(c_1-c_2) $$

と任意定数を置きなおすことにより、

$$ \mathbf{y}(x)=\alpha_1e^x\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix}+\alpha_2e^{4x}\begin{pmatrix} 1 \\ -2 \end{pmatrix} \quad (\alpha_1,\alpha_2:任意定数) $$

定数係数非同次連立線形微分方程式の一般解

次に、定数係数非同次連立線形微分方程式

$$ \mathbf{y}'(x)=A\mathbf{y}(x)+\mathbf{b}(x) $$

を考えます。ここで、

$$ \mathbf{y}(x)=\begin{pmatrix} y_1(x) \\ \vdots \\ y_n(x) \end{pmatrix} \ (未知), \quad A=\begin{pmatrix} a_{11} & \cdots & a_{1n} \\ \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} \ (定数行列), \quad \mathbf{b}(x)=\begin{pmatrix} b_1(x) \\ \vdots \\ b_n(x) \end{pmatrix} \ (既知) $$

この方程式の一般解を求めてみましょう。

いま、式(3)より \( Y(x)=e^{xA} \) であるので、これを微分方程式09の定理2に代入すると、次が成り立ちます。

定理2

定数係数非同次連立線形微分方程式

$$ \mathbf{y}'(x)=A\mathbf{y}(x)+\mathbf{b}(x) $$

の一般解は次で与えられる。

$$ \mathbf{y}(x)=e^{xA}\left( \mathbf{a}+\int^xe^{-\xi A}\mathbf{b}(\xi)d\xi \right) \quad (\mathbf{a}:任意定数ベクトル) $$

今回までで微分方程式の内容について標準的なところまで含めて一通り紹介しました。お疲れ様でした。

それでは、またどこかの記事でお会いしましょう。ひかりでした。

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