こんにちは、ひかりです。
今回は微分方程式から正規形の微分方程式とピカールの逐次近似法について解説していきます。
この記事では以下のことを紹介します。
- 正規形の微分方程式とその解の定義について
- ピカールの逐次近似法について
正規形の微分方程式とその解の定義
これまでの記事にて、さまざまな微分方程式の解法について紹介してきました。
しかし、これらの方法により、すべての微分方程式が解けるというわけではありません。
例えば、
$$ y^2+(y’)^2+1=0 $$
は解が存在しないことが知られています。
そのため、ある程度一般的な微分方程式に対して、解が存在するのかどうかということを理論的に証明することを考えましょう。
まず、一般的な1階微分方程式はある関数 \( F \) を用いて次のような形で表されていました。
$$ F(x,y(x),y'(x))=0 $$
これを少し限定して次のような微分方程式のクラスを考えます。
開集合 \( D\subset \mathbb{R}\times \mathbb{R} \) 上で定義された関数 \( f:D\to \mathbb{R} \) が連続であるとする。
このとき、次の形の1階微分方程式
$$ y'(x)=f(x,y(x)) $$
を1階微分方程式の正規形という。
\( n \) 階微分方程式の場合は次のように定義されます。
開集合 \( D\subset \mathbb{R}\times \mathbb{R}^n \) 上で定義された関数 \( f:D\to \mathbb{R} \) が連続であるとする。
このとき、次の形の \( n \) 階微分方程式
$$ y^{(n)}(x)=f(x,y(x),\cdots,y^{(n-1)}(x)) $$
を \( n \) 階微分方程式の正規形という。
また、連立1階微分方程式の場合は次のように定義されます。
開集合 \( D\subset \mathbb{R}\times \mathbb{R}^n \) 上で定義された関数
$$ f_i:D\to \mathbb{R}, \quad (i=1,2,\dots,n) $$
が連続であるとする。このとき、次の形の連立1階微分方程式
$$ \begin{cases} y’_1(x)=f_1(x,y_1(x),\cdots,y_n(x)) \\ y’_2(x)=f_2(x,y_1(x),\cdots,y_n(x)) \\ \quad \quad \vdots \\ y’_n(x)=f_n(x,y_1(x),\cdots,y_n(x)) \end{cases} $$
を連立1階微分方程式の正規形という。
正規形の \( n \) 階微分方程式
$$ y^{(n)}(x)=f(x,y(x),\cdots,y^{(n-1)}(x)) $$
は、
$$ y_1(x)=y(x), \ y_2(x)=y'(x), \ \cdots, \ y_n(x)=y^{(n-1)}(x) $$
とおくことにより、正規形の連立1階微分方程式
$$ \begin{cases} y’_1(x)=y_2(x) \\ y’_2(x)=y_3(x) \\ \quad \quad \vdots \\ y’_{n-1}(x)=y_n(x) \\ y’_n(x)=f(x,y_1(x),\cdots,y_n(x)) \end{cases} $$
に帰着することができます。
したがって、これ以降連立1階微分方程式の解の存在について見ていきます。
正規形の連立1階微分方程式
$$ \begin{cases} y’_1(x)=f_1(x,y_1(x),\cdots,y_n(x)) \\ y’_2(x)=f_2(x,y_1(x),\cdots,y_n(x)) \\ \quad \quad \vdots \\ y’_n(x)=f_n(x,y_1(x),\cdots,y_n(x)) \end{cases} $$
はベクトル
$$ \mathbf{y}(x)=\begin{pmatrix} y_1(x) \\ \vdots \\ y_n(x) \end{pmatrix}, \quad \mathbf{y}'(x)=\begin{pmatrix} y’_1(x) \\ \vdots \\ y’_n(x) \end{pmatrix}, \quad \mathbf{f}(x,\mathbf{y})=\begin{pmatrix} f_1(x,\mathbf{y}) \\ \vdots \\ f_n(x,\mathbf{y}) \end{pmatrix} $$
を用いることにより、
$$ \mathbf{y}'(x)=\mathbf{f}(x,\mathbf{y}) \tag{1} $$
と簡単に表現することができます。
まず初めに連立1階微分方程式(1)の解の厳密な定義を述べていきましょう。
\( I \) を区間として、 \( D=I\times \mathbb{R}^n \) とする。
このとき、 \( \mathbf{y}:I\to \mathbb{R}^n \) が連立1階微分方程式(1)
$$ \mathbf{y}'(x)=\mathbf{f}(x,\mathbf{y}) $$
の解であるとは、次をみたすことをいう。
(1) \( \mathbf{y} \) は区間 \( I \) 上で微分可能である。
(2) 任意の \( x\in I \) に対して、 \( (x,\mathbf{y})\in D \) である。
(3) 任意の \( x\in I \) に対して、 \( \mathbf{y}'(x)=\mathbf{f}(x,\mathbf{y}) \) をみたす。
これに加えて、 \( (x_0,y_0)\in D \) として、
$$ \mathbf{y}(x_0)=\mathbf{y}_0 \tag{2} $$
をみたすとき \( \mathbf{y} \) は初期条件(2)をみたす微分方程式(1)の解という。
この解の定義のままでは使いにくいので、同値な言い換えを与えます。
そのために、ベクトル値関数
$$ \mathbf{v}(x)=(v_1(x),v_2(x),\cdots,v_n(x)) $$
に対して、ベクトル値関数の積分を次で定めます。
$$ \int_a^b\mathbf{v}(\xi)d\xi=\left( \int_a^bv_1(\xi)d\xi,\int_a^bv_2(\xi)d\xi,\cdots,\int_a^bv_n(\xi)d\xi \right) $$
\( \mathbf{y}:I\to\mathbb{R}^n \) が初期条件(2)をみたす(1)の解であるための必要十分条件は、 \( \mathbf{y} \) が積分方程式
$$ \mathbf{y}(x)=\mathbf{y}_0+\int_{x_0}^x\mathbf{f}(\xi,\mathbf{y}(\xi))d\xi, \ (x\in I) \tag{3} $$
の連続解であることである。
定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)
(必要性) \( \mathbf{y}(x) \) は方程式(1)の解であるとします。つまり、次をみたします。
$$ \mathbf{y}'(x)=\mathbf{f}(x,\mathbf{y}(x)), \quad (x\in I) \tag{4} $$
いま、正規形の微分方程式の定義から \( \mathbf{f}(x,\mathbf{y}(x)) \) は連続であるので、 \( \mathbf{y}'(x) \) も連続となります。
よって、式(4)の両辺を \( x \) から \( x_0 \) まで積分すると、
$$ \mathbf{y}(x)-\mathbf{y}_0=\int_{x_0}^x\mathbf{f}(\xi,\mathbf{y}(\xi))d\xi $$
が得られ、 \( \mathbf{y}(x) \) が方程式(1)の解、つまり微分可能であることから連続性がでてきます。
(十分性) \( \mathbf{y}(x) \) が積分方程式(3)の連続解であるとします。
\( \mathbf{y}(x) \) は連続なので、 \( \mathbf{f}(x,\mathbf{y}(x)) \) も連続となります。
したがって、 \( \displaystyle \int_{x_0}^x\mathbf{f}(\xi,\mathbf{y}(\xi))d\xi \) は \( x \) について微分可能となります。
よって、積分方程式(3)の両辺を \( x \) で微分すると、
$$ \mathbf{y}'(x)=\mathbf{f}(x,\mathbf{y}(x)) $$
が得られて、 \( \mathbf{y}’ \) は連続となります。また、
$$ \mathbf{y}(x_0)=\mathbf{y}_0+\int_{x_0}^{x_0}\mathbf{f}(\xi,\mathbf{y}(\xi))d\xi=\mathbf{y}_0 $$
より、初期条件(2)をみたします。
したがって、 \( \mathbf{y} \) は初期条件(2)をみたす(1)の解となります。
ピカールの逐次近似法
それでは、正規形の連立1階微分方程式の初期値問題
$$ \begin{cases} \mathbf{y}'(x)=\mathbf{f}(x,\mathbf{y}(x)) \\ \mathbf{y}(x_0)=\mathbf{y}_0 \end{cases} $$
の解の存在について見ていきましょう。
この記事ではまず具体的な正規形の連立1階微分方程式の初期値問題を解くことを考えます。
(次の記事で一般的に解の存在について示していきます)
定理1から積分方程式(3)を解くことになりますが、これを解くための手法としてピカールの逐次近似法があります。
これは
$$ \mathbf{y}_0(x)\equiv \mathbf{y}_0, \quad \mathbf{y}_k(x)=\mathbf{y}_0+\int_{x_0}^x\mathbf{f}(\xi,\mathbf{y}_{k-1}(\xi))d\xi $$
とおくと、この関数列 \( \mathbf{y}_k \) の \( k\to\infty \) での極限が積分方程式(3)をみたす \( \mathbf{y} \) となるという論法になります。
次の正規形の微分方程式を考えます。
$$ \begin{cases} y'(x)=y(x) \\ y(0)=c \end{cases} $$
定理1より積分方程式
$$ y(x)=c+\int_0^xy(\xi)d\xi $$
を解けばよい。
ピカールの逐次近似法を用いるので、
$$ y_0(x)\equiv c, \quad y_k(x)=c+\int_0^xy_{k-1}(\xi)d\xi $$
とおく。 \( k=1,2,3 \) を計算してみると、
$$ y_1(x)=c+\int_0^xy_0(\xi)d\xi=c+\int_0^xcd\xi=c(1+x) $$
$$ y_2(x)=c+\int_0^xy_1(\xi)d\xi=c+\int_0^xc(1+\xi)d\xi=c\left( 1+x+\frac{x^2}{2} \right) $$
$$ y_3(x)=c+\int_0^xy_2(\xi)d\xi=c+\int_0^xc\left( 1+\xi+\frac{\xi^2}{2} \right)d\xi=c\left( 1+x+\frac{x^2}{2}+\frac{x^3}{6} \right) $$
したがって、
$$ y_k(x)=c\sum_{j=0}^k\frac{x^j}{j!} $$
と予想される。これを数学的帰納法で示す。
\( k=0 \) のときは正しい。 \( k \) が正しいとして、 \( y_{k+1}(x) \) を計算すると、
$$ \begin{align} y_{k+1}(x)&=c+\int_0^xy_k(\xi)d\xi=c+\int_0^xc\sum_{j=0}^k\frac{\xi^j}{j!}d\xi \\ &=c+c\sum_{j=0}^k\int_0^x\frac{\xi^j}{j!}d\xi=c+c\sum_{j=0}^k\frac{x^{j+1}}{(j+1)!} \\ &=c+c\sum_{j=1}^{k+1}\frac{x^j}{j!}=c\sum_{j=0}^{k+1}\frac{x^j}{j!} \end{align} $$
したがって、数学的帰納法により、この予想は正しい。よって、 \( k\to\infty \) で極限をとると、
$$ y_k(x)=c\sum_{j=0}^k\frac{x^j}{j!}\to c\sum_{j=0}^{\infty}\frac{x^j}{j!}=ce^x=y(x) $$
次の正規形の微分方程式を考えます。
$$ \begin{cases} y^{\prime\prime}(x)+y(x)=0 \\ y(0)=c_1 \\ y'(0)=c_2 \end{cases} $$
\( z=y’ \) とおくと、この方程式は次のように書きかえられます。
$$ \begin{cases} y'(x)=z(x) \\ y(0)=c_1 \end{cases}, \ \begin{cases} z'(x)=-y(x) \\ z(0)=c_2 \end{cases} $$
よって、定理1より積分方程式
$$ \begin{cases} \displaystyle y(x)=c_1+\int_0^xz(\xi)d\xi \\ \displaystyle z(x)=c_2-\int_0^xy(\xi)d\xi \end{cases} $$
を解けばよい。
ピカールの逐次近似法を用いるので、
$$ \begin{cases} y_0(x)\equiv c_1 \\ \displaystyle y_k(x)=c_1+\int_0^xz_{k-1}(\xi)d\xi \end{cases}, \quad \begin{cases} z_0(x)\equiv c_2 \\ \displaystyle z_k(x)=c_2-\int_0^xy_{k-1}(\xi)d\xi \end{cases} $$
とおく。すると、 \( k≧1 \) のとき、
$$ y_k(x)=c_1\sum_{j=0}^{[\frac{k}{2}]}\frac{(-1)^j}{(2j)!}x^{2j}+c_2\sum_{j=0}^{[\frac{k-1}{2}]}\frac{(-1)^j}{(2j+1)!}x^{2j+1} $$
$$ z_k(x)=-c_1\sum_{j=0}^{[\frac{k-1}{2}]}\frac{(-1)^j}{(2j+1)!}x^{2j+1}+c_2\sum_{j=0}^{[\frac{k}{2}]}\frac{(-1)^j}{(2j)!}x^{2j} $$
(ここで \( [k] \) は \( k \) を超えない最大の整数)
となることが数学的帰納法により示すことができます。よって、 \( k\to\infty \) で極限をとると、
$$ \begin{align} y_k(x)&\to c_1\sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^j}{(2j)!}x^{2j}+c_2\sum_{j=0}^{\infty}\frac{(-1)^j}{(2j+1)!}x^{2j+1} \\ &=c_1\cos x+c_2\sin x=y(x) \end{align} $$
今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。