複素関数論12:複素関数のテイラー展開

こんにちは、ひかりです。

今回は複素関数論から複素関数のテイラー展開について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 複素関数のテイラー展開とマクローリン展開について
  • 複素関数の位数と零点について
目次

複素関数のテイラー展開とマクローリン展開

実関数のテイラーの定理と同様にして、複素関数のテイラーの定理が成り立ちます。

定理1 (複素関数のテイラーの定理)

\( D\subset \mathbb{C} \) を領域、 \( f:D\to \mathbb{C} \) を \( D \) 上正則、 \( a\in D, D_R(a)\subset D \) とする。ここで、

\[ D_R(a)=\{ z\in \mathbb{C} : |z-a|<R\} \]

このとき、任意の \( z\in D_R(a) \) に対して次が成り立つ。

$$ \begin{align*} f(z)&=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{f^{(n)}(a)}{n!}(z-a)^n \\ &=f(a)+f'(a)(z-a)+\frac{1}{2!}f^{\prime\prime}(a)(z-a)^2+\cdots \end{align*} \tag{1} $$

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

もう少しお待ちください。

定義1 (テイラー展開)

定理1と同じ設定において、式(1)の級数を \( f \) の \( a \) を中心とするテイラー展開という。

また、 \( a=0 \) のとき、 \( f \) のマクローリン展開という。

実関数 \( f:\mathbb{R}\to \mathbb{R} \) の場合は無限回微分可能であっても、テイラー展開できるとは限りません。(以下の例1をご覧ください。) 一方で、正則関数は常にテイラー展開することができます。

例1

次の関数を考える。

\[ \begin{align} f(x)=\begin{cases} e^{-\frac{1}{x}} & (x>0) \\ 0 & (x≦0) \end{cases} \end{align} \]

このとき、 \( f^{(n)}(0)=0 \ (n\in\mathbb{N}) \) となり、原点でテイラー展開できない。

また、正則関数がベキ級数の形で表されたら、それはテイラー展開であるということも知られています。

定理2

\( D\subset \mathbb{C} \) を領域、 \( f:D\to \mathbb{C} \) を \( D \) 上正則、 \( a\in D \) とする。

このとき、 \( c_n\in \mathbb{C} \ (n\in\mathbb{N}) \) に対して、 \( f \) が次のようにベキ級数展開できたとする。

\[ f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}c_n(z-a)^n \tag{2} \]

このとき、 \( f \) の \( z=a \) におけるテイラー展開は式(2)に一致する。

とくに、 \( c_n=\frac{f^{(n)}(a)}{n!} \) である。

例2

\( e^z, \ \cos z, \ \sin z \) は定義と定理2から次のようにテイラー展開できる。

\[ e^z=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}z^n=1+z+\frac{1}{2!}z^2+\frac{1}{3!}z^3+\cdots \]

\[ \cos z=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}z^{2n}=1-\frac{1}{2!}z^2+\frac{1}{4!}z^4-\frac{1}{6!}z^6+\cdots \]

\[ \sin z=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}z^{2n+1}=z-\frac{1}{3!}z^3+\frac{1}{5!}z^5-\frac{1}{7!}z^7+\cdots \]

例3

\( \frac{1}{1-z} \) のマクローリン展開は次のようになる。

\[ \frac{1}{1-z}=\sum_{n=0}^{\infty}z^n=1+z+z^2+z^3+\cdots \]

また、 \( a\in \mathbb{C}\backslash \{1\} \) を中心とするテイラー展開は次のようになる。

\[ \begin{align} \frac{1}{1-z}&=\frac{1}{(1-a)-(z-a)}=\frac{1}{1-a}\frac{1}{1-\left( \frac{z-a}{1-a}\right)}=\frac{1}{1-a}\sum_{n=0}^{\infty}\left( \frac{z-a}{1-a} \right)^n \\ &=\frac{1}{1-a}+\left(\frac{1}{1-a}\right)^2(z-a)+\left( \frac{1}{1-a}\right)^3(z-a)^2+\cdots \end{align} \]

例4

\( \frac{z+1}{(z-1)(z+2)} \) のマクローリン展開を \( z^2 \) の項まで求める。

\[ \frac{z+1}{(z-1)(z+2)}=a_0+a_1z+a_2z^2+\cdots \]

と展開できたとして、 \( a_0,a_1,a_2 \) を求める。 \( (z-1)(z+2) \) をかけると、

\[ \begin{align} z+1&=(z^2+z-2)(a_0+a_1z+a_2z^2+\cdots) \\ &=-2a_0+(-2a_1+a_0)z+(-2a_2+a_1+a_0)z^2+\cdots \end{align} \]

より、係数を比較すると、

\[ \begin{cases} -2a_0=1 \\ -2a_1+a_0=1 \\ -2a_2+a_1+a_0=0 \end{cases} \]

これを解くと、

\[ a_0=-\frac{1}{2}, \quad a_1=-\frac{3}{4}, \quad a_2=-\frac{5}{8} \]

よって、

\[ \frac{z+1}{(z-1)(z+2)}=-\frac{1}{2}-\frac{3}{4}z-\frac{5}{8}z^2+\cdots \]

複素関数の位数と零点

最後に、複素関数の位数と零点について定義します。

定義2 (複素関数の位数と零点)

\( D\subset \mathbb{C} \) を領域、 \( f:D\to \mathbb{C} \) を \( D \) 上正則、 \( a\in D \) とする。このとき、

\[ f(z)=\sum_{n=m}^{\infty}c_n(z-a)^n=c_m(z-a)^m+c_{m+1}(z-a)^{m+1}+\cdots \]

かつ \( c_m\not=0 \) となるとき、 \( m \) を \( f \) の \( a \) における位数といい、 \( \text{ord}[f;a]=m \) とかく。

また、 \( a \) を \( f \) の \( m \) 位の零点という。

例5

\[ \sin z=z-\frac{1}{3!}z^3+\frac{1}{5!}z^5-\frac{1}{7!}z^7+\cdots \]

より、 \( \text{ord}[\sin z;0]=1 \) である。また、

\[ \sin (z^2)=z^2-\frac{1}{3!}z^6+\frac{1}{5!}z^{10}-\frac{1}{7!}z^{14}+\cdots \]

より、 \( \text{ord}[\sin (z^2);0]=2 \) である。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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