複素関数論04:コーシー・リーマンの方程式

こんにちは、ひかりです。

今回は複素関数論からコーシー・リーマンの方程式について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • コーシー・リーマンの方程式について
  • コーシー・リーマンの方程式の別表現について
目次

コーシー・リーマンの方程式

前回の記事にて、正則関数を定義しました。

ここでは正則関数がみたす条件について見ていきましょう。

\( D\subset \mathbb{C} \) を開集合として、 \( f:D\to \mathbb{C} \) を \( D \) 上正則であるとします。そして、

$$ u(x,y)=\text{Re} \ f(z), \quad v(x,y)=\text{Im} \ f(z) $$

とおきます。つまり、

$$ f(z)=u(x,y)+iv(x,y) \quad (z=x+iy\in D) $$

\( z=x+iy\in D \) に対して、

$$ \frac{f(z+h)-f(z)}{h}\to f'(z) \quad (h\to 0) $$

となることから、 \( u,v \) のみたすべき性質を調べてみましょう。

\( h\in\mathbb{R} \) のとき

\( z+h=x+h+iy \) となるので、

$$ \begin{align} \frac{f(z+h)-f(z)}{h}&=\frac{1}{h}(u(x+h,y)+iv(x+h,y)-(u(x,y)+iv(x,y))) \\ &=\frac{1}{h}(u(x+h,y)-u(x,y))+\frac{i}{h}(v(x+h,y)-v(x,y)) \\ &\to \frac{\partial u}{\partial x}(x,y)+i\frac{\partial v}{\partial x}(x,y) \quad (h\to 0) \end{align} $$

\( h=ik, \ k\in\mathbb{R} \) のとき

\( z+h=x+i(y+k) \) となるので、

$$ \begin{align} \frac{f(z+h)-f(z)}{h}&=\frac{1}{ik}(u(x,y+k)+iv(x,y+k)-(u(x,y)+iv(x,y))) \\ &=\frac{1}{k}(v(x,y+k)-v(x,y))+\frac{1}{ik}(u(x,y+k)-u(x,y)) \\ &\to \frac{\partial v}{\partial y}(x,y)-i\frac{\partial u}{\partial y}(x,y) \quad (k\to 0) \end{align} $$

これらをあわせると、

$$ f'(z)=\frac{\partial u}{\partial x}(x,y)+i\frac{\partial v}{\partial x}(x,y)=\frac{\partial v}{\partial y}(x,y)-i\frac{\partial u}{\partial y}(x,y) $$

となるので、実部と虚部を比較すると次が成り立ちます。

$$ \begin{cases} \frac{\partial u}{\partial x}(x,y)=\frac{\partial v}{\partial y}(x,y) \\ \frac{\partial v}{\partial x}(x,y)=-\frac{\partial u}{\partial y}(x,y) \end{cases} $$

この逆も成り立ちます。まとめると、

定理1 (コーシー・リーマンの方程式)

\( D\subset \mathbb{C} \) を開集合として \( f:D\to \mathbb{C} \) とする。また、

$$ u(x,y)=\text{Re} \ f(z), \quad v(x,y)=\text{Im} \ f(z) $$

とおく。つまり、

$$ f(z)=u(x,y)+iv(x,y) \quad (z=x+iy\in D) $$

このとき、 \( f \) が \( z_0=x_0+iy_0\in D \) で微分可能

\( \iff \) \( u,v \) は \( (x_0,y_0) \) で全微分可能であり、

$$ \begin{cases} \frac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0)=\frac{\partial v}{\partial y}(x_0,y_0) \\ \frac{\partial v}{\partial x}(x_0,y_0)=-\frac{\partial u}{\partial y}(x_0,y_0) \end{cases} \tag{CR} $$

をみたす。さらに、このとき

$$ f'(z_0)=\frac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0)+i\frac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0) $$

となる。この式(CR)をコーシー・リーマンの方程式という。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

(\(\Rightarrow\)) (CR)については上で示しました。全微分可能性については複素関数論03の定理1から従います。

(微分積分学09の定理2より \( C^1 \)級であれば全微分となります)


(\(\Leftarrow\)) 仮定より

\[ f(z)-f(z_0)=(u(x,y)-u(x_0,y_0))+i(v(x,y)-v(x_0,y_0)) \]

したがって、 \( u,v \) が \( (x_0,y_0) \) で全微分可能なので、

\[ u(x,y)-u(x_0,y_0)=\frac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0)(x-x_0)+\frac{\partial u}{\partial y}(x_0,y_0)(y-y_0)+R_1(x,y) \]

\[ v(x,y)-v(x_0,y_0)=\frac{\partial v}{\partial x}(x_0,y_0)(x-x_0)+\frac{\partial v}{\partial y}(x_0,y_0)(y-y_0)+R_2(x,y) \]

とおくと、

\[ \frac{|R_1(x,y)|}{|(x,y)-(x_0,y_0)|}, \ \frac{|R_2(x,y)|}{|(x,y)-(x_0,y_0)|} \to 0 \quad ((x,y)\to (x_0,y_0)) \]

よって、コーシー・リーマンの方程式より、

$$ \begin{align} f(z)-f(z_0)&=\left( \frac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0)(x-x_0)+\frac{\partial u}{\partial y}(x_0,y_0)(y-y_0) \right) \\ & \quad +i\left( \frac{\partial v}{\partial x}(x_0,y_0)(x-x_0)+\frac{\partial v}{\partial y}(x_0,y_0)(y-y_0) \right)+R_1(x,y)+R_2(x,y) \\ &=\frac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0)(z-z_0)+i\frac{\partial v}{\partial x}(x_0,y_0)(z-z_0)+R_1(x,y)+R_2(x,y) \end{align} $$

となるので、

$$ \begin{align} &\left| \frac{f(z)-f(z_0)}{z-z_0}-\left( \frac{\partial u}{\partial x}(x_0,y_0)+i\frac{\partial v}{\partial x}(x_0,y_0)\right)\right| \\ &=\left| \frac{R_1(x,y)+R_2(x,y)}{z-z_0}\right|\to 0 \quad (z\to z_0) \end{align} $$

したがって、 \( f \) は \( z_0=x_0+iy_0\in D \) で微分可能となります。

例1

(1) 次の複素関数を考える。

$$ f(z)=|z|^2=x^2+y^2 \quad (z=x+iy\in \mathbb{C}) $$

これは \( z\in\mathbb{C}\backslash\{0\} \) で微分可能でない。実際、

$$ u(x,y)=x^2+y^2, \quad v(x,y)=0 $$

とおくと、

$$ f(z)=u(x,y)+iv(x,y) $$

となる。このとき、

$$ \frac{\partial u}{\partial x}(x,y)=2x, \ \frac{\partial u}{\partial y}(x,y)=2y, \ \frac{\partial v}{\partial x}(x,y)=0, \ \frac{\partial v}{\partial y}(x,y)=0 $$

したがって \( z\not=0 \) に対して、

$$ \frac{\partial u}{\partial x}(x,y)\not=\frac{\partial v}{\partial y}(x,y) \ または \ \frac{\partial u}{\partial y}(x,y)\not=-\frac{\partial v}{\partial x}(x,y) $$

となり、コーシー・リーマンの方程式をみたさないので \( z\in\mathbb{C}\backslash\{0\} \) で微分可能でない。


(2) 次の複素関数を考える。

$$ f(z)=e^x(\cos y+i\sin y) \quad (z=x+iy\in \mathbb{C}) $$

これは \( \mathbb{C} \) 上で正則である。実際、

$$ u(x,y)=e^x\cos y, \quad v(x,y)=e^x\sin y $$

とおくと、

$$ f(z)=u(x,y)+iv(x,y) $$

となる。このとき、

$$ \begin{align} &\frac{\partial u}{\partial x}(x,y)=e^x\cos y, \quad \frac{\partial u}{\partial y}(x,y)=-e^x\sin y, \\ & \frac{\partial v}{\partial x}(x,y)=e^x\sin y, \quad \frac{\partial v}{\partial y}(x,y)=e^x\cos y \end{align} $$

したがって、

$$ \frac{\partial u}{\partial x}(x,y)=\frac{\partial v}{\partial y}(x,y), \quad \frac{\partial u}{\partial y}(x,y)=-\frac{\partial v}{\partial x}(x,y) $$

となり、コーシー・リーマンの方程式をみたすので \( f \) は \( \mathbb{C} \) 上で正則となる。

コーシー・リーマンの方程式の別表現

\( z=x+iy \) とおくと \( \overline{z}=x-iy \) であるので、 \( z,\overline{z} \) は互いに独立ではありません。

しかし、形式的に \( z \) と \( \overline{z} \) を独立変数と見なして偏微分の連鎖公式を適用してみましょう。

$$ x=\frac{1}{2}(z+\overline{z}), \quad y=\frac{1}{2i}(z-\overline{z}) $$

に注意すると、

$$ \frac{\partial f}{\partial z}=\frac{\partial f}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial z}+\frac{\partial f}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial z}=\frac{1}{2}\frac{\partial f}{\partial x}+\frac{1}{2i}\frac{\partial f}{\partial y}=\frac{1}{2}\left( \frac{\partial f}{\partial x}-i\frac{\partial f}{\partial y} \right) \tag{1} $$

$$ \frac{\partial f}{\partial \overline{z}}=\frac{\partial f}{\partial x}\frac{\partial x}{\partial \overline{z}}+\frac{\partial f}{\partial y}\frac{\partial y}{\partial \overline{z}}=\frac{1}{2}\frac{\partial f}{\partial x}-\frac{1}{2i}\frac{\partial f}{\partial y}=\frac{1}{2}\left( \frac{\partial f}{\partial x}+i\frac{\partial f}{\partial y} \right) \tag{2} $$

上の計算は形式的なものなので、この上の式によって \( \frac{\partial f}{\partial z},\frac{\partial f}{\partial \overline{z}} \) を定義することにします。

また、 \( f(z)=u+iv \) とおくと

$$ \frac{\partial f}{\partial x}=u_x+iv_x, \quad \frac{\partial f}{\partial y}=u_y+iv_y $$

であるので、式(1),(2)はそれぞれ次のように表せます。

$$ \begin{align} \frac{\partial f}{\partial z}&=\frac{1}{2}\{(u_x+iv_x)-i(u_y+iv_y)\}=\frac{1}{2}\{(u_x+v_y)+i(-u_y+v_x)\} \end{align} $$

$$ \begin{align} \frac{\partial f}{\partial \overline{z}}&=\frac{1}{2}\{(u_x+iv_x)+i(u_y+iv_y)\}=\frac{1}{2}\{(u_x-v_y)+i(u_y+v_x)\} \end{align} \tag{3} $$

式(3)よりコーシー・リーマンの方程式は

$$ \frac{\partial f}{\partial \overline{z}}=0 $$

と同値であることがわかります。まとめると、

定理2 (コーシー・リーマンの方程式の別表現)

\( D\subset \mathbb{C} \) を開集合として \( f:D\to \mathbb{C} \) とする。また、

$$ u(x,y)=\text{Re} \ f(z), \quad v(x,y)=\text{Im} \ f(z) $$

とおく。つまり、

$$ f(z)=u(x,y)+iv(x,y) \quad (z=x+iy\in D) $$

このとき、 \( f \) が \( z=x+iy\in D \) で微分可能であることの必要十分条件は \( u,v \) が \( (x,y) \) で全微分可能であり次をみたすことである。

$$ \frac{\partial f}{\partial \overline{z}}=0 $$

例2

次の複素関数の微分可能性について調べる。

$$ f(z)=\frac{z(\overline{z})^2}{2}-\overline{z} $$

\( z=x+iy \) とすると、 \( \overline{z}=x-iy \) であるので、

$$ \begin{align} f(z)&=\frac{1}{2}(x+iy)(x-iy)^2-(x-iy)=\frac{1}{2}(x^2+y^2)(x-iy)-(x-iy) \\ &=\frac{1}{2}(x^3-ix^2y+xy^2-iy^3)-(x-iy) \\ &=\frac{1}{2}(x^3+xy^2-2x)-\frac{1}{2}i(x^2y+y^3-2y) \end{align} $$

よって、

$$ u(x,y)=\frac{1}{2}(x^3+xy^2-2x), \quad v(x,y)=-\frac{1}{2}(x^2y+y^3-2y) $$

とおくと、

$$ f(z)=u(x,y)+iv(x,y) $$

となり、 \( u,v \) は全微分可能である。また、

$$ \frac{\partial f}{\partial \overline{z}}=z\overline{z}-1=|z|^2-1 $$

であるので、定理2より \( f(z) \) は \( |z|^2-1=0 \) となる点、つまり単位円周上の点 \( z_0 \) でのみ微分可能であり、微分係数は

$$ \frac{\partial f}{\partial z}(z_0)=\frac{1}{2}(\overline{z_0})^2 $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

目次