微分積分学14:多変数関数の広義積分

こんにちは、ひかりです。

今回は微分積分学から多変数関数の広義積分について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 2変数関数の広義積分の定義について
  • 2変数関数の広義積分の計算例について
  • ガウス積分の計算やベータ関数・ガンマ関数の関係式の求め方
目次

2変数関数の広義積分の定義

1変数関数と同様に、2変数関数の広義積分を考えてみましょう。

そのための準備として、次を定義します。

定義1 ( \( D \) の近似列)

\( D\subset \mathbb{R}^2 \) (つまり、平面上の集合 \( D \) ) に対して、次の3つの条件をみたす列 \( \{ K_n\}_{n=1}^{\infty} \) を \( D \) の近似列という。

(1) $$ K_1\subset K_2 \subset \cdots \subset K_n \subset \cdots \subset D $$

(2) 各 \( K_n \) は有界閉集合である。

(3) \( D \) 内のすべての有界閉集合 \( K \) に対して、ある番号 \( n \) をとれば、 \( K \subset K_n \)

すべての \( D \subset \mathbb{R}^2 \) に対して、近似列 \( \{K_n\}_{n=1}^{\infty} \) が存在するとは限りませんが、 \( D \) が有界閉集合や開集合であれば必ず存在します。

1つの \( D \) に対して、複数の近似列が存在することもあります。

以降、 \( D \) は近似列 \( \{K_n\}_{n=1}^{\infty} \) をもつ集合とします。

このとき、2変数関数の広義積分を次で定義します。

定義2 (2変数関数の広義積分)

\( D \subset \mathbb{R}^2 \) に対して、 \( D \) の近似列を \( \{ K_n\}_{n=1}^{\infty} \) とする。

(1) \( D \) 上で \( f(x,y)≧0 \) のとき、

$$ \iint_Df(x,y)dxdy=\lim_{n\to \infty}\iint_{K_n}f(x,y)dxdy $$

で \( f \) の \( D \) 上での広義積分を定義する。

また右辺の極限が収束するとき、 \( f \) は \( D \) 上で広義積分可能であるという。

(2) \( D \) 上で \( f(x,y)≧0 \) とは限らないとする。

$$ \lim_{n\to \infty}\iint_{K_n}|f(x,y)|dxdy<\infty $$

であるとき、

$$ \iint_Df(x,y)dxdy=\iint_Df_+(x,y)dxdy-\iint_Df_-(x,y)dxdy $$

で \( f \) の \( D \) 上での広義積分を定義する。ここで、

$$ f_+(x,y)=\max\{ f(x,y),0\}, \quad f_-(x,y)=\min\{ -f(x,y),0 \} $$

(よって、右辺の2つの広義積分は(1)のケースになることに注意)

また、

$$ \lim_{n\to \infty}\iint_{K_n}|f(x,y)|dxdy=\infty $$

のときは、 \( f \) の \( D \) 上での広義積分は定義しない。

なぜ、このように \( f(x,y)≧0 \) の場合の広義積分を定義してから、そうではない場合を定義するのでしょうか。

それは、この広義積分が近似列 \( \{ K_n\}_{n=1}^{\infty} \) に依らないようにしたいからです。

先ほどの注意で述べたように、1つの \( D \) に対して、複数の近似列が存在することもあります。

このとき、それぞれの近似列で別の積分値が出てきたとしたら、とてもやっかいです。

ですが、 \( f(x,y)≧0 \) のときは、そうはならないというのが次の定理になります。

定理1 (広義積分は近似列に依存しない)

\( \{ K_n \}_{n=1}^{\infty}, \ \{ K’_m \}_{m=1}^{\infty} \) を同じ \( D \) の近似列とする。

また、 \( D \) 上で \( f(x,y)≧0 \) とする。このとき、

$$ \lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}f(x,y)dxdy $$

が存在して、収束するならば、

$$ \lim_{m\to\infty}\iint_{K’_n}f(x,y)dxdy $$

も存在して、収束する。さらに、

$$ \lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}f(x,y)dxdy=\lim_{m\to\infty}\iint_{K’_n}f(x,y)dxdy $$

つまり、広義積分は近似列に依らないで定まる。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( f(x,y)≧0 \) より、各 \( K_n \) に対して、

$$ \iint_{K_n}f(x,y)dxdy≧0 $$

また、近似列の定義(1),(2)より、 \( n≦n’ \) に対して、

$$ \iint_{K_n}f(x,y)dxdy≦\iint_{K_{n’}}f(x,y)dxdy<\infty $$

よって、列

$$ \left\{ \iint_{K_n}f(x,y)dxdy \right\} $$

は収束する非減少列となります。

ここで、 \( K’_m \) を1つとると、近似列の定義(3)より、 \( K’_m\subset K_{n(m)} \) となる \( n(m) \) が存在するので、

$$ \begin{align} \iint_{K’_m}f(x,y)dxdy&≦\iint_{K_{n(m)}}f(x,y)dxdy \\ &≦\lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}f(x,y)dxdy<\infty \quad (K_n は収束する非減少列) \end{align} $$

したがって、最両辺を \( m\to \infty \) とすると、右辺は \( m \) に依らないので、

$$ \lim_{m\to\infty}\iint_{K’_m}f(x,y)dxdy≦\lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}f(x,y)dxdy $$

となります。 \( \{ K_n \}_{n=1}^{\infty}, \ \{ K’_m \}_{m=1}^{\infty} \) の役割を入れかえてあげれば、逆向きの不等式も得られます。

よって、2つの極限値は等しくなります。

2変数関数の広義積分の計算例

2変数関数の広義積分を実際に計算してみましょう。

計算のポイントとしては、定理1より近似列は好きなようにとってきてよいので、計算のしやすい(累次積分に変換できる)近似列を選ぶことです。

例1

(1) $$ D=\{ (x,y)|0≦y≦x≦1 \} $$

のとき、次の積分を求める。

$$ \iint_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}} dxdy $$

被積分関数 \( \frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}} \) は \( (x,y)=(0,0) \) で定義されないため、この積分は広義積分である。

よって、点 \( (x,y)=(0,0) \) を除くようにして、 \( D \) の近似列 \( \{ K_n \}_{n=1}^{\infty} \) を次のように定める。

$$ K_n=\left\{ (x,y) | 0≦y≦x, \ \frac{1}{n}≦x≦1 \right\} $$

したがって、 \( K_n \) での積分を考えると、

$$ \begin{align} &\iint_{K_n}\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}} dxdy=\int_{\frac{1}{n}}^1\int_0^x\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}}dydx \\ &=\int_{\frac{1}{n}}^1\left[ \log|y+\sqrt{x^2+y^2}| \right]^x_0 dx \\ &=\int_{\frac{1}{n}}^1(\log|x+\sqrt{x^2+x^2}|-\log|x|)dx \\ &=\int_{\frac{1}{n}}^1(\log|(1+\sqrt{2})x|-\log|x|)dx \\ &=\int_{\frac{1}{n}}^1\log(1+\sqrt{2})dx=\log(1+\sqrt{2})[x]^1_{\frac{1}{n}} \\ &=\left(1-\frac{1}{n}\right)\log(1+\sqrt{2}) \end{align} $$

(2つ目の等号については、基本的な関数の積分の公式より成り立つ)

よって、 \( D \) 上の積分は

$$ \begin{align} \iint_D\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}} dxdy&=\lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}\frac{1}{\sqrt{x^2+y^2}} dxdy \\ &=\lim_{n\to\infty}\left(1-\frac{1}{n}\right)\log(1+\sqrt{2})=\log(1+\sqrt{2}) \end{align} $$

(2) $$ D=\{ (x,y)|0≦y≦x≦1 \} $$

のとき、次の積分を求める。

$$ \iint_D\frac{1}{\sqrt{x-y}} dxdy $$

被積分関数 \( \frac{1}{\sqrt{x-y}} \) は \( y=x \) 上で定義されないため、この積分は広義積分である。

よって、直線 \( y=x \) を除くようにして、 \( D \) の近似列 \( \{ K_n \}_{n=1}^{\infty} \) を次のように定める。

$$ K_n=\left\{ (x,y) | 0≦y≦x-\frac{1}{n}, \ \frac{1}{n}≦x≦1 \right\} $$

したがって、 \( K_n \) での積分を考えると、

$$ \begin{align} \iint_{K_n}\frac{1}{\sqrt{x-y}} dxdy&=\int_{\frac{1}{n}}^1\int_0^{x-\frac{1}{n}}\frac{1}{\sqrt{x-y}}dydx \\ &=\int_{\frac{1}{n}}^1\left[ -2\sqrt{x-y} \right]^{x-\frac{1}{n}}_0 dx \\ &=\int_{\frac{1}{n}}^12(\sqrt{x}-\sqrt{\frac{1}{n}})dx \\ &=\left[ \frac{4}{3}x^{\frac{3}{2}}-2\sqrt{\frac{1}{n}}x \right]^1_{\frac{1}{n}} \\ &=\left( \frac{4}{3}-2\sqrt{\frac{1}{n}}\right)+\frac{2}{3}\left(\frac{1}{n}\right)^{\frac{3}{2}} \end{align} $$

よって、 \( D \) 上の積分は

$$ \begin{align} \iint_D\frac{1}{\sqrt{x-y}} dxdy&=\lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}\frac{1}{\sqrt{x-y}} dxdy \\ &=\lim_{n\to\infty}\left\{\left( \frac{4}{3}-2\sqrt{\frac{1}{n}}\right)+\frac{2}{3}\left(\frac{1}{n}\right)^{\frac{3}{2}}\right\}=\frac{4}{3} \end{align} $$

ガウス積分の計算およびベータ関数・ガンマ関数の関係式

1変数関数の積分の計算をする際に、あえて2変数関数の積分を考えることにより解ける場合があります。

その有名な例として、ガウス積分の計算とベータ関数・ガンマ関数の関係式を紹介します。

ガウス積分の計算

例2 (ガウス積分)

1変数関数の広義積分

$$ I=\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx $$

を求める。(この積分をガウス積分という)

この積分はそのままでは計算できない。よって、次で与える \( J \) を計算することを考える。

$$ \begin{align} J&=\iint_{\mathbb{R}^2}e^{-(x^2+y^2)}dxdy \end{align} $$

ここで、 \( \mathbb{R}^2 \) とは \( xy \) 平面全体のことである。

\( \mathbb{R}^2 \) の近似列 \( \{ B_n \}_{n=1}^{\infty} \) を次のように定める。

$$ B_n=\left\{ (x,y) | x^2+y^2≦n^2 \right\} $$

したがって、極座標変換

$$ x=r\cos \theta, \quad y=r\sin\theta, \quad J(r,\theta)=r $$

をしてから \( B_n \) での積分を考えると、

$$ \begin{align} &\iint_{B_n}e^{-(x^2+y^2)} dxdy=\int_0^{2\pi}\int_0^ne^{-r^2}\cdot rdrd\theta \\ &=2\pi \left[ -\frac{1}{2}e^{-r^2} \right]^n_0=\pi(1-e^{-n^2}) \end{align} $$

よって、 \( \mathbb{R}^2 \) 上の積分 \( J \) は

$$ \begin{align} J&=\iint_{\mathbb{R}^2}e^{-(x^2+y^2)}dxdy=\lim_{n\to\infty}\iint_{B_n}e^{-(x^2+y^2)} dxdy \\ &=\lim_{n\to\infty}\pi(1-e^{-n^2})=\pi \end{align} $$

一方で、\( \mathbb{R}^2 \) の別の近似列 \( \{ K_n \}_{n=1}^{\infty} \) を次のように定める。

$$ K_n=\left\{ (x,y) | -n≦x≦n, \ -n≦y≦n \right\} $$

すると、

$$ \begin{align} J&=\iint_{\mathbb{R}^2}e^{-(x^2+y^2)}dxdy=\lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}e^{-(x^2+y^2)} dxdy \\ &=\lim_{n\to\infty}\int_{-n}^n\int_{-n}^ne^{-(x^2+y^2)}dxdy \\ &=\lim_{n\to\infty}\left( \int_{-n}^n e^{-x^2}dx \right)\left( \int_{-n}^n e^{-y^2}dy \right) \\ &=\left( \int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2}dx \right)\left( \int_{-\infty}^{\infty} e^{-y^2}dy \right)=I^2 \end{align} $$

よって、まとめると、

$$ I^2=\pi $$

したがって、

$$ \int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=I=\sqrt{\pi} $$

この積分は確率・統計の分野においてとても重要な積分となるので、計算結果はしっかりと覚えておきましょう。

ベータ関数・ガンマ関数の関係式

次に、微分積分学06の定理9で紹介したベータ関数とガンマ関数との関係を表した式を証明してみましょう。

その式とは次のようなものでした。

定理2 (ベータ関数とガンマ関数との関係)

$$ B(p,q)=\frac{\Gamma(p)\Gamma(q)}{\Gamma(p+q)} \quad (p,q>0) $$

ここで、ベータ関数 \( B(p,q) \) とは、

$$ B(p,q)=\int_0^1x^{p-1}(1-x)^{q-1}dx \quad (p,q>0) $$

また、ガンマ関数 \( \Gamma(p) \) とは、

$$ \Gamma(p)=\int_0^{\infty}e^{-x}x^{p-1}dx \quad (p>0) $$

この2つの関数はそれぞれ広義積分となっていますが、収束することについては微分積分学06にて示しています。

それでは、定理2を示していきましょう。

例3 (ベータ関数とガンマ関数との関係)

$$ B(p,q)=\frac{\Gamma(p)\Gamma(q)}{\Gamma(p+q)} \quad (p,q>0) $$

を求める。次の積分 \( I \) を考える。

$$ \begin{align} I=\Gamma(p)\Gamma(q)&=\int_0^{\infty}e^{-x}x^{p-1}dx\int_0^{\infty}e^{-y}y^{q-1}dy \\ &=\int_0^{\infty}\int_0^{\infty}e^{-x-y}x^{p-1}y^{q-1}dxdy \end{align} $$

ここで、

$$ D=\{ (x,y) | 0≦x,y \} $$

とおき、

$$ x=uv, \quad y=u(1-v) $$

と変数変換をする。すると、 \( D \) は次の集合 \( \Omega \) に写る。

$$ \Omega=\{ (u,v) | 0≦u, \ 0≦v≦1 \} $$

ヤコビアンを求めると、

$$ J(u,v)=\det \begin{pmatrix} \frac{\partial x}{\partial u} & \frac{\partial x}{\partial v} \\ \frac{\partial y}{\partial u} & \frac{\partial y}{\partial v} \end{pmatrix}=\det \begin{pmatrix} v & u \\ 1-v & -u \end{pmatrix}=-u $$

\( \Omega \) の近似列 \( \{ K_n \}_{n=1}^{\infty} \) を次のように定める。

$$ K_n=\left\{ (u,v) | 0≦u≦n, \ 0≦v≦1 \right\} $$

このとき、 \( K_n \) に対応する \( D \) の近似列 \( D_n \) は \( x+y=u \) より、

$$ D_n=\{ (x,y) | 0≦x,y, \ 0≦x+y≦n \} $$

したがって、 \( |J(u,v)|=u \) に注意すると、

$$ \begin{align} I&=\lim_{n\to\infty}\iint_{D_n}e^{-x-y}x^{p-1}y^{q-1}dxdy \\ &=\lim_{n\to\infty}\iint_{K_n}e^{-u}(uv)^{p-1}\{ u(1-v) \}^{q-1} \cdot ududv \\ &=\lim_{n\to \infty}\left( \int_0^1 v^{p-1}(1-v)^{q-1}dv \right) \left( \int_0^n e^{-u}u^{p+q-1} du \right) \\ &=\left( \int_0^1 v^{p-1}(1-v)^{q-1}dv \right) \left( \int_0^{\infty} e^{-u}u^{p+q-1} du \right)=B(p,q)\Gamma(p+q) \end{align} $$

\( I=\Gamma(p)\Gamma(q) \) より、

$$ B(p,q)=\frac{\Gamma(p)\Gamma(q)}{\Gamma(p+q)} $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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