こんにちは、ひかりです。
今回は線形代数学続論から2次形式とエルミート形式について解説していきます。
この記事では以下のことを紹介します。
- 2次形式の定義と標準形について
- エルミート形式の定義と標準形について
2次形式の定義と標準形
次のような実係数の2次式を考えてみましょう。
$$ F(x,y)=a_{11}x^2+2a_{12}xy+a_{22}y^2 \quad (a_{11},a_{12},a_{22}\in \mathbb{R}) $$
これはベクトルと実対称行列を用いて、次のように表せます。
$$ \begin{align} F(x,y)&=a_{11}x^2+2a_{12}xy+a_{22}y^2 \\ &=\begin{pmatrix} x & y \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} \\ a_{12} & a_{22} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} \\ &={}^t\mathbf{x}A\mathbf{x} \quad \left(\mathbf{x}=\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\right) \end{align} $$
同様に、
$$ F(x,y,z)=a_{11}x^2+a_{22}y^2+a_{33}z^2+2a_{12}xy+2a_{23}yz+2a_{13}xz $$
もベクトルと実対称行列を用いて、次のように表せます。
$$ \begin{align} F(x,y,z)&=a_{11}x^2+a_{22}y^2+a_{33}z^2+2a_{12}xy+2a_{23}yz+2a_{13}xz \\ &=\begin{pmatrix} x & y & z \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & a_{13} \\ a_{12} & a_{22} & a_{23} \\ a_{13} & a_{23} & a_{33} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \\ &={}^t\mathbf{x}A\mathbf{x} \quad \left(\mathbf{x}=\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\right) \end{align} $$
これをもとに、2次形式を定義します。
$$ \mathbf{x}=\begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}\in \mathbb{R}^n $$
に関する2次の多項式
$$ F(\mathbf{x})=a_{11}x_1^2+\cdots+a_{nn}x_n^2+2\sum_{i<j}a_{ij}x_ix_j, \quad (a_{ij}\in\mathbb{R}) $$
のことを \( \mathbf{x} \) に関する(実)2次形式という。
このとき、実対称行列 \( A \) を
$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{12} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{1n} & a_{2n} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} $$
と定めると、(実)2次形式 \( F(\mathbf{x}) \) は \( F(\mathbf{x})={}^t\mathbf{x}A\mathbf{x} \) と表すことができる。
よって、行列 \( A \) を2次形式 \( F(\mathbf{x}) \) の係数行列という。
ここで、2次形式 \( F(\mathbf{x}) \) の係数行列 \( A \) は実対称行列であるので、線形代数学続論13の定理5より適当な直交行列 \( P \) を用いて、
$$ P^{-1}AP={}^tPAP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{R}) $$
というように対角化ができます。
したがって、 \( \mathbf{x}=P\mathbf{x}’ \) という変換を考えると、
$$ \begin{align} F(\mathbf{x})&={}^t\mathbf{x}A\mathbf{x}={}^t(P\mathbf{x}’)A(P\mathbf{x}’) \\ &=({}^t\mathbf{x}'{}^tP)A(P\mathbf{x}’) \\ &=({}^t\mathbf{x}’P^{-1})A(P\mathbf{x}’) \\ &={}^t\mathbf{x}'(P^{-1}AP)\mathbf{x}’ \end{align} $$
となり、 \( P^{-1}AP \) が対角行列であることより、
$$ \begin{align} F(\mathbf{x})&={}^t\mathbf{x}’\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \mathbf{x}’ \\ &=\lambda_{1}(x’_1)^2+\lambda_{2}(x’_2)^2+\cdots+\lambda_n(x’_n)^2 \quad \left( \mathbf{x}’=\begin{pmatrix} x’_1 \\ \vdots \\ x’_n \end{pmatrix} \right) \end{align} $$
よって、任意の2次形式は \( x_1x_2, x_2x_3 \) などの項を含まない2次形式へと変換することができます。
このような2次形式を標準形といいます。まとめると、
(実)二次形式 \( F(\mathbf{x})={}^t\mathbf{x}A\mathbf{x} \) に対して、適当な直交変換
$$ \mathbf{x}=P\mathbf{x}’, \quad \mathbf{x}’=\begin{pmatrix} x’_1 \\ \vdots \\ x’_n \end{pmatrix} $$
によって、標準形
$$ F(\mathbf{x})=\lambda_{1}(x’_1)^2+\lambda_{2}(x’_2)^2+\cdots+\lambda_n(x’_n)^2 $$
に変換できる。
ここで、 \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n \) は実対称行列 \( A \) の固有値であり、線形代数学続論13の定理1よりすべて実数である。
(1) 次の2次形式の標準形を求める。
$$ F(x,y)=6x^2+6xy-2y^2 $$
まず、
$$ F(x,y)=\begin{pmatrix} x & y \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 6 & 3 \\ 3 & -2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} $$
より、係数行列 \( A \) は
$$ A=\begin{pmatrix} 6 & 3 \\ 3 & -2 \end{pmatrix} $$
まず、 \( A \) の固有多項式 \( \varphi_A(t) \) を求めると、
$$ \begin{align} \varphi_A(t)&=|A-tE_2|=\begin{vmatrix} 6-t & 3 \\ 3 & -2-t \end{vmatrix} \\ &=(t-7)(t+3) \end{align} $$
したがって、 \( \varphi_A(t)=0 \) を考えると、 \( A \) の固有値は \( 7,-3 \) である。
それぞれの固有空間を考えると、
$$ \begin{align} V(7)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\in K^2 \ | \ \begin{pmatrix} -1 & 3 \\ 3 & -9 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 3 \\ 1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$
$$ \begin{align} V(-3)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\in K^2 \ | \ \begin{pmatrix} 9 & 3 \\ 3 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ -3 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$
よって、
$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 3 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 1 \\ -3 \end{pmatrix} $$
とおいて、シュミットの正規直交化法から正規直交基底を構成する。
$$ (\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2)=0, \quad \|\mathbf{a}_1\|=\sqrt{10}, \quad \|\mathbf{a}_2\|=\sqrt{10} $$
より、
$$ \mathbf{v}_1=\frac{1}{\sqrt{10}}\begin{pmatrix} 3 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2=\frac{1}{\sqrt{10}}\begin{pmatrix} 1 \\ -3 \end{pmatrix} $$
とおくと、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \) は正規直交基底となる。
よって、線形代数学続論13の定理3より \( P=\begin{pmatrix} \mathbf{v}_1 & \mathbf{v}_2 \end{pmatrix} \) とおくと、 \( P \) は直交行列となる。
したがって、
$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} 7 & 0 \\ 0 & -3 \end{pmatrix}, \quad P=\frac{1}{\sqrt{10}}\begin{pmatrix} 3 & 1 \\ 1 & -3 \end{pmatrix} $$
よって、
$$ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=P\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \end{pmatrix} $$
という直交変換をすることにより、
$$ \begin{align} F(x,y)&=\begin{pmatrix} x & y \end{pmatrix}A\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} x’ & y’ \end{pmatrix}(P^{-1}AP)\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} x’ & y’ \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 7 & 0 \\ 0 & -3 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \end{pmatrix} \\ &=7(x’)^2-3(y’)^2 \end{align} $$
という標準形に変換される。
(2) 次の2次形式の標準形を求める。
$$ F(x,y,z)=x^2+y^2+z^2+2a(xy+xz+yz) $$
まず、
$$ F(x,y,z)=\begin{pmatrix} x & y & z \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & a & a \\ a & 1 & a \\ a & a & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} $$
より、係数行列 \( A \) は
$$ A=\begin{pmatrix} 1 & a & a \\ a & 1 & a \\ a & a & 1 \end{pmatrix} $$
まず、 \( A \) の固有多項式 \( \varphi_A(t) \) を求めると、
$$ \begin{align} \varphi_A(t)&=|A-tE_3|=\begin{vmatrix} 1-t & a & a \\ a & 1-t & a \\ a & a & 1-t \end{vmatrix} \\ &=((1+2a)-t)((1-a)-t)^2 \end{align} $$
したがって、 \( \varphi_A(t)=0 \) を考えると、 \( A \) の固有値は \( 1+2a,1-a(重複度2) \) である。
それぞれの固有空間を考えると、
$$ \begin{align} V(1+2a)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in K^3 \ | \ \begin{pmatrix} -2a & a & a \\ a & -2a & a \\ a & a & -2a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$
$$ \begin{align} V(1-a)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in K^3 \ | \ \begin{pmatrix} a & a & a \\ a & a & a \\ a & a & a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$
よって、
$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix} $$
とおいて、シュミットの正規直交化法から正規直交基底を構成する。
$$ (\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2)=0, \quad \|\mathbf{a}_1\|=\sqrt{3}, \quad \|\mathbf{a}_2\|=\sqrt{2} $$
より、
$$ \mathbf{v}_1=\frac{1}{\sqrt{3}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix} $$
さらに、
$$ \begin{align} \mathbf{b}_3&=\mathbf{a}_3-(\mathbf{a}_3,\mathbf{v}_1)\mathbf{v}_1-(\mathbf{a}_3,\mathbf{v}_2)\mathbf{v}_2 \\ &=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix}-0-\frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix} -1 \\ 2 \\ -1 \end{pmatrix} \end{align} $$
したがって、 \( \|\mathbf{b}_3\|=\frac{\sqrt{6}}{2} \) より、
$$ \mathbf{v}_3=\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} -1 \\ 2 \\ -1 \end{pmatrix} $$
とおくと、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\mathbf{v}_3 \) は正規直交基底となる。
よって、線形代数学続論13の定理3より \( P=\begin{pmatrix} \mathbf{v}_1 & \mathbf{v}_2 & \mathbf{v}_3 \end{pmatrix} \) とおくと、 \( P \) は直交行列となる。
したがって、
$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} 1+2a & 0 & 0 \\ 0 & 1-a & 0 \\ 0 & 0 & 1-a \end{pmatrix}, \quad P=\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} \sqrt{2} & \sqrt{3} & -1 \\ \sqrt{2} & 0 & 2 \\ \sqrt{2} & -\sqrt{3} & -1 \end{pmatrix} $$
よって、
$$ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=P\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \\ z’ \end{pmatrix} $$
という直交変換をすることにより、
$$ \begin{align} F(x,y,z)&=\begin{pmatrix} x & y & z \end{pmatrix}A\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} x’ & y’ & z’ \end{pmatrix}(P^{-1}AP)\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \\ z’ \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} x’ & y’ & z’ \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1+2a & 0 & 0 \\ 0 & 1-a & 0 \\ 0 & 0 & 1-a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \\ z’ \end{pmatrix} \\ &=(1+2a)(x’)^2+(1-a)(y’)^2+(1-a)(z’)^2 \end{align} $$
という標準形に変換される。
最後に、2次形式 \( F(\mathbf{x}) \) の符号を定義します。
2次形式 \( F(\mathbf{x})={}^t\mathbf{x}A\mathbf{x} \) が任意の実ベクトル \( \mathbf{x}\not=\mathbf{0} \)に対して、 \( F(\mathbf{x})>0 \) が成り立つとき、実対称行列 \( A \) は正定値であるという。
また、任意の実ベクトル \( \mathbf{x} \) に対して、 \( F(\mathbf{x})≧0 \) が成り立つとき、実対称行列 \( A \) は半正定値であるという。
さらに、任意の実ベクトル \( \mathbf{x}\not=\mathbf{0} \)に対して、 \( F(\mathbf{x})<0 \) が成り立つとき、実対称行列 \( A \) は負定値であるという。
2次形式の符号を判定するための必要十分条件を与えます。
実対称行列 \( A \) について、
$$ Aが正定値 \iff Aのすべての固有値が正 $$
$$ Aが半正定値 \iff Aのすべての固有値が非負 $$
$$ Aが負定値 \iff Aのすべての固有値が負 $$
定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)
\( n \) 次実対称行列 \( A \) を係数行列とする2次形式 \( F(\mathbf{x})={}^t\mathbf{x}A\mathbf{x} \) は定理1より、 \( A \) の固有値 \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n \) を係数とする標準形
$$ F(\mathbf{x})=\lambda_{1}(x’_1)^2+\lambda_{2}(x’_2)^2+\cdots+\lambda_n(x’_n)^2 $$
に変換することができます。
したがって、 \( F(\mathbf{x}) \) の正負は \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n \) の正負により変わります。
たとえば、任意の実ベクトル \( \mathbf{x}\not=\mathbf{0} \) に対して、 \( F(\mathbf{x})>0 \) となるのは
$$ \lambda_1,\cdots,\lambda_n>0 $$
のときに限り、これは \( A \) の固有値がすべて正であることに対応しています。
(1) 例1(1)の2次形式の符号を考える。
$$ F(x,y)=6x^2+6xy-2y^2 $$
この2次形式の係数行列 \( A \) は例1(1)より固有値 \( 7,-3 \) をもつ。
したがって、定理2よりこの2次形式の符号は定まらない。
(2) 例1(2)の2次形式の符号を考える。
$$ F(x,y,z)=x^2+y^2+z^2+2a(xy+xz+yz) $$
この2次形式の係数行列 \( A \) は例1(2)より固有値 \( 1+2a,1-a(重複度2) \) をもつ。
したがって、定理2よりこの2次形式の符号は
$$ \begin{cases} 正定値 & (1>a>-\frac{1}{2}) \\ 半正定値 & (a=1,-\frac{1}{2}) \\ 定まらない & (その他) \end{cases} $$
エルミート形式の定義と標準形
今度は、係数が複素数の場合を考えてみましょう。
$$ \mathbf{x}=\begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^n $$
に関する式
$$ F(\mathbf{x})=\sum_{i,j=1}^n a_{ij}\overline{x_i}x_j, \quad (a_{ij}\in\mathbb{C}) $$
のことを \( \mathbf{x} \) に関するエルミート形式という。
このとき、エルミート行列 \( A \) を
$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \cdots & a_{nn} \end{pmatrix} $$
と定めると、エルミート形式 \( F(\mathbf{x}) \) は \( F(\mathbf{x})=\mathbf{x}^*A\mathbf{x} \) と表すことができる。
よって、行列 \( A \) をエルミート形式 \( F(\mathbf{x}) \) の係数行列という。
エルミート形式も2次形式同様に標準形に変換することができます。
エルミート形式 \( F(\mathbf{x})=\mathbf{x}^*A\mathbf{x} \) に対して、適当なユニタリ行列 \( U \) を用いてユニタリ変換
$$ \mathbf{x}=U\mathbf{x}’, \quad \mathbf{x}’=\begin{pmatrix} x’_1 \\ \vdots \\ x’_n \end{pmatrix} $$
をすることにより、標準形
$$ \begin{align} F(\mathbf{x})&=\lambda_{1}\overline{x’_1}x’_1+\lambda_{2}\overline{x’_2}x’_2+\cdots+\lambda_n\overline{x’_n}x’_n \\ &=\lambda_{1}|x’_1|^2+\lambda_{2}|x’_2|^2+\cdots+\lambda_n|x’_n|^2 \end{align} $$
に変換できる。
ここで、 \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n \) はエルミート行列 \( A \) の固有値であり、線形代数学続論13の定理1よりすべて実数である。
定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)
エルミート形式 \( F(\mathbf{x}) \) の係数行列 \( A \) はエルミート行列であるので、線形代数学続論13の定理6より適当なユニタリ行列 \( U \) を用いて、
$$ U^{-1}AU=U^*AU=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{R}) $$
というように対角化ができます。
(ここで、 \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n \) はエルミート行列 \( A \) の固有値となることに注意してください。)
したがって、 \( \mathbf{x}=U\mathbf{x}’ \) という変換を考えると、
$$ \begin{align} F(\mathbf{x})&=\mathbf{x}^*A\mathbf{x}=(U\mathbf{x}’)^*A(U\mathbf{x}’) \\ &=((\mathbf{x}’)^*U^*)A(U\mathbf{x}’) \\ &=((\mathbf{x}’)^*U^{-1})A(U\mathbf{x}’) \\ &=(\mathbf{x}’)^*(U^{-1}AU)\mathbf{x}’ \end{align} $$
となり、 \( U^{-1}AU \) が対角行列であることより、
$$ \begin{align} F(\mathbf{x})&=(\mathbf{x}’)^*\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \mathbf{x}’ \\ &=\lambda_{1}|x’_1|^2+\lambda_{2}|x’_2|^2+\cdots+\lambda_n|x’_n|^2 \quad \left( \mathbf{x}’=\begin{pmatrix} x’_1 \\ \vdots \\ x’_n \end{pmatrix} \right) \end{align} $$
( \( \overline{x’_i}x’_i=|x’_i|^2 \) であることに注意してください。)
よって、任意のエルミート形式は標準形へと変換することができます。
エルミート形式の符号についても同様に定義されます。
エルミート形式 \( F(\mathbf{x})=\mathbf{x}^*A\mathbf{x} \) が任意の複素ベクトル \( \mathbf{x}\not=\mathbf{0} \)に対して、 \( F(\mathbf{x})>0 \) が成り立つとき、エルミート行列 \( A \) は正定値であるという。
また、任意の複素ベクトル \( \mathbf{x} \) に対して、 \( F(\mathbf{x})≧0 \) が成り立つとき、エルミート行列 \( A \) は半正定値であるという。
さらに、任意の複素ベクトル \( \mathbf{x}\not=\mathbf{0} \)に対して、 \( F(\mathbf{x})<0 \) が成り立つとき、エルミート行列 \( A \) は負定値であるという。
エルミート形式の符号を判定するための必要十分条件も同様です。
エルミート行列 \( A \) について、
$$ Aが正定値 \iff Aのすべての固有値が正 $$
$$ Aが半正定値 \iff Aのすべての固有値が非負 $$
$$ Aが負定値 \iff Aのすべての固有値が負 $$
次のエルミート形式の標準形を求める。
$$ F(x,y)=2\overline{x}x+2i\overline{x}y-2ix\overline{y}-\overline{y}y $$
まず、
$$ F(x,y)=\begin{pmatrix} \overline{x} & \overline{y} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 2 & 2i \\ -2i & -1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} $$
より、係数行列 \( A \) は
$$ A=\begin{pmatrix} 2 & 2i \\ -2i & -1 \end{pmatrix} $$
まず、 \( A \) の固有多項式 \( \varphi_A(t) \) を求めると、
$$ \begin{align} \varphi_A(t)&=|A-tE_2|=\begin{vmatrix} 2-t & 2i \\ -2i & -1-t \end{vmatrix} \\ &=(t-3)(t+2) \end{align} $$
したがって、 \( \varphi_A(t)=0 \) を考えると、 \( A \) の固有値は \( 3,-2 \) である。
それぞれの固有空間を考えると、
$$ \begin{align} V(3)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^2 \ | \ \begin{pmatrix} -1 & 2i \\ -2i & -4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 2i \\ 1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$
$$ \begin{align} V(-2)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^2 \ | \ \begin{pmatrix} 4 & 2i \\ -2i & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 2i \end{pmatrix} \right] \end{align} $$
よって、
$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 2i \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 1 \\ 2i \end{pmatrix} $$
とおいて、シュミットの正規直交化法から正規直交基底を構成する。
$$ (\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2)=0, \quad \|\mathbf{a}_1\|=\sqrt{5}, \quad \|\mathbf{a}_2\|=\sqrt{5} $$
より、
$$ \mathbf{v}_1=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix} 2i \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix} 1 \\ 2i \end{pmatrix} $$
とおくと、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \) は正規直交基底となる。
よって、線形代数学続論13の定理2より \( U=\begin{pmatrix} \mathbf{v}_1 & \mathbf{v}_2 \end{pmatrix} \) とおくと、 \( U \) はユニタリ行列となる。
したがって、
$$ U^{-1}AU=\begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 0 & -2 \end{pmatrix}, \quad U=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix} 2i & 1 \\ 1 & 2i \end{pmatrix} $$
よって、
$$ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=U\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \end{pmatrix} $$
というユニタリ変換をすることにより、
$$ \begin{align} F(x,y)&=\begin{pmatrix} \overline{x} & \overline{y} \end{pmatrix}A\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} \overline{x’} & \overline{y’} \end{pmatrix}(U^{-1}AU)\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} \overline{x’} & \overline{y’} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 3 & 0 \\ 0 & -2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x’ \\ y’ \end{pmatrix} \\ &=3|x’|^2-2|y’|^2 \end{align} $$
という標準形に変換される。
また、定理4よりこのエルミート形式の符号は定まらない。
今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。