線形代数学続論13:正規行列の対角化

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学続論から正規行列の対角化について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 実対称行列の対角化について
  • エルミート行列の対角化について
  • 正規行列の対角化について
目次

実対称行列の対角化

線形代数学03線形代数学06の記事で対称行列とエルミート行列について定義しましたが、もう一度振り返りましょう。

定義1 (実対称行列とエルミート行列)

\( {}^tA=A \) となる実正方行列 \( A \) のことを実対称行列という。

また、 \( A^*={}^t\overline{A} \) を \( A \) の随伴行列とするとき、 \( A^*=A \) となる複素正方行列 \( A \) のことをエルミート行列という。

実対称行列はエルミート行列であることに注意しましょう。

まず、実対称行列が対角化可能であることを示していきましょう。

そのための準備として次を示します。

定理1 (エルミート行列の固有値)

エルミート行列(つまり実対称行列)の固有値はすべて実数である。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( A \) を \( n \) 次のエルミート行列として、 \( \lambda \in\mathbb{C} \) を \( A \) の1つの固有値とします。

そして、 \( \lambda \) に対応する固有空間 \( V(\lambda) \subset \mathbb{C}^n \) から固有ベクトル \( \mathbf{x}\not=\mathbf{0} \) を1つとります。

このとき、 \( \mathbb{C}^n \) の標準的なエルミート内積を考えると、

$$ \begin{align} \lambda\|\mathbf{x}\|^2&=(\lambda\mathbf{x},\mathbf{x})=(A\mathbf{x},\mathbf{x})={}^t(A\mathbf{x})\overline{\mathbf{x}}={}^t\mathbf{x}{}^tA\overline{\mathbf{x}} \end{align} $$

一方で、 \( A \) はエルミート行列なので、

$$ \begin{align} \overline{\lambda}\|\mathbf{x}\|^2&=(\mathbf{x},\lambda\mathbf{x})=(\mathbf{x},A\mathbf{x})=(\mathbf{x},A^*\mathbf{x}) \\ &={}^t\mathbf{x}\overline{A^*\mathbf{x}}={}^t\mathbf{x}\overline{\overline{{}^tA}}\overline{\mathbf{x}}={}^t\mathbf{x}{}^tA\overline{\mathbf{x}} \end{align} $$

したがって、

$$ \lambda\|\mathbf{x}\|=\overline{\lambda}\|\mathbf{x}\| $$

よって、 \( \|\mathbf{x}\|\not=0 \) より \( \lambda=\overline{\lambda} \) であるので、 \( \lambda \) は実数となります。

定理2 (ユニタリ行列と正規直交基底)

\( A \) を \( n \) 次複素正方行列に対して、次の3つは同値である。

ただし、 \( \mathbb{C}^n \) には標準的なエルミート内積を入れる。

(1) \( A \) はユニタリ行列である。

(2) \( A \) の \( n \) 個の列ベクトルは \( \mathbb{C}^n \) の正規直交基底である。

(3) \( A \) の \( n \) 個の行ベクトルは \( \mathbb{C}^n \) の正規直交基底である。

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1)と(2)の同値性のみ示します。((1)と(3)の同値性も同様)

((1) \( \Rightarrow \) (2)) ユニタリ行列 \( A \) とその随伴行列 \( A^* \) を次のようにおきます。

$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} \mathbf{a}_1 & \cdots & \mathbf{a}_n \end{pmatrix}, \quad A^*=\begin{pmatrix} b_{11} & b_{12} & \dots & b_{1n} \\ b_{21} & b_{22} & \dots & b_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ b_{n1} & b_{n2} & \dots & b_{nn} \end{pmatrix} $$

このとき、 \( b_{ij}=\overline{a_{ji}} \) であることに注意すると、

$$ [A^*Aの(i,j)\text{-}成分]=\sum_{\ell=1}^nb_{i\ell}a_{\ell j}=\sum_{\ell=1}^n\overline{a_{\ell i}}a_{\ell j}=(\mathbf{a}_j,\mathbf{a}_i) $$

一方で、 \( A \) はユニタリ行列であるので、

$$ [A^*Aの(i,j)\text{-}成分]=[E_nの(i,j)\text{-}成分]=\delta_{ij}=\begin{cases} 1 & (i=j) \\ 0 & (i\not=j) \end{cases} $$

したがって、

$$ (\mathbf{a}_j,\mathbf{a}_i)=\begin{cases} 1 & (i=j) \\ 0 & (i\not=j) \end{cases} $$

となるので、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) は \( \mathbb{C}^n \) の正規直交系となります。

とくに、正規直交系より \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) は \( n \) 個の1次独立の組となるので、 \( \mathbb{C}^n \) の正規直交基底となります。


((2) \( \Rightarrow \) (1)) (基本的に上の議論を逆にたどるだけです)

複素正方行列 \( A \) とその随伴行列 \( A^* \) を次のようにおきます。

$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} \mathbf{a}_1 & \cdots & \mathbf{a}_n \end{pmatrix}, \quad A^*=\begin{pmatrix} b_{11} & b_{12} & \dots & b_{1n} \\ b_{21} & b_{22} & \dots & b_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ b_{n1} & b_{n2} & \dots & b_{nn} \end{pmatrix} $$

そして、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) が \( \mathbb{C}^n \) の正規直交基底であるとします。

このとき、 \( b_{ij}=\overline{a_{ji}} \) であることに注意すると、

$$ \delta_{ij}=(\mathbf{a}_j,\mathbf{a}_i)=\sum_{\ell=1}^n\overline{a_{\ell i}}a_{\ell j}=\sum_{\ell=1}^nb_{i\ell}a_{\ell j}=[A^*Aの(i,j)\text{-}成分] $$

したがって、 \( A^*A=E_n \) となり、同様に \( AA^*=E_n \) も示せるので、 \( A \) はユニタリ行列となります。

定理2において \( A^* \) を \( {}^tA \) とすれば、直交行列に対しても同様のことが成り立ちます。

定理3 (直交行列と正規直交基底)

\( A \) を \( n \) 次実正方行列に対して、次の3つは同値である。

ただし、 \( \mathbb{R}^n \) には標準的な内積を入れる。

(1) \( A \) は直交行列である。

(2) \( A \) の \( n \) 個の列ベクトルは \( \mathbb{R}^n \) の正規直交基底である。

(3) \( A \) の \( n \) 個の行ベクトルは \( \mathbb{R}^n \) の正規直交基底である。

この定理2と定理3を用いると、線形代数学続論11の定理6の注意に書いたことが示せます。

定理4 (行列の三角化の1つの条件)

\( n \) 次正方行列 \( A \) に対して、 \( A \) の固有値が(重複を込めて) \( n \) 個 \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n\in K \) あるとする。

このとき、 \( P^{-1}AP \) が三角行列となるような正則行列 \( P \) が存在する。とくに

$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{*}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

さらに、 \( P \) として、 \( K=\mathbb{R} \) のときは直交行列、 \( K=\mathbb{C} \) のときはユニタリ行列としてとることができる。

定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)

前半の三角化可能であるということについては、線形代数学続論11の定理6で示しました。

(前半の証明と続けて読むことをおすすめします。)

ここでは、 \( P \) として、 \( K=\mathbb{R} \) のときは直交行列としてとることができることを示します。

( \( K=\mathbb{C} \) のときも同様に示せます。)

固有値 \( \lambda_1 \) に対応する固有空間 \( V(\lambda_1) \) から1つ固有ベクトル \( \mathbf{x}_1\not=\mathbf{0} \) を \( (\mathbf{x}_1,\mathbf{x}_1)=1 \) となるようにとります。

そして、シュミットの正規直交化法により残りの \( n-1 \) 個の \( \mathbf{x}_2,\cdots,\mathbf{x}_n \) をうまくとることにより \( \mathbf{x}_1,\cdots,\mathbf{x}_n \) を \( \mathbb{R}^n \) の正規直交基底にすることができます。

( \( \mathbf{x}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) が1次独立になるようにベクトル \( \mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n\in \mathbb{R}^n \) を選ぶことができるので、シュミットの正規直交化法が使えます。)

以下、 \( P_1,P_2,P \) は線形代数学続論11の定理6の証明の \( P_1,P_2,P \) とします。

このとき、 \( P_1=\begin{pmatrix} \mathbf{x}_1 & \cdots & \mathbf{x}_n \end{pmatrix} \) とおくと、定理3より \( P_1 \) は直交行列になっています。

よって、

$$ \begin{align} P{}^tP&=P_1\left( \begin{array}{c|ccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ \hline 0 & & & \\ \vdots & & {\LARGE{P_2}} \\ 0 & & & \end{array} \right){}^t\left( \begin{array}{c|ccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ \hline 0 & & & \\ \vdots & & {\LARGE{P_2}} \\ 0 & & & \end{array} \right){}^tP_1 \\ &=P_1\left( \begin{array}{c|ccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ \hline 0 & & & \\ \vdots & & {\LARGE{P_2}} \\ 0 & & & \end{array} \right)\left( \begin{array}{c|ccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ \hline 0 & & & \\ \vdots & & {\LARGE{{}^tP_2}} \\ 0 & & & \end{array} \right){}^tP_1 \\ &=P_1\left( \begin{array}{c|ccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ \hline 0 & & & \\ \vdots & & {\LARGE{P_2{}^tP_2}} \\ 0 & & & \end{array} \right){}^tP_1 \\ &=P_1\left( \begin{array}{c|ccc} 1 & 0 & \cdots & 0 \\ \hline 0 & & & \\ \vdots & & {\LARGE{E_{n-1}}} \\ 0 & & & \end{array} \right){}^tP_1 \quad (P_2は帰納法の仮定より直交行列) \\ &=P_1{}^tP_1=E_n \end{align} $$

同様に \( {}^tPP=E_n \) も示せるので、 \( P \) も直交行列となります。

定理1と定理4より、実対称行列の対角化について次のことを示すことができます。

定理5 (実対称行列の対角化)

\( n \) 次実正方行列 \( A \) に対して、次の2つは同値である。

(1) \( A \) は実対称行列である。

(2) \( A \) は適当な直交行列 \( P \) を用いて、次のように対角化可能である。

$$ P^{-1}AP={}^tPAP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{R}) $$

定理5の証明(気になる方だけクリックしてください)

((1) \( \Rightarrow \) (2)) まず、 \( A \) を実対称行列として、 \( A \) の固有多項式を複素数の範囲で

$$ \varphi_A(t)=|A-tE_n|=(-1)^n\prod_{i=1}^n(t-\lambda_i), \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{C}) $$

と分解します。

このとき、定理1より固有値は \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n\in\mathbb{R} \) となります。

まず、定理4より適当な直交行列 \( P \) を用いて、

$$ P^{-1}AP={}^tPAP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{*}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

と三角化することができます。

ここで、 \( A \) は実対称行列であるので、

$$ {}^t({}^tPAP)={}^tP{}^tA{}^t({}^tP)={}^tPAP $$

したがって、 \( {}^tPAP \) も対称行列となります。よって、

$$ \begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{*}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix}={}^tPAP={}^t({}^tPAP)=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{*}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

となり、各成分を比較すると、

$$ {}^tPAP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$


((2) \( \Rightarrow \) (1)) 実正方行列 \( A \) が適当な直交行列 \( P \) を用いて、

$$ P^{-1}AP={}^tPAP=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{R}) $$

とできたとします。このとき、 \( {}^tPAP={}^t({}^tPAP) \) となるので、

$$ P^{-1}AP={}^tPAP={}^t({}^tPAP)={}^tP{}^tA{}^t({}^tP)={}^tP{}^tAP=P^{-1} \ {}^tAP $$

となるので、最両辺に左から \( P \) 、右から \( P^{-1} \) をかけると、 \( A={}^tA \)

したがって、 \( A \) は実対称行列となります。

例1

次の実対称行列 \( A \) を対角化して、直交行列 \( P \) を求める。

$$ A=\begin{pmatrix} 2 & 1 & 1 \\ 1 & 2 & 1 \\ 1 & 1 & 2 \end{pmatrix} $$

まず、 \( A \) の固有多項式 \( \varphi_A(t) \) を求めると、

$$ \varphi_A(t)=|A-tE_n|=\begin{vmatrix} 2-t & 1 & 1 \\ 1 & 2-t & 1 \\ 1 & 1 & 2-t \end{vmatrix}=(4-t)(1-t)^2 $$

したがって、 \( \varphi_A(t)=0 \) を考えると、 \( A \) の固有値は \( 4,1(重複度2) \) である。

それぞれの固有空間を考えると、

$$ \begin{align} V(4)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in K^3 \ | \ \begin{pmatrix} -2 & 1 & 1 \\ 1 & -2 & 1 \\ 1 & 1 & -2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$

$$ \begin{align} V(1)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in K^3 \ | \ \begin{pmatrix} 1 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$

よって、

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix} $$

とおいて、シュミットの正規直交化法から正規直交基底を構成する。

$$ (\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2)=0, \quad \|\mathbf{a}_1\|=\sqrt{3}, \quad \|\mathbf{a}_2\|=\sqrt{2} $$

より、

$$ \mathbf{v}_1=\frac{1}{\sqrt{3}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix} $$

さらに、

$$ \begin{align} \mathbf{b}_3&=\mathbf{a}_3-(\mathbf{a}_3,\mathbf{v}_1)\mathbf{v}_1-(\mathbf{a}_3,\mathbf{v}_2)\mathbf{v}_2 \\ &=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix}-0-\frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix} -1 \\ 2 \\ -1 \end{pmatrix} \end{align} $$

したがって、 \( \|\mathbf{b}_3\|=\frac{\sqrt{6}}{2} \) より、

$$ \mathbf{v}_3=\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} -1 \\ 2 \\ -1 \end{pmatrix} $$

とおくと、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\mathbf{v}_3 \) は正規直交基底となる。

よって、定理3より \( P=\begin{pmatrix} \mathbf{v}_1 & \mathbf{v}_2 & \mathbf{v}_3 \end{pmatrix} \) とおくと、 \( P \) は直交行列となる。

したがって、

$$ P^{-1}AP=\begin{pmatrix} 4 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 1 \end{pmatrix}, \quad P=\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} \sqrt{2} & \sqrt{3} & -1 \\ \sqrt{2} & 0 & 2 \\ \sqrt{2} & -\sqrt{3} & -1 \end{pmatrix} $$

エルミート行列の対角化

エルミート行列の対角化についても次のことが成り立ちます。

定理6 (エルミート行列の対角化)

\( n \) 次複素正方行列 \( A \) に対して、次の2つは同値である。

(1) \( A \) はエルミート行列である。

(2) \( A \) は適当なユニタリ行列 \( U \) を用いて、次のように対角化可能である。

$$ U^{-1}AU=U^*AU=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{R}) $$

定理6の証明(気になる方だけクリックしてください)

((1) \( \Rightarrow \) (2)) まず、 \( A \) をエルミート行列として、 \( A \) の固有多項式を複素数の範囲で

$$ \varphi_A(t)=|A-tE_n|=(-1)^n\prod_{i=1}^n(t-\lambda_i), \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{C}) $$

と分解します。

このとき、定理1より固有値は \( \lambda_1,\cdots,\lambda_n\in\mathbb{R} \) となります。

まず、定理4より適当なユニタリ行列 \( U \) を用いて、

$$ U^{-1}AU=U^*AU=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{*}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

と三角化することができます。

ここで、 \( A \) はエルミート行列であるので、

$$ (U^*AU)^*=U^*A^*(U^*)^*=U^*AU $$

したがって、 \( U^*AU \) もエルミート行列となります。よって、

$$ \begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{*}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix}=U^*AU=(U^*AU)^*=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{*}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

となり、各成分を比較すると、

$$ U^*AU=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$


((2) \( \Rightarrow \) (1)) 複素正方行列 \( A \) が適当なユニタリ行列 \( U \) を用いて、

$$ U^{-1}AU=U^*AU=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{R}) $$

とできたとします。このとき、 \( U^*AU=(U^*AU)^* \) となるので、

$$ U^{-1}AU=U^*AU=(U^*AU)^*=U^*A^*(U^*)^*=U^*A^*U=U^{-1}A^*U $$

となるので、最両辺に左から \( U \) 、右から \( U^{-1} \) をかけると、 \( A=A^* \)

したがって、 \( A \) はエルミート行列となります。

例2

次のエルミート行列 \( A \) を対角化して、ユニタリ行列 \( U \) を求める。

$$ A=\begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & i \\ 1 & -i & 0 \end{pmatrix} $$

まず、 \( A \) の固有多項式 \( \varphi_A(t) \) を求めると、

$$ \varphi_A(t)=|A-tE_n|=\begin{vmatrix} -t & 0 & 1 \\ 0 & -t & i \\ 1 & -i & -t \end{vmatrix}=-t(t^2-2) $$

したがって、 \( \varphi_A(t)=0 \) を考えると、 \( A \) の固有値は \( 0,\sqrt{2},-\sqrt{2} \) である。

それぞれの固有空間を考えると、

$$ \begin{align} V(0)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^3 \ | \ \begin{pmatrix} 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & i \\ 1 & -i & 0 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} i \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$

$$ \begin{align} V(\sqrt{2})&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^3 \ | \ \begin{pmatrix} -\sqrt{2} & 0 & 1 \\ 0 & -\sqrt{2} & i \\ 1 & -i & -\sqrt{2} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ i \\ \sqrt{2} \end{pmatrix} \right] \end{align} $$

$$ \begin{align} V(-\sqrt{2})&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^3 \ | \ \begin{pmatrix} \sqrt{2} & 0 & 1 \\ 0 & \sqrt{2} & i \\ 1 & -i & \sqrt{2} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ i \\ -\sqrt{2} \end{pmatrix} \right] \end{align} $$

よって、

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} i \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 1 \\ i \\ \sqrt{2} \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 1 \\ i \\ -\sqrt{2} \end{pmatrix} $$

とおいて、シュミットの正規直交化法から正規直交基底を構成する。

$$ (\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2)=(\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_3)=(\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3)=0, $$

$$ \|\mathbf{a}_1\|=\sqrt{2}, \quad \|\mathbf{a}_2\|=2, \quad \|\mathbf{a}_3\|=2 $$

より、

$$ \mathbf{v}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} i \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2=\frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 \\ i \\ \sqrt{2} \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_3=\frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 \\ i \\ -\sqrt{2} \end{pmatrix} $$

とおくと、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\mathbf{v}_3 \) は正規直交基底となる。

よって、定理2より \( U=\begin{pmatrix} \mathbf{v}_1 & \mathbf{v}_2 & \mathbf{v}_3 \end{pmatrix} \) とおくと、 \( U \) はユニタリ行列となる。

したがって、

$$ U^{-1}AU=\begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 0 & \sqrt{2} & 0 \\ 0 & 0 & -\sqrt{2} \end{pmatrix}, \quad U=\frac{1}{2}\begin{pmatrix} \sqrt{2}i & 1 & 1 \\ \sqrt{2} & i & i \\ 0 & \sqrt{2} & -\sqrt{2} \end{pmatrix} $$

正規行列の対角化

実対称行列やエルミート行列などを含むもう少し一般的な行列の集合を考えてみましょう。

定義2 (正規行列)

\( A^*A=AA^* \) をみたす正方行列 \( A \) のことを正規行列という。

実対称行列とエルミート行列の定義から、実対称行列とエルミート行列は正規行列であることに注意しましょう。また、直交行列とユニタリ行列も定義から正規行列になります。

例3

正規行列であるが、実対称行列でも直交行列でもない実正方行列を考える。

$$ A=\begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} \quad (a,b\in\mathbb{R}, \ b\not=0) $$

が1つの例となる。

実際、

$$ A^*={}^tA=\begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix} $$

より、

$$ AA^*=\begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} a^2+b^2 & 0 \\ 0 & a^2+b^2 \end{pmatrix} $$

$$ A^*A=\begin{pmatrix} a & b \\ -b & a \end{pmatrix}\begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} a^2+b^2 & 0 \\ 0 & a^2+b^2 \end{pmatrix} $$

であるので、 \( AA^*=A^*A \) より、 \( A \) は正規行列である。

しかし、実対称行列でないことは明らかであり、 \( a,b\in\mathbb{R}, \ b\not=0 \) より \( AA^*=A^*A \) は単位行列にならないので直交行列でもない。

正規行列は対角化可能であることが次からわかります。

定理7 (正規行列の対角化)

\( n \) 次複素正方行列 \( A \) に対して、次の2つは同値である。

(1) \( A \) は正規行列である。

(2) \( A \) は適当なユニタリ行列 \( U \) を用いて \( U^{-1}AU=U^*AU \) を対角行列とできる。

定理7の証明(気になる方だけクリックしてください)

((1) \( \Rightarrow \) (2)) まず、 \( A \) を正規行列として、 \( A \) の固有多項式を複素数の範囲で

$$ \varphi_A(t)=|A-tE_n|=(-1)^n\prod_{i=1}^n(t-\lambda_i), \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{C}) $$

と分解します。

まず、定理4より適当なユニタリ行列 \( U \) を用いて、

$$ U^{-1}AU=U^*AU=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{*}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} $$

と三角化することができます。ここで、

$$ B=U^*AU=\begin{pmatrix} b_{11} & \cdots & \cdots & b_{1n} \\ & b_{22} & & \vdots \\ & & \ddots & \vdots \\ {\LARGE{0}} & & & b_{nn} \end{pmatrix} $$

とおきます。このとき、 \( U \) はユニタリ行列なので、

$$ B^*B=(U^*AU)^*(U^*AU)=(U^*A^*U)(U^*AU)=U^*(AA^*)U $$

$$ BB^*=(U^*AU)(U^*AU)^*=(U^*AU)(U^*A^*U)=U^*(AA^*)U $$

よって、 \( B^*B=BB^* \) となり、 \( B \) も正規行列となります。

ここで、

$$ \begin{align} &\left[B^*Bの(1,1)成分\right] \\ &=\left[ \begin{pmatrix} \bar{b}_{11} & & & {\LARGE{0}} \\ \vdots & \bar{b}_{22} & & \\ \vdots & & \ddots & \\\bar{b}_{1n} & \cdots & \cdots & \bar{b}_{nn} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} b_{11} & \cdots & \cdots & b_{1n} \\ & b_{22} & & \vdots \\ & & \ddots & \vdots \\ {\LARGE{0}} & & & b_{nn} \end{pmatrix}の(1,1)成分 \right] \\ &=|b_{11}|^2 \end{align} $$

$$ \begin{align} &\left[BB^*の(1,1)成分\right] \\ &=\left[ \begin{pmatrix} b_{11} & \cdots & \cdots & b_{1n} \\ & b_{22} & & \vdots \\ & & \ddots & \vdots \\ {\LARGE{0}} & & & b_{nn} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} \bar{b}_{11} & & & {\LARGE{0}} \\ \vdots & \bar{b}_{22} & & \\ \vdots & & \ddots & \\\bar{b}_{1n} & \cdots & \cdots & \bar{b}_{nn} \end{pmatrix}の(1,1)成分 \right] \\ &=|b_{11}|^2+|b_{12}|^2+\cdots+|b_{1n}|^2 \end{align} $$

であるので、 \( B^*B=BB^* \) より、

$$ b_{12}=\cdots=b_{1n}=0 $$

したがって、

$$ B=\begin{pmatrix} b_{11} & 0 & \cdots & 0 \\ & b_{22} & & {\LARGE{*}} \\ & & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & & b_{nn} \end{pmatrix} $$

同様に、 \( BB^* \) と \( B^*B \) の \( (i,i) \) 成分 ( \( 1≦i≦n \) ) を順次比較することによって、 \( b_{ij}=0 \ (i\not=j) \) となります。

したがって、 \( B=U^*AU \) は対角行列となります。


((2) \( \Rightarrow \) (1)) \( n \) 次複素正方行列 \( A \) が適当なユニタリ行列 \( U \) を用いて、

$$ U^{-1}AU=U^*AU=\begin{pmatrix} \lambda_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \lambda_n \end{pmatrix} \quad (\lambda_1,\cdots,\lambda_n\in \mathbb{C}) $$

と対角化できたとします。このとき、

$$ U^*A^*U=(U^*AU)^*=\begin{pmatrix} \overline{\lambda}_1 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & \overline{\lambda}_n \end{pmatrix} $$

したがって、 \( U \) はユニタリ行列であるので、

$$ \begin{align} U^*(AA^*)U&=(U^*AU)(U^*A^*U)=\begin{pmatrix} |\lambda_1|^2 & & {\LARGE{0}} \\ & \ddots & \\ {\LARGE{0}} & & |\lambda_n|^2 \end{pmatrix} \\ &=(U^*A^*U)(U^*AU)=U^*(A^*A)U \end{align} $$

よって、 \( AA^*=A^*A \) となるので、 \( A \) は正規行列となります。

例4

例3の正規行列 \( A \) を対角化して、ユニタリ行列 \( U \) を求める。

$$ A=\begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} \quad (a,b\in\mathbb{R}, \ b\not=0) $$

まず、 \( A \) の固有多項式 \( \varphi_A(t) \) を求めると、

$$ \varphi_A(t)=|A-tE_n|=\begin{vmatrix} a-t & -b \\ b & a-t \end{vmatrix}=t^2-2at+(a^2+b^2) $$

したがって、 \( \varphi_A(t)=0 \) を考えると、 \( A \) の固有値は \( a+bi,a-bi \) である。

それぞれの固有空間を考えると、

$$ \begin{align} V(a+bi)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^2 \ | \ \begin{pmatrix} -bi & -b \\ b & -bi \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} i \\ 1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$

$$ \begin{align} V(a-bi)&=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\in \mathbb{C}^2 \ | \ \begin{pmatrix} bi & -b \\ b & bi \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\} \\ &=S\left[ \begin{pmatrix} -i \\ 1 \end{pmatrix} \right] \end{align} $$

よって、

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} i \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} -i \\ 1 \end{pmatrix} $$

とおいて、シュミットの正規直交化法から正規直交基底を構成する。

$$ (\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2)=0, \quad \|\mathbf{a}_1\|=\sqrt{2}, \quad \|\mathbf{a}_2\|=\sqrt{2} $$

より、

$$ \mathbf{v}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} i \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} -i \\ 1 \end{pmatrix} $$

とおくと、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \) は正規直交基底となる。

よって、定理2より \( U=\begin{pmatrix} \mathbf{v}_1 & \mathbf{v}_2 \end{pmatrix} \) とおくと、 \( U \) はユニタリ行列となる。

したがって、

$$ U^{-1}AU=\begin{pmatrix} a+bi & 0 \\ 0 & a-bi \end{pmatrix}, \quad U=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} i & -i \\ 1 & 1 \end{pmatrix} $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

目次