線形代数学続論12:内積空間とシュミットの正規直交化法

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学続論から内積空間とシュミットの正規直交化法について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 内積空間の定義と性質について
  • シュミットの正規直交化法について
  • エルミート内積について
目次

内積空間の定義と性質

線形代数学02で数ベクトルの内積について紹介しました。

ここでは、一般のベクトル空間のベクトルに対して、内積を導入していきましょう。

そのために、まず数ベクトルの内積について次の性質が成り立つことを線形代数学02の定理1で解説しました。

定理1 (数ベクトルの内積の性質)

数ベクトル \( \mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{c}\in \mathbb{R}^n \) と実数 \( k \) に対して、次が成り立つ。

(1) \( \mathbf{a}\cdot\mathbf{b}=\mathbf{b}\cdot\mathbf{a} \)

(2) \( \mathbf{a}\cdot(\mathbf{b}+\mathbf{c})=\mathbf{a}\cdot\mathbf{b}+\mathbf{a}\cdot\mathbf{c} \)

(3) \( k\mathbf{a}\cdot\mathbf{b}=\mathbf{a}\cdot k\mathbf{b}=k(\mathbf{a}\cdot\mathbf{b}) \)

(4) \( \mathbf{a}\cdot\mathbf{a}≧ 0 \) (等号は \( \mathbf{a}=0 \) のときに限る)

これを踏まえて、ベクトルの内積を定義してからその性質を見るのではなく、ベクトルの内積に必要とされる性質そのものを定義とすることにより、一般のベクトル空間に対する内積を定めることができます。

したがって、内積空間を次のように定義します。

定義1 (内積空間)

\( V \) を実ベクトル空間として、次の写像 \( (\cdot,\cdot):V\times V\to \mathbb{R} \) を考える。

$$ \mathbf{x},\mathbf{y}\mapsto (\mathbf{x},\mathbf{y}) $$

このとき、写像 \( (\cdot,\cdot) \) が次の4つの性質をみたすとき、 \( (\cdot,\cdot) \) を \( V \) の内積といい、 \( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) のことを内積空間または計量ベクトル空間という。

ベクトル \( \mathbf{x},\mathbf{y},\mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2\in V \) と \( \lambda\in \mathbb{R} \) に対して、

(1) \( (\mathbf{x},\mathbf{y})=(\mathbf{y},\mathbf{x}) \)

(2) \( (\mathbf{x}_1+\mathbf{x}_2,\mathbf{y})=(\mathbf{x}_1,\mathbf{y})+(\mathbf{x}_2,\mathbf{y}) \)

(3) \( (\lambda \mathbf{x},\mathbf{y})=\lambda(\mathbf{x}, \mathbf{y}) \)

(4) \( (\mathbf{x},\mathbf{x})≧0 \) さらに、\( (\mathbf{x},\mathbf{x})=0 \iff \mathbf{x}=\mathbf{0} \)

例1

(1) \( V \) を実ベクトル空間として、 \( \dim V=n≧1 \) とする。

また、 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_n \) を \( V \) の1つの基底とする。

このとき、任意の \( \mathbf{x},\mathbf{y}\in V \) を

$$ \mathbf{x}=\sum_{i=1}^nx_i\mathbf{v}_i, \quad \mathbf{y}=\sum_{i=1}^ny_i\mathbf{v}_i $$

と表すと、

$$ (\mathbf{x},\mathbf{y})=\sum_{i=1}^nx_iy_i $$

によって、 \( (\cdot,\cdot):V\times V\to \mathbb{R} \) は \( V \) 上の内積となっている。


(2) $$ V=\{ f(x) \ | \ f(x) は[0,1]上で連続 \} $$

とおく。このとき、任意の \( f,g\in V \) に対して、

$$ (f,g)=\int_0^1f(x)g(x)dx $$

によって、 \( (\cdot,\cdot):V\times V\to \mathbb{R} \) は \( V \) 上の内積となっている。

内積空間 \( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) とすると、数ベクトル同様 \( \mathbf{x}\in V \) に対して、ベクトルの長さ(ノルム)が

$$ \|\mathbf{x}\|=\sqrt{(\mathbf{x},\mathbf{x})} $$

によって、定義されます。

例2

$$ V=\mathbb{R}^2=S[\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2]=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix} \right] $$

を考える。このとき、任意の \( \mathbf{x},\mathbf{y} \in V \) は

$$ \mathbf{x}=x_1\mathbf{e}_1+x_2\mathbf{e}_2, \quad \mathbf{y}=y_1\mathbf{e}_1+y_2\mathbf{e}_2 $$

と表される。ここで、

$$ (\mathbf{x},\mathbf{y})=x_1y_1+2x_2y_2 $$

とすると、 \( (\cdot,\cdot) \) は \( V \) に内積を定める。

このとき、\( \mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2 \) の長さを計算すると、

$$ \mathbf{e}_1=1\mathbf{e}_1+0\mathbf{e}_2, \quad \mathbf{e}_2=0\mathbf{e}_1+1\mathbf{e}_2 $$

より、

$$ \|\mathbf{e}_1\|=\sqrt{(\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_1)}=1, \quad \|\mathbf{e}_2\|=\sqrt{(\mathbf{e}_2,\mathbf{e}_2)}=\sqrt{2} $$

ベクトルの長さに関して、次の性質が成り立ちます。

定理2 (ベクトルの長さの性質)

\( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) を内積空間とするとき、ノルム \( \|\cdot\| \) に関して次が成り立つ。

任意の \( \mathbf{x},\mathbf{y}\in V \) と \( \lambda \in\mathbb{R} \) に対して、

(1) $$ \|\mathbf{x}\|≧0 $$

(2) $$ \|\lambda\mathbf{x}\|=|\lambda|\|\mathbf{x}\| $$

(3) $$ (\mathbf{x},\mathbf{y})=\frac{1}{2}\{ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|^2-\|\mathbf{x}\|^2-\|\mathbf{y}\|^2\}=\frac{1}{2}\{ \|\mathbf{x}\|^2+\|\mathbf{y}\|^2-\|\mathbf{x}-\mathbf{y}\|^2\} $$

(4) $$ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|^2+\|\mathbf{x}-\mathbf{y}\|^2=2(\|\mathbf{x}\|^2+\|\mathbf{y}\|^2) $$

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) 定義1の(4)より \( (\mathbf{x},\mathbf{x})≧0 \) なので、 \( \|x\|=\sqrt{(\mathbf{x},\mathbf{x})}≧0 \)


(2) $$ \begin{align} \|\lambda\mathbf{x}\|&=\sqrt{(\lambda\mathbf{x},\lambda\mathbf{x})}=\sqrt{\lambda(\mathbf{x},\lambda\mathbf{x})} \quad (定義1の(3)より) \\ &=\sqrt{\lambda(\lambda\mathbf{x},\mathbf{x})} \quad (定義1の(1)より) \\ &=\sqrt{\lambda^2(\mathbf{x},\mathbf{x})} \quad (定義1の(3)より) \\ &=|\lambda|\sqrt{(\mathbf{x},\mathbf{x})}=|\lambda|\|\mathbf{x}\| \end{align} $$


(3) $$ \begin{align} \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|^2&=(\mathbf{x}+\mathbf{y},\mathbf{x}+\mathbf{y}) \\ &=(\mathbf{x},\mathbf{x}+\mathbf{y})+(\mathbf{y},\mathbf{x}+\mathbf{y}) \quad (定義1の(2)) \\ &=(\mathbf{x}+\mathbf{y},\mathbf{x})+(\mathbf{x}+\mathbf{y},\mathbf{y}) \quad (定義1の(1)) \\ &=(\mathbf{x},\mathbf{x})+(\mathbf{y},\mathbf{x})+(\mathbf{x},\mathbf{y})+(\mathbf{y},\mathbf{y}) \quad (定義1の(2)) \\ &=\|\mathbf{x}\|^2+2(\mathbf{x},\mathbf{y})+\|\mathbf{y}\|^2 \end{align} $$

より、

$$ (\mathbf{x},\mathbf{y})=\frac{1}{2}\{ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|^2-\|\mathbf{x}\|^2-\|\mathbf{y}\|^2\} $$

同様に

$$ \|\mathbf{x}-\mathbf{y}\|^2=\|\mathbf{x}\|^2-2(\mathbf{x},\mathbf{y})+\|\mathbf{y}\|^2 $$

より、

$$ (\mathbf{x},\mathbf{y})=\frac{1}{2}\{ \|\mathbf{x}\|^2+\|\mathbf{y}\|^2-\|\mathbf{x}-\mathbf{y}\|^2\} $$


(4) (3)で計算した2式

$$ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|^2=\|\mathbf{x}\|^2+2(\mathbf{x},\mathbf{y})+\|\mathbf{y}\|^2 $$

$$ \|\mathbf{x}-\mathbf{y}\|^2=\|\mathbf{x}\|^2-2(\mathbf{x},\mathbf{y})+\|\mathbf{y}\|^2 $$

の辺々を足すと、

$$ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|^2+\|\mathbf{x}-\mathbf{y}\|^2=2(\|\mathbf{x}\|^2+\|\mathbf{y}\|^2) $$

定理3 (シュワルツの不等式)

\( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) を内積空間とする。

任意の \( \mathbf{x},\mathbf{y}\in V \) に対して、次が成り立つ。

$$ |(\mathbf{x},\mathbf{y})|≦\|\mathbf{x}\|\|\mathbf{y}\| $$

さらに、

$$ |(\mathbf{x},\mathbf{y})|=\|\mathbf{x}\|\|\mathbf{y}\| \iff ある \lambda\in \mathbb{R} が存在して、 \mathbf{x}=\lambda\mathbf{y} もしくは \mathbf{y}=\lambda \mathbf{x} $$

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

$$ \begin{align} 0&≦\| \mathbf{x}+t\mathbf{y}\|^2=(\mathbf{x}+t\mathbf{y},\mathbf{x}+t\mathbf{y}) \\ &=\|\mathbf{x}\|^2+2t(\mathbf{x},\mathbf{y})+t^2\|\mathbf{y}\|^2 \end{align} $$

より、これを \( t \) に関する2次式とみると、2次方程式

$$ \|\mathbf{y}\|^2t^2+2(\mathbf{x},\mathbf{y})t+\|\mathbf{x}\|^2=0 $$

は重解をもつか、解をもたないことが分かります。(グラフを考えてみるとわかりやすいです)

したがって、判別式を考えると、

$$ D=4(\mathbf{x},\mathbf{y})^2-4\|\mathbf{x}\|^2\|\mathbf{y}\|^2≦0 $$

となり、

$$ |(\mathbf{x},\mathbf{y})|≦\|\mathbf{x}\|\|\mathbf{y}\| $$

が得られます。次に、等号成立条件を示します。

\( \mathbf{x},\mathbf{y}\in V \) に対して、

$$ |(\mathbf{x},\mathbf{y})|=\|\mathbf{x}\|\|\mathbf{y}\| $$

が成り立つとすると、判別式 \( D \) は \( D=0 \) となります。

よって、2次方程式

$$ \|\mathbf{y}\|^2t^2+2(\mathbf{x},\mathbf{y})t+\|\mathbf{x}\|^2=0 $$

は重解をもつので、それを \( t_0\in \mathbb{R} \) とします。すると、証明初めの計算より、

$$ \|\mathbf{x}+t_0\mathbf{y}\|^2=(\mathbf{x}+t_0\mathbf{y},\mathbf{x}+t_0\mathbf{y})=0 $$

となります。したがって、定義1の(4)より、

$$ \mathbf{x}+t_0\mathbf{y}=\mathbf{0} $$

となることが必要十分条件となります。

(つまり、逆にたどれば逆向きの矢印も示せます。)

よって、定理が成り立ちます。

定理4 (三角不等式)

\( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) を内積空間とする。

任意の \( \mathbf{x},\mathbf{y}\in V \) に対して、次が成り立つ。

$$ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|≦\|\mathbf{x}\|+\|\mathbf{y}\| $$

さらに、

$$ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|=\|\mathbf{x}\|+\|\mathbf{y}\| \iff ある \lambda≧0 が存在して、 \mathbf{x}=\lambda\mathbf{y} もしくは \mathbf{y}=\lambda \mathbf{x} $$

定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)

$$ \begin{align} \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|^2&=(\mathbf{x}+\mathbf{y},\mathbf{x}+\mathbf{y})=\|\mathbf{x}\|^2+\|\mathbf{y}\|^2+2(\mathbf{x},\mathbf{y}) \\ &≦\|\mathbf{x}\|^2+\|\mathbf{y}\|^2+2\|\mathbf{x}\|\|\mathbf{y}\| \quad (定理3より) \\ &=(\|\mathbf{x}\|+\|\mathbf{y}\| )^2 \end{align} $$

したがって、

$$ \|\mathbf{x}+\mathbf{y}\|≦\|\mathbf{x}\|+\|\mathbf{y}\| $$

また上の計算から等号成立するには、 \( (\mathbf{x},\mathbf{y})=\|\mathbf{x}\|\|\mathbf{y}\| \) のときに限ります。

したがって、定理3より、これはある \( \lambda\in \mathbb{R} \) が存在して、 \( \mathbf{x}=\lambda\mathbf{y} \) もしくは \( \mathbf{y}=\lambda \mathbf{x} \) となることが必要十分となります。

しかし、例えば \( \mathbf{x}=\lambda\mathbf{y} \) のときを考えると、

$$ 0≦\|\mathbf{x}\|\|\mathbf{y}\|=(\mathbf{x},\mathbf{y})=(\lambda \mathbf{y},\mathbf{y})=\lambda\|\mathbf{y}\|^2 $$

より、 \( \lambda \) のとり方としては \( \lambda≧0 \) となります。

シュミットの正規直交化法

数ベクトルの内積におけるもう一つ大事な性質として、線形代数学02の定理1では次のことを紹介しました。

定理5 (内積の直交性)

数ベクトル \( \mathbf{a},\mathbf{b}\in \mathbb{R}^n \) に対して、次が成り立つ。

\( \mathbf{a}\cdot\mathbf{b}=0 \ (\mathbf{a},\mathbf{b}\not=0) \) のとき \( \mathbf{a} \) と \(\mathbf{b} \) は直交する。

これをもとにして、ベクトル空間の基底に直交性の概念を入れたものを定義します。

定義2 (正規直交基底)

内積空間 \( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) のベクトルの組 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_m \) が、

$$ \|\mathbf{v}_i\|^2=(\mathbf{v}_i,\mathbf{v}_i)=1, \quad (\mathbf{v}_i,\mathbf{v}_j)=0 \ (i\not=j) $$

をみたすとき、 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_m \) を \( V \) の正規直交系という。

また、 \( V \) のベクトルの組 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_n \) が正規直交系でかつ \( V \) の基底となっているとき、 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_n \) を \( V \) の正規直交基底という。

まず、次のことがわかります。

定理6

内積空間 \( V \) の正規直交系 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_m \) は1次独立である。

定理6の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_m \) を内積空間 \( V \) の正規直交系とします。

このとき、

$$ c_1\mathbf{v}_1+\cdots+c_m\mathbf{v}_m=\mathbf{0} $$

となったとすると、各 \( j \) に対して、

$$ \begin{align} 0&=(\mathbf{0},\mathbf{v}_j)=(c_1\mathbf{v}_1+\cdots+c_m\mathbf{v}_m,\mathbf{v}_j) \\ &=\sum_{i=1}^mc_i(\mathbf{v}_i,\mathbf{v}_j)=c_j \quad (i\not=jのときは内積0) \end{align} $$

したがって、

$$ c_1=\cdots=c_m=0 $$

となり、 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_m \) は1次独立となります。

例3

$$ V=\{ \alpha+\beta x \ | \ \alpha,\beta\in \mathbb{R} \} $$

を考える。このとき、任意の \( f,g\in V \) に対して、

$$ (f,g)=\int_0^1f(x)g(x)dx $$

によって、 \( V \) に内積を定める。

このとき、 \( 1,x \) は \( V \) の基底となるが、

$$ (1,1)=\int_0^1dx=1, \quad (1,x)=\int_0^1xdx=\frac{1}{2}, \quad (x,x)=\int_0^1x^2dx=\frac{1}{3} $$

であるので、正規直交基底ではない。

上の例のように、基底であっても正規直交基底でない場合もあります。

しかし、この1つの基底を用いて、正規直交基底を構成することができます。

それが次に紹介するシュミットの正規直交化法です。

定理7 (シュミットの正規直交化法)

\( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) を内積空間として、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) を1次独立の \( V \) のベクトルの組とする。

このとき、 \( V \) の正規直交系 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_r \) が存在して、

$$ S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r]=S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_r] \quad (1≦i≦r) $$

\( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) が基底であれば、この定理より正規直交基底 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_r \) を構成することができます。

定理7の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( r≧1 \) に関する数学的帰納法で示します。

\( r=1 \) のときは、 \( \mathbf{v}_1=\frac{\mathbf{a}_1}{\|\mathbf{a}_1\|} \) とおけばよいです。

よって、 \( r≧2 \) として \( r-1 \) まで主張が成り立つとします。

つまり、 \( V \) の正規直交系 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_{r-1} \) が存在して、

$$ S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_{r-1}]=S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_{r-1}] \quad (1≦i≦r-1) $$

となるものが存在するとします。

このとき、

$$ W=S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_{r-1}]=S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_{r-1}] $$

とおけば、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) の1次独立性より \( \mathbf{a}_r\not\in W \) となります。

また、 \( \mathbf{b}\in W \) は \( \displaystyle \mathbf{b}=\sum_{i=1}^{r-1}b_i\mathbf{v}_i \) と表されますが、この \( b_i\in \mathbb{R} \) を \( (\mathbf{a}_r-\mathbf{b},\mathbf{v}_i)=0 \) をみたすように調整します。つまり、

$$ \begin{align} 0&=(\mathbf{a}_r-\mathbf{b},\mathbf{v}_i)=(\mathbf{a}_r-\sum_{j=1}^{r-1}b_j\mathbf{v}_j,\mathbf{v}_i) \\ &=(\mathbf{a}_r,\mathbf{v}_i)-\sum_{j=1}^{r-1}b_j(\mathbf{v}_j,\mathbf{v}_i) \\ &=(\mathbf{a}_r,\mathbf{v}_i)-b_i \quad (i\not=jのとき内積0) \end{align} $$

より、 \( b_i=(\mathbf{a}_r,\mathbf{v}_i) \) とすればよいです。

このように定めた \( b_i \) に対して、

$$ \mathbf{a}_r-\sum_{i=1}^{r-1}b_i\mathbf{v}_i\in V $$

を考えると、上の調整により

$$ (\mathbf{a}_r-\sum_{i=1}^{r-1}b_i\mathbf{v}_i,\mathbf{v}_j)=0 \quad (1≦j≦r-1) $$

となります。したがって、

$$ \mathbf{v}_r=\frac{\mathbf{a}_r-\sum_{i=1}^{r-1}b_i\mathbf{v}_i}{\|\mathbf{a}_r-\sum_{i=1}^{r-1}b_i\mathbf{v}_i\|}\in V $$

を考えると、 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_r \) は \( V \) の正規直交系であり、さらに、 \( \mathbf{v}_r \) の定め方より、

$$ \mathbf{a}_r\in S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_{r-1},\mathbf{v}_r], \quad \mathbf{v}_r\in S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_{r-1},\mathbf{a}_r] $$

であるので、

$$ \begin{align} S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r]&=S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_{r-1},\mathbf{a}_r] \\ &=S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_{r-1},\mathbf{a}_r] \quad (帰納法の仮定) \\ &=S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_{r-1},\mathbf{v}_r] \end{align} $$

よって、 \( r \) のとき成り立ちます。

したがって、帰納法より定理が成り立ちます。

この定理の証明が正規直交基底の構成方法を与えていますが、改めて正規直交基底の構成方法をまとめておきます。

話を簡単にするため、 \( \mathbb{R}^3 \) の正規直交基底とは限らない基底 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3 \) に対して正規直交基底 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\mathbf{v}_3 \) を構成する方法を説明していきます。

STEP
\( \mathbf{a}_1 を正規化することにより、 \) \( \mathbf{v}_1 を構成する \)

\( \mathbf{a}_1 \) の長さ \( \| \mathbf{a}_1 \| \) を計算して、 \( \mathbf{v}_1=\frac{\mathbf{a}_1}{\|\mathbf{a}_1\|} \) と定めます。

すると、 \( \mathbf{v}_1 \) の長さは1となります。

STEP
\( \mathbf{v}_1,\mathbf{a}_2 から \mathbf{v}_2 を構成する \)

まず、ベクトル \( \mathbf{b}_2 \) を

$$ \mathbf{b}_2=\mathbf{a}_2-(\mathbf{v}_1,\mathbf{a}_2)\mathbf{v}_1 $$

とおくと、 \( \mathbf{b}_2 \) は \( \mathbf{v}_1 \) と直交します。なぜなら、

$$ \begin{align} (\mathbf{b}_2,\mathbf{v}_1)&=(\mathbf{a}_2-(\mathbf{v}_1,\mathbf{a}_2)\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_1) \\ &=(\mathbf{a}_2,\mathbf{v}_1)-(\mathbf{v}_1,\mathbf{a}_2)(\mathbf{v}_1,\mathbf{v}_1) \\ &=(\mathbf{a}_2,\mathbf{v}_1)-(\mathbf{a}_2,\mathbf{v}_1)=0 \end{align} $$

よって、 \( \mathbf{b}_2 \) の長さ \( \| \mathbf{b}_2 \| \) を計算して、 \( \mathbf{v}_2=\frac{\mathbf{b}_2}{\|\mathbf{b}_2\|} \) と定めます。

すると、 \( \mathbf{v}_2 \) の長さは1となり、 \( \mathbf{v}_1 \) に直交します。

STEP
\( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2,\mathbf{a}_3 から \mathbf{v}_3 を構成する \)

まず、ベクトル \( \mathbf{b}_3 \) を

$$ \mathbf{b}_3=\mathbf{a}_3-(\mathbf{v}_1,\mathbf{a}_3)\mathbf{v}_1-(\mathbf{v}_2,\mathbf{a}_3)\mathbf{v}_2 $$

とおくと、 \( \mathbf{b}_3 \) は \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \) と直交します。

よって、 \( \mathbf{b}_3 \) の長さ \( \| \mathbf{b}_3 \| \) を計算して、 \( \mathbf{v}_3=\frac{\mathbf{b}_3}{\|\mathbf{b}_3\|} \) と定めます。

すると、 \( \mathbf{v}_3 \) の長さは1となり、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \) に直交します。

例4

(1) 例3と同じく、

$$ V=\{ \alpha+\beta x \ | \ \alpha,\beta\in \mathbb{R} \} $$

を考える。このとき、任意の \( f,g\in V \) に対して、

$$ (f,g)=\int_0^1f(x)g(x)dx $$

によって、 \( V \) に内積を定める。

このとき、例3より \( 1,x \) は \( V \) の基底となるが、正規直交基底ではない。

しかし、この基底を用いてシュミットの正規直交化法により正規直交基底を構成する。

まず、 \( \|1\|=1 \) より、 \( \mathbf{v}_1=1 \) と定める。

そして、 \( \mathbf{b}_2 \) を

$$ \mathbf{b}_2=\mathbf{a}_2-(\mathbf{v}_1,\mathbf{a}_2)\mathbf{v}_1=x-(1,x)1=x-\frac{1}{2} $$

と定めると、 \( \mathbf{b}_2 \) は \( \mathbf{v}_1=1 \) と直交する。

したがって、

$$ \begin{align} \|\mathbf{b}_2\|&=\sqrt{(\mathbf{b}_2,\mathbf{b}_2)}=\sqrt{\int_0^1\left(x-\frac{1}{2}\right)^2dx} \\ &=\frac{1}{\sqrt{12}} \end{align} $$

より、

$$ \mathbf{v}_2=\frac{\mathbf{b}_2}{\|\mathbf{b}_2\|}=\sqrt{12}\left(x-\frac{1}{2}\right) $$

とおくと、 \( \mathbf{v}_2 \) の長さは1となり、 \( \mathbf{v}_1 \) に直交する。

よって、 \( 1,\sqrt{12}\left(x-\frac{1}{2}\right) \) は正規直交基底となる。


(2) 次の \( \mathbb{R}^3 \) の基底を考える。

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$

この基底を用いてシュミットの正規直交化法により正規直交基底を構成する。

まず、 \( \|\mathbf{a}_1\|=\sqrt{1^2+1^2}=\sqrt{2} \) より、

$$ \mathbf{v}_1=\frac{\mathbf{a}_1}{\|\mathbf{a}_1\|}=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} $$

と定めると、 \( \mathbf{v}_1 \) の長さは1となる。

次に、 \( \mathbf{b}_2 \) を

$$ \begin{align} \mathbf{b}_2&=\mathbf{a}_2-(\mathbf{v}_1,\mathbf{a}_2)\mathbf{v}_1 \\ &=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}-\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}\right)\times\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}\right) \\ &=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}-\frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}=\frac{1}{2}\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix} \end{align} $$

と定めると、 \( \mathbf{b}_2 \) は \( \mathbf{v}_1 \) と直交する。

したがって、

$$ \begin{align} \|\mathbf{b}_2\|&=\sqrt{(\mathbf{b}_2,\mathbf{b}_2)}=\sqrt{\frac{1}{4}\times\{ (-1)^2+1^2+2^2\}}=\frac{\sqrt{6}}{2} \end{align} $$

より、

$$ \mathbf{v}_2=\frac{\mathbf{b}_2}{\|\mathbf{b}_2\|}=\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix} $$

とおくと、 \( \mathbf{v}_2 \) の長さは1となり、 \( \mathbf{v}_1 \) に直交する。

最後に、 \( \mathbf{b}_3 \) を

$$ \begin{align} \mathbf{b}_3&=\mathbf{a}_3-(\mathbf{v}_1,\mathbf{a}_3)\mathbf{v}_1-(\mathbf{v}_2,\mathbf{a}_3)\mathbf{v}_2 \\ &=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}-\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}\right)\times\left(\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}\right) \\ &\quad -\left(\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}\right)\times\left(\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix}\right) \\ &=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}-\frac{1}{2}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}-\frac{1}{6}\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix}=\frac{2}{3}\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \\ 1 \end{pmatrix} \end{align} $$

と定めると、 \( \mathbf{b}_3 \) は \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \) と直交する。

したがって、

$$ \begin{align} \|\mathbf{b}_3\|&=\sqrt{(\mathbf{b}_3,\mathbf{b}_3)}=\sqrt{\frac{4}{9}\times\{ 1^2+(-1)^2+1^2\}}=\frac{2\sqrt{3}}{3} \end{align} $$

より、

$$ \mathbf{v}_3=\frac{\mathbf{b}_3}{\|\mathbf{b}_3\|}=\frac{1}{\sqrt{3}}\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \\ 1 \end{pmatrix} $$

とおくと、 \( \mathbf{v}_3 \) の長さは1となり、 \( \mathbf{v}_1,\mathbf{v}_2 \) に直交する。

よって、

$$ \mathbf{v}_1=\frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_2=\frac{1}{\sqrt{6}}\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{v}_3=\frac{1}{\sqrt{3}}\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \\ 1 \end{pmatrix} $$

は正規直交基底となる。

エルミート内積

いままでは、実ベクトル空間(つまり、スカラー倍のスカラーが実数のベクトル空間)の内積を見てきましたが、複素ベクトル空間においても内積を定義することができます。

ただし、複素ベクトル空間においては複素共役に注意して内積を定義する必要があります。

定義3 (エルミート内積)

\( V \) を複素ベクトル空間として、次の写像 \( (\cdot,\cdot):V\times V\to \mathbb{C} \) を考える。

$$ \mathbf{x},\mathbf{y}\mapsto (\mathbf{x},\mathbf{y}) $$

このとき、写像 \( (\cdot,\cdot) \) が次の4つの性質をみたすとき、 \( (\cdot,\cdot) \) を \( V \) のエルミート内積もしくは内積といい、 \( V=(V,(\cdot,\cdot)) \) のことをエルミート内積空間または複素計量ベクトル空間という。

ベクトル \( \mathbf{x},\mathbf{y},\mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2\in V \) と \( \lambda\in \mathbb{C} \) に対して、

(1) \( (\mathbf{x},\mathbf{y})=\overline{(\mathbf{y},\mathbf{x})} \)

(2) \( (\mathbf{x}_1+\mathbf{x}_2,\mathbf{y})=(\mathbf{x}_1,\mathbf{y})+(\mathbf{x}_2,\mathbf{y}) \)

(3) \( (\lambda \mathbf{x},\mathbf{y})=\lambda(\mathbf{x}, \mathbf{y}), \) \( (\mathbf{x},\lambda\mathbf{y})=\overline{\lambda}(\mathbf{x}, \mathbf{y}) \)

(4) \( (\mathbf{x},\mathbf{x})≧0 \) さらに、\( (\mathbf{x},\mathbf{x})=0 \iff \mathbf{x}=\mathbf{0} \)

例5

\( n \) 次元複素数ベクトル空間 \( \mathbb{C}^n \) に対して、エルミート内積 \( (\cdot,\cdot):\mathbb{C}^n\times \mathbb{C}^n\to \mathbb{C} \) を次で与える。

$$ \mathbf{x}=\begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}, \ \mathbf{y}=\begin{pmatrix} y_1 \\ \vdots \\ y_n \end{pmatrix} \mapsto \sum_{i=1}^nx_i\overline{y_i}={}^t\mathbf{x}\overline{\mathbf{y}} $$

すると、これは \( \mathbb{C}^n \) のエルミート内積となっている。

この内積のことを標準的なエルミート内積という。

エルミート内積空間においても、シュミットの正規直交化法を含む今回述べた定理については同様に成り立ちます。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

目次