線形代数学続論09:ベクトル空間の同型と商ベクトル空間

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学続論からベクトル空間の同型と商ベクトル空間について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • ベクトル空間の同型について
  • 商ベクトル空間について
目次

ベクトル空間の同型

2つのベクトル空間がどういうときに同じものとみなしてよいのかということについて考えます。

そのため、同型というものを定義します。

定義1 (ベクトル空間の同型)

2つのベクトル空間 \( V,W \) に対して、線形写像 \( f:V\to W \) が全単射であるとき、 \( f \) を \( V \) から \( W \) への同型写像という。

また、2つのベクトル空間 \( V,W \) に対して、その間に(1つでも)同型写像が存在するとき、 \( V,W \) は同型であるといい、 \( V\cong W \) と表す。

このとき、 \( V,W \) は全く同じベクトル空間 \( V=W \) というわけではないことに注意してください。

なぜこの場合に同型というのかを表した定理を紹介します。

定理1

\( V,W \) をベクトル空間として、 \( f:V\to W \) を同型写像とする。このとき、

(1) \( \mathbf{v}_1,\cdots\mathbf{v}_n \) を1次独立な \( V \) のベクトル空間の組とすると、 \( f(\mathbf{v}_1),\cdots,f(\mathbf{v}_n) \) は1次独立な \( W \) のベクトル空間の組となる。

(2) \( \mathbf{v}_1,\cdots\mathbf{v}_n \) を \( V \) の基底とすると、 \( f(\mathbf{v}_1),\cdots,f(\mathbf{v}_n) \) は \( W \) の基底となる。

とくに、 \( \dim V =\dim W \) となる。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) \( \mathbf{v}_1,\cdots\mathbf{v}_n \) を1次独立な \( V \) のベクトル空間の組とします。

もし、

$$ c_1f(\mathbf{v}_1)+\cdots+c_nf(\mathbf{v}_n)=\mathbf{0} $$

であるとすると、 \( f \) の線形性より、

$$ f(c_1\mathbf{v}_1+\cdots+c_n\mathbf{v}_n)=\mathbf{0} $$

\( f \) の単射性より、線形代数学続論05の定理6から \( \text{Ker} \ f=\{\mathbf{0}\} \) であるので、

$$ c_1\mathbf{v}_1+\cdots+c_n\mathbf{v}_n=\mathbf{0} $$

したがって、 \( \mathbf{v}_1,\cdots\mathbf{v}_n \) の1次独立性より、

$$ c_1=\cdots=c_n=0 $$

となり、 \( f(\mathbf{v}_1),\cdots,f(\mathbf{v}_n) \) も1次独立となります。


(2) \( \mathbf{v}_1,\cdots\mathbf{v}_n \) を \( V \) の基底とします。

このとき、(1)より \( f(\mathbf{v}_1),\cdots,f(\mathbf{v}_n) \) も1次独立となり、さらに \( f \) は全射であるので、

$$ W=\text{Im} \ f=S[f(\mathbf{v}_1),\cdots,f(\mathbf{v}_n)] $$

(2つめの等号は \( \mathbf{v}_1,\cdots\mathbf{v}_n \) が \( V \) の基底であることから出てくる)

したがって、 \( f(\mathbf{v}_1),\cdots,f(\mathbf{v}_n) \) は \( W \) の基底となります。

また、次元の定義より、 \( \dim V =\dim W \) となります。

定理1により、 \( V\cong W \) であれば \( \dim V =\dim W \) となりますが、次の定理はその逆も成り立つことをいっています。

定理2

\( V,W \) をベクトル空間とするとき、次が成り立つ。

$$ V\cong W \iff \dim V=\dim W $$

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

(\( \Longrightarrow \)) 定理1より成り立ちます。

(\( \Longleftarrow \)) \( \dim V=\dim W=n \) として、 \( V,W \) の1つの基底をそれぞれ \( \mathbf{v}_1\cdots,\mathbf{v}_n \) と \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_n \) とします。

このとき、次の写像 \( f:V\to W \) を考えます。

$$ \sum_{i=1}^na_i\mathbf{v}_i \mapsto \sum_{i=1}^na_i\mathbf{w}_i $$

この写像が同型写像であることが示せれば \( V\cong W \) となり、証明が完了します。

(線形性) $$ \begin{align} f\left( k\sum_{i=1}^na_i\mathbf{v}_i+\ell\sum_{i=1}^nb_i\mathbf{v}_i \right)&=f\left( \sum_{i=1}^n(ka_i+\ell b_i)\mathbf{v}_i \right) \\ &=\sum_{i=1}^n(ka_i+\ell b_i)\mathbf{w}_i \\ &=k\sum_{i=1}^na_i\mathbf{w}_i+\ell \sum_{i=1}^nb_i\mathbf{w}_i \\ &=kf\left( \sum_{i=1}^na_i\mathbf{v}_i\right)+\ell f\left( \sum_{i=1}^nb_i\mathbf{v}_i \right) \end{align} $$

(全射性) \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_n \) は \( W \) の基底なので、

$$ W=S[\mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_n]=\text{Im} \ f $$

よって、 \( f \) は全射となります。

(単射性) $$ \sum_{i=1}^na_i\mathbf{v}_i\in \text{Ker} \ f $$

を任意にとります。すると、

$$ f\left( \sum_{i=1}^na_i\mathbf{v}_i \right)=\sum_{i=1}^na_i\mathbf{w}_i=\mathbf{0} $$

となるが、 \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_n \) は \( W \) の基底なので、

$$ a_1=\cdots=a_n=0 $$

したがって、 \( \text{Ker} \ f=\{\mathbf{0}\} \) となり、線形代数学続論05の定理6より、 \( f \) は単射となります。

最後に、 \( f:V\to W \) が同型写像であることの必要十分条件を紹介します。

定理3 (同型写像の必要十分条件)

\( V,W \) をベクトル空間とし、それぞれの1つの基底を \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_n \) と \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_m \) とする。

また、線形写像 \( f:V\to W \) として、上の基底に関する表現行列を \( A \) とする。

このとき、次が成り立つ。

$$ fは同型写像 \iff m=nであり、Aは正則行列 $$

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

(\( \Longrightarrow \)) \( f:V\to W \) を同型写像とすると、定理2より \( m=n \) であり \( A \) は正方行列となります。

また、 \( f \) は全単射であるので、逆写像 \( g:W\to V \) が存在します。

( \( g \) もまた同型写像となります)

このとき、 \( g:W\to V \) の同じ基底に関する表現行列を \( B \) とします。

すると、線形代数学続論01の定理2より、

$$ g\circ f=\text{id}_V:V\to V, \quad f\circ g=\text{id}_W:W\to W $$

であるので、線形代数学続論08の定理5より、 \( AB=BA=E_n \)

したがって、 \( A \) は正則行列となります。


(\( \Longleftarrow \)) \( A \) を正則行列とします。すると、逆行列 \( B=A^{-1} \) が存在します。

このとき、線形写像 \( f:V\to W \) と \( g:W\to V \) として、

$$ f(\mathbf{x})=A\mathbf{x}, \quad g(\mathbf{y})=B\mathbf{y} $$

を考えると、

$$ f\circ g=\text{id}_W:W\to W, \quad g\circ f=\text{id}_V:V\to V $$

となるので、線形代数学続論01の定理3より、 \( f \) は全単射となります。

したがって、 \( f \) は同型写像となります。

例1

(1) 線形写像 \( f:\mathbb{R}^3\to \mathbb{R}^2 \) を次で定める。

$$ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\mapsto \begin{pmatrix} x-z \\ x+y+z \end{pmatrix} $$

これは \( \dim \mathbb{R}^3\not=\dim \mathbb{R}^2 \) より、 \( f \) は同型写像ではない。


(2) 線形写像 \( f:\mathbb{R}^3\to \mathbb{R}^3 \) を次で定める。

$$ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\mapsto \begin{pmatrix} x+z \\ x+y \\ x-2z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & -2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} $$

これは \( \dim \mathbb{R}^3=\dim \mathbb{R}^3 \) かつ

$$ |A|=\begin{vmatrix} 1 & 0 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & -2 \end{vmatrix}\not=0 $$

より、 \( f \) は同型写像である。

商ベクトル空間

\( V \) をベクトル空間として、 \( W \) を \( V \) の部分空間とします。

このとき、 \( V \) を \( W \) で割ったベクトル空間というものを考えます。

まず、各 \( \mathbf{x}\in V \) に対して、次の記号を定義します。

$$ \mathbf{x}+W=\{ \mathbf{x}+\mathbf{w} \ | \ \mathbf{w}\in W \} \subset V $$

このとき、次が成り立ちます。

定理4

任意の \( \mathbf{x},\mathbf{y}\in V \) に対して、

$$ \mathbf{x}+W=\mathbf{y}+W \iff \mathbf{x}-\mathbf{y}\in W $$

定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)

(\( \Longrightarrow \)) \( \mathbf{x}+W=\mathbf{y}+W \) より、

$$ \mathbf{x}=\mathbf{x}+\mathbf{0}=\mathbf{y}+\mathbf{w} $$

となる \( \mathbf{w}\in W \) が存在します。したがって、

$$ \mathbf{x}-\mathbf{y}=\mathbf{w}\in W $$


(\( \Longleftarrow \)) \( \mathbf{w}=\mathbf{x}-\mathbf{y}\in W \) とおきます。

すると、任意の \( \mathbf{x}+\mathbf{u}\in \mathbf{x}+W \) に対して、

$$ \begin{align} \mathbf{x}+\mathbf{u}&=(\mathbf{x}-\mathbf{y})+\mathbf{y}+\mathbf{u}=\mathbf{w}+\mathbf{y}+\mathbf{u} \\ &=\mathbf{y}+(\mathbf{u}+\mathbf{w})\in \mathbf{y}+W \end{align} $$

よって、 \( \mathbf{x}+W\subset \mathbf{y}+W \)

同様に \( \mathbf{x}+W \supset \mathbf{y}+W \) も示せるので、 \( \mathbf{x}+W=\mathbf{y}+W \)

このとき、 \( V/W \) を次のように定めます。

$$ V/W=\{ \mathbf{x}+W \ | \ \mathbf{x}\in V \} $$

(つまり、 \( V/W \) は集合 \( \mathbf{x}+W \) を元とする集合になります)

この \( V/W \) がベクトル空間となることを示していきます。

まず、 \( V/W \) に対して、和とスカラー倍を次のように定めます。

  • :任意の \( \mathbf{a},\mathbf{b}\in V/W \) に対して、
    $$ \mathbf{a}=\mathbf{x}+W, \quad \mathbf{b}=\mathbf{y}+W $$
    としたときに、
    $$ \mathbf{a}+\mathbf{b}=(\mathbf{x}+\mathbf{y})+W $$
  • スカラー倍:任意の \( \mathbf{a}\in V/W \) とスカラー \( k\in K \) に対して、
    $$ \mathbf{a}=\mathbf{x}+W $$
    としたときに、
    $$ k\mathbf{a}=(k\mathbf{x})+W $$

ここで、問題となるのは

$$ \mathbf{x}+W=\mathbf{x}’+W, \quad \mathbf{y}+W=\mathbf{y}’+W $$

という状況で、それぞれの和やスカラー倍をとったときに

$$ (\mathbf{x}+\mathbf{y})+W=(\mathbf{x}’+\mathbf{y}’)+W, \quad (k\mathbf{x})+W=(k\mathbf{x}’)+W $$

となるのか、ということです。

(もしこれが成り立たなければ、 \( \mathbf{a}+\mathbf{b},k\mathbf{a} \) の値が \( \mathbf{a},\mathbf{b} \) の \( \mathbf{x},\mathbf{y} \) のとり方によって変わってしまいます)

まとめると、

定理5 (和とスカラー倍の無矛盾性)

任意の \( \mathbf{a},\mathbf{b}\in V/W \) とスカラー \( k\in K \) に対して、

$$ \mathbf{a}=\mathbf{x}+W=\mathbf{x}’+W, \quad \mathbf{b}=\mathbf{y}+W=\mathbf{y}’+W $$

としたときに、

$$ \mathbf{a}+\mathbf{b}=(\mathbf{x}+\mathbf{y})+W=(\mathbf{x}’+\mathbf{y}’)+W $$

$$ k\mathbf{a}=(k\mathbf{x})+W=(k\mathbf{x}’)+W $$

定理5の証明(気になる方だけクリックしてください)

$$ \mathbf{a}=\mathbf{x}+W=\mathbf{x}’+W, \quad \mathbf{b}=\mathbf{y}+W=\mathbf{y}’+W $$

とすると、定理4より

$$ \mathbf{x}-\mathbf{x}’, \ \mathbf{y}-\mathbf{y}’\in W $$

よって、

$$ (\mathbf{x}+\mathbf{y})-(\mathbf{x}’+\mathbf{y}’)=(\mathbf{x}-\mathbf{x}’)+(\mathbf{y}-\mathbf{y}’)\in W $$

したがって、定理4より

$$ (\mathbf{x}+\mathbf{y})+W=(\mathbf{x}’+\mathbf{y}’)+W $$

同様に

$$ (k\mathbf{x})-(k\mathbf{x}’)=k(\mathbf{x}-\mathbf{x}’)\in W $$

より、定理4から

$$ (k\mathbf{x})+W=(k\mathbf{x}’)+W $$

これにより、 \( V/W \) の和とスカラー倍は矛盾なく定義されています。

(このようにある定義が矛盾なく定義されていることをその定義は well-defined であるといいます)

また、この和とスカラー倍に対して、8つのベクトル空間の公理をみたすことも簡単に確かめられます。

よって、 \( V/W \) はベクトル空間となります。

定義2 (商ベクトル空間)

\( V \) をベクトル空間、 \( W \) を \( V \) の部分空間とするとき、集合

$$ V/W=\{ \mathbf{x}+W \ | \ \mathbf{x}\in V \} $$

に上記で定めた和とスカラー倍をいれたベクトル空間のことを \( V \) を \( W \) で割った商ベクトル空間という。

また、写像 \( \pi_W:V\to V/W \) を次で定める。

$$ \mathbf{x} \mapsto \mathbf{x}+W $$

この \( \pi_W \) を自然な射影という。

例2

\( V=\mathbb{R}^3 \) として、 \( V \) の部分空間 \( W \) を次で定める。

$$ W=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \ | \ x+y-z=0 \right\} $$

このとき、 \( V/W=\mathbb{R}^3/W \) を求める。まず、任意に \( W \) から元をとると、

$$ W\ni \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} x \\ y \\ x+y \end{pmatrix}=x\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}+y\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix} $$

となるので、

$$ W=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix} \right] $$

ここで、3つめのベクトルとして \( \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \) を考えると、

$$ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$

$$ \begin{vmatrix} 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \\ 1 & 1 & 1 \end{vmatrix}=1\not=0 $$

であるので、線形代数学続論07の定理4より、これらは \( \mathbb{R}^3 \) の基底となる。

(定理4の \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3 \) を \( \mathbb{R}^3 \) の標準基底、 \( \mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2,\mathbf{b}_3 \) を上のベクトルの組とすると、上の行列が \( C \) となる)

よって、任意の \( \mathbf{x}\in \mathbb{R}^3 \) は

$$ \mathbf{x}=\alpha\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}+\beta\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}+\gamma\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$

と表されるので、自然な射影 \( \pi_W:\mathbb{R}^3\to \mathbb{R}^3/W \) を考えると、

$$ \begin{align} \mathbf{x}+W&=\pi_W(\mathbf{x})=\pi_W \left( \alpha\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}+\beta\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}+\gamma\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \right) \\ &=\alpha \pi_W\left( \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \right)+\beta\pi_W\left( \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix} \right)+\gamma\pi_W\left( \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \right) \quad (\pi_Wは線形) \\ &=\gamma\pi_W\left( \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \right) \quad (最初の2項は0となる) \\ &=\gamma \left\{ \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}+W \right\}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \gamma \end{pmatrix}+W \end{align} $$

したがって、

$$ \mathbb{R}^3/W=\left\{ \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \gamma \end{pmatrix}+W \ | \ \gamma\in K \right\}=S\left[ \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix}+W \right] $$

商ベクトル空間の次元について次のことが成り立ちます。

定理6 (商ベクトル空間の次元)

\( V \) を有限次元ベクトル空間、 \( W \) を \( V \) の部分空間とするとき、次が成り立つ。

$$ \dim (V/W)=\dim (V)-\dim (W) $$

定理6の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( r=\dim (W) \) として、 \( W \) の基底を \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) とします。

これに適宜ベクトル \( \mathbf{b}_1,\cdots,\mathbf{b}_s\in V \) を加えることにより、

$$ \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r,\mathbf{b}_1,\cdots,\mathbf{b}_s $$

を \( V \) の基底とすることができます。

(ベクトルを加えていくとどこかで

$$ V=S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r,\mathbf{b}_1\cdots,\mathbf{b}_{\ell}] $$

となります。そうしたら、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r,\mathbf{b}_1\cdots,\mathbf{b}_{\ell} \) のうち1次独立のベクトルの組の最大個数( \( r+s\)個)のものが基底となります。(一般に\( s≦\ell \) です))

このとき、 \( r+s=\dim (V) \)

ここで、自然な射影 \( \pi_W:V\to V/W \) を考えると、

$$ \mathbf{b}_1+W, \quad \cdots, \quad \mathbf{b}_s+W $$

が \( V/W \) の基底となることを示します。

(生成性) 任意に \( \mathbf{v}+W\in V/W \) をとります。

ここで、 \( \mathbf{v}\in V=S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r,\mathbf{b}_1,\cdots,\mathbf{b}_s] \) であるので、

$$ \mathbf{v}=\sum_{i=1}^r\alpha_i\mathbf{a}_i+\sum_{j=1}^s\beta_j\mathbf{b}_j $$

と表されます。すると、

$$ \begin{align} \mathbf{v}+W&=\pi_W(\mathbf{v})=\pi_W\left(\sum_{i=1}^r\alpha_i\mathbf{a}_i+\sum_{j=1}^s\beta_j\mathbf{b}_j\right) \\ &=\sum_{i=1}^r\alpha_i\pi_W(\mathbf{a}_i)+\sum_{j=1}^s\beta_j\pi_W(\mathbf{b}_j) \\ &=\sum_{j=1}^s\beta_j\pi_W(\mathbf{b}_j) \quad (\mathbf{a}_i\in W より \pi_W(\mathbf{a}_i)=0) \\ &\in S[\mathbf{b}_1+W,\cdots,\mathbf{b}_s+W] \end{align} $$

したがって、

$$ V/W=S[\mathbf{b}_1+W,\cdots,\mathbf{b}_s+W] $$

(1次独立性) もし

$$ \sum_{j=1}^sc_j(\mathbf{b}_j+W)=\left(\sum_{j=1}^sc_j\mathbf{b}_j \right)+W=\mathbf{0}+W\in V/W $$

となっているとすると、定理4より

$$ \sum_{j=1}^sc_j\mathbf{b}_j=\sum_{j=1}^sc_j\mathbf{b}_j-\mathbf{0}\in W=S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r] $$

であるので、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) の1次結合として

$$ \sum_{j=1}^sc_j\mathbf{b}_j=\sum_{i=1}^r\alpha_i\mathbf{a}_i $$

と表すことができます。したがって、

$$ \sum_{i=1}^r\alpha_i\mathbf{a}_i-\sum_{j=1}^sc_j\mathbf{b}_j=\mathbf{0} $$

であるので、

$$ \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r,\mathbf{b}_1,\cdots,\mathbf{b}_s $$

が \( V \) の基底であることより、

$$ \alpha_1=\cdots=\alpha_r=c_1=\cdots=c_s=0 $$

となるので、

$$ \mathbf{b}_1+W, \quad \cdots, \quad \mathbf{b}_s+W $$

は1次独立となります。

したがって、

$$ \mathbf{b}_1+W, \quad \cdots, \quad \mathbf{b}_s+W $$

は \( V/W \) の基底となるので、 \( \dim (V/W)=s \) より、

$$ \dim (V/W)=\dim (V)-\dim (W) $$

が得られます。

例3

例2の \( \mathbb{R}^3/W \) の次元は定理6より、

$$ \dim (\mathbb{R}^3/W)=\dim (\mathbb{R}^3)-\dim (W)=3-2=1 $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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