線形代数学続論06:1次独立と1次従属

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学続論から1次独立と1次従属について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 1次独立と1次従属の定義について
  • 行列式を用いた1次独立・1次従属の調べ方について
  • 1次独立と1次従属の性質について
目次

1次独立と1次従属の定義

与えられたベクトルの組 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) が余分なベクトルを含んでいるかどうかを考えましょう。

例1

次の3つのベクトル

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 3 \\ 4 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 5 \\ 6 \end{pmatrix} $$

で生成される部分空間 \( S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3] \) を考えると、

$$ \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 5 \\ 6 \end{pmatrix}=-\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix}+2\begin{pmatrix} 3 \\ 4 \end{pmatrix}=-\mathbf{a}_1+2\mathbf{a}_2 $$

というように、 \( \mathbf{a}_3 \) は \( \mathbf{a}_1 \) と \( \mathbf{a}_2 \) の1次結合で表されるので、 \( S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3] \) において \( \mathbf{a}_3 \) は余分なベクトルということになる。つまり、

$$ S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3]=S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,-\mathbf{a}_1+2\mathbf{a}_2]=S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2] $$

これを調べる方法として、ベクトルの1次独立と1次従属を定義します。

定義1 (1次独立と1次従属)

\( V \) をベクトル空間として、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_m\in V \) をとる。

(1) あるスカラー \( c_1,c_2,\cdots,c_m\in K \) に対して、

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_m\mathbf{a}_m=\mathbf{0} $$

をみたすとき、これをベクトル \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_m \) の1次関係という。

(2) ベクトル \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_m \) の1次関係

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_m\mathbf{a}_m=\mathbf{0} $$

をみたすのが、

$$ c_1=c_2=\cdots=c_m=0 $$

の場合のみであるとき、ベクトル \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_m \) は1次独立であるという。

(3) ベクトル \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_m \) が1次独立でないとき、1次従属であるという。

$$ c_1=c_2=\cdots=c_m=0 $$ はつねに1次関係 $$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_m\mathbf{a}_m=\mathbf{0} $$ をみたします。これを自明な1次関係といい、つまり1次独立とは1次関係が自明なものしかないベクトルの組のことを言っています。

例2

(1) 数ベクトル空間 \( \mathbf{R}^n \) の標準基底

$$ \mathbf{e}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_2=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \cdots, \quad \mathbf{e}_n=\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$

が1次独立かどうかを調べる。

$$ c_1\mathbf{e}_1+c_2\mathbf{e}_2+\cdots+c_n\mathbf{e}_n=\mathbf{0} $$

を考える。左辺をまとめると、

$$ \begin{align} &c_1\mathbf{e}_1+c_2\mathbf{e}_2+\cdots+c_n\mathbf{e}_n \\ &=c_1\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\cdots+c_n\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} c_1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} 0 \\ c_2 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\cdots+\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ 0 \\ c_n \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix} \end{align} $$

となるので、この1次関係は次のようになる。

$$ \begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} $$

したがって、

$$ c_1=c_2=\cdots=c_n=0 $$

となるので、標準基底 \( \mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_n \) は1次独立である。


(2) 例1の3つのベクトル

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 3 \\ 4 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 5 \\ 6 \end{pmatrix} $$

が1次独立かどうかを調べる。

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+c_3\mathbf{a}_3=\mathbf{0} $$

を考える。左辺をまとめると、

$$ \begin{align} &c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+c_3\mathbf{a}_3 \\ &=c_1\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix} 3 \\ 4 \end{pmatrix}+c_3\begin{pmatrix} 5 \\ 6 \end{pmatrix} \\ &=c_1\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix} 3 \\ 4 \end{pmatrix}+c_3 \left\{ -\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \end{pmatrix}+2\begin{pmatrix} 3 \\ 4 \end{pmatrix} \right\} \\ &=(c_1-c_3)\mathbf{a}_1+(c_2+2c_3)\mathbf{a}_2 \end{align} $$

よって、

$$ c_3=c_1, \quad c_2=-2c_3=-2c_1 $$

とすれば、(たとえば、 \( (c_1,c_2,c_3)=(1,-2,1) \) )

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+c_3\mathbf{a}_3=\mathbf{0} $$

をみたすので、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3 \) は1次独立ではないので、1次従属である。

よって、ベクトルの組の中に余分なベクトルがある場合は1次従属に、余分なベクトルがない場合は1次独立になると考えられます。

それを表したのが次の定理となります。

定理1 (1次従属の必要十分条件)

\( V \) をベクトル空間とし、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n\in V \) をとる。

このとき、次の2つは同値である。

(1) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) は1次従属である。

(2) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) のうち、あるベクトルは残りの \( (n-1) \) 個のベクトルの1次結合で表される。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

((1)⇒(2)) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) は1次従属であるので、

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_n\mathbf{a}_n=\mathbf{0} $$

という関係がなりたつとき、どこかしらの \( i \ (1≦i≦n) \) において、 \( c_i\not=0 \) となります。

よって、このとき \( \mathbf{a}_i \) は次のように表すことができます。

$$ \mathbf{a}_i=-\frac{1}{c_i}(c_1\mathbf{a}_1+\cdots+c_{i-1}\mathbf{a}_{i-1}+c_{i+1}\mathbf{a}_{i+1}+\cdots+c_n\mathbf{a}_n) $$


((2)⇒(1)) 

$$ \mathbf{a}_i=b_1\mathbf{a}_1+\cdots+b_{i-1}\mathbf{a}_{i-1}+b_{i+1}\mathbf{a}_{i+1}+\cdots+b_n\mathbf{a}_n $$

と表せたとします。すると、

$$ b_1\mathbf{a}_1+\cdots+b_{i-1}\mathbf{a}_{i-1}-\mathbf{a}_i+b_{i+1}\mathbf{a}_{i+1}+\cdots+b_n\mathbf{a}_n=\mathbf{0} $$

となり、 \( \mathbf{a}_i \) の係数は必ず \( -1\not=0 \) であるため、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) は1次従属となります。

最後に1次独立の必要十分条件についても紹介します。

定理2 (1次独立の必要十分条件)

\( V \) をベクトル空間とし、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n\in V \) をとる。

このとき、次の2つは同値である。

(1) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) は1次独立である。

(2) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) で生成される部分空間 \( S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n] \) の元を \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) の1次結合で表す方法は1通りである。つまり、

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_n\mathbf{a}_n=c_1’\mathbf{a}_1+c’_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_n’\mathbf{a}_n $$

となっているならば、

$$ c_1=c’_1, \quad c_2=c’_2, \quad \cdots, \quad c_n=c’_n $$

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

((1)⇒(2)) \( \mathbf{x}\in S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n] \) を次のようになっているとする。

$$ \mathbf{x}=c_1\mathbf{a}_1+\cdots+c_n\mathbf{a}_n=c_1’\mathbf{a}_1+\cdots+c_n’\mathbf{a}_n $$

このとき、

$$ (c_1-c’_1)\mathbf{a}_1+\cdots+(c_n-c’_n)\mathbf{a}_n=\mathbf{0} $$

であるので、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) の1次独立性より、

$$ c_1-c’_1=c_2-c’2=\cdots=c_n-c’_n=0 $$

したがって、

$$ c_1=c’_1, \quad c_2=c’_2, \quad \cdots, \quad c_n=c’_n $$


((2)⇒(1)) \( \mathbf{0}\in S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n] \) をとると、

$$ \mathbf{0}=0\mathbf{a}_1+0\mathbf{a}_2+\cdots+0\mathbf{a}_n $$

のように表すことができます。ここで、(2)より \( \mathbf{0} \) のこれ以外の表し方はないので、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) は1次独立となります。

行列式を用いた1次独立・1次従属の調べ方

行列式を用いることによって、ベクトルの組が1次独立か1次従属かを調べることができます。

例3

(1) 次の3つのベクトル

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 3 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 2 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \\ 5 \end{pmatrix} $$

が1次独立かどうかを調べる。

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+c_3\mathbf{a}_3=\mathbf{0} $$

の左辺を計算すると、

$$ \begin{align} &c_1\begin{pmatrix} 3 \\ 1 \\ 2 \end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix} 2 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}+c_3\begin{pmatrix} 1 \\ -1 \\ 5 \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} 3c_1+2c_2+c_3 \\ c_1+c_2-c_3 \\ 2c_1+c_2+5c_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 3 & 2 & 1 \\ 1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 5 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{pmatrix} \end{align} $$

したがって、

$$ \begin{pmatrix} 3 & 2 & 1 \\ 1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 5 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$

このとき、

$$ A=\begin{pmatrix} 3 & 2 & 1 \\ 1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 5 \end{pmatrix} $$

とおくと、 \( A \) の行列式 \( |A| \) は

$$ \begin{align} |A|&=\begin{vmatrix} 3 & 2 & 1 \\ 1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 5 \end{vmatrix} \\ &=15-4+1-2+3-10=3\not=0 \end{align} $$

であるので、 \( A \) は正則行列である。したがって、

$$ A\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 3 & 2 & 1 \\ 1 & 1 & -1 \\ 2 & 1 & 5 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$

の両辺に \( A \) の逆行列 \( A^{-1} \) を左からかけると、

$$ \begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$

よって、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3 \) は1次独立である。


(2) 次の3つのベクトル

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \\ 3 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 4 \\ 5 \\ 6 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} 7 \\ 8 \\ 9 \end{pmatrix} $$

が1次独立かどうかを調べる。

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+c_3\mathbf{a}_3=\mathbf{0} $$

の左辺を計算すると、

$$ \begin{align} &c_1\begin{pmatrix} 1 \\ 2 \\ 3 \end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix} 4 \\ 5 \\ 6 \end{pmatrix}+c_3\begin{pmatrix} 7 \\ 8 \\ 9 \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} c_1+4c_2+7c_3 \\ 2c_1+5c_2+8c_3 \\ 3c_1+6c_2+9c_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 1 & 4 & 7 \\ 2 & 5 & 8 \\ 3 & 6 & 9 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{pmatrix} \end{align} $$

したがって、

$$ \begin{pmatrix} 1 & 4 & 7 \\ 2 & 5 & 8 \\ 3 & 6 & 9 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ c_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$

このとき、

$$ A=\begin{pmatrix} 1 & 4 & 7 \\ 2 & 5 & 8 \\ 3 & 6 & 9 \end{pmatrix} $$

とおくと、 \( A \) の行列式 \( |A| \) は

$$ \begin{align} |A|&=\begin{vmatrix} 1 & 4 & 7 \\ 2 & 5 & 8 \\ 3 & 6 & 9 \end{vmatrix} \\ &=45+96+84-105-48-72=0 \end{align} $$

であるので、 \( A \) は正則行列ではない。よって、連立一次方程式

$$ \begin{cases} c_1+4c_2+7c_3=0 \\ 2c_1+5c_2+8c_3=0 \\ 3c_1+6c_2+9c_3=0 \end{cases} $$

は自明ではない解をもつ。

(実際に解くと、 \( c_1=1,c_2=-2,c_3=1 \) である。)

よって、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3 \) は1次独立ではないので、1次従属である。

1次独立と1次従属の性質

1次独立と1次従属の性質について、列挙していきます。

定理3

\( V \) をベクトル空間とし、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_s\in V \) をとる。

(1) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_r \ (r<s) \) が1次従属であれば、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_s \) も1次従属である。

(2) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_s \) が1次独立であれば、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_r \ (r<s) \) も1次独立である。

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_r \ (r<s) \) が1次従属であるので、

$$ c_1\mathbf{a}_1+\cdots+c_r\mathbf{a}_r=\mathbf{0} $$

とすると、どこかしらの \( i \ (1≦i≦r) \) において、 \( c_i\not=0 \) となります。また、この式は

$$ c_1\mathbf{a}_1+\cdots+c_r\mathbf{a}_r+0\mathbf{a}_{r+1}+\cdots+0\mathbf{a}_s=\mathbf{0} $$

と表すことができ、 \( c_i\not=0 \) より、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_s \) も1次従属となります。


(2) (1)の対偶をとれば示せます。

定理4 (数ベクトル空間と1次独立性)

数ベクトル空間 \( \mathbb{R}^n \) において、

(1) \( \mathbb{R}^n \) 内の \( (n+1) \) 個のベクトルの組は1次従属である。

(2) より一般に、 \( \mathbb{R}^n \) 内の \( r \) 個 \( (r≧n+1) \) のベクトルの組は1次従属である。

定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) \( \mathbb{R}^n \) 内の \( (n+1) \) 個のベクトルの組

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{12} \\ \vdots \\ a_{1n} \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} a_{21} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{2n} \end{pmatrix}, \quad \cdots, \quad \mathbf{a}_{n+1}=\begin{pmatrix} a_{1 \ n+1} \\ a_{2 \ n+1} \\ \vdots \\ a_{n \ n+1} \end{pmatrix} $$

に対して、 \( n+1 \) 項目に \( 0 \) を加えたベクトル

$$ \mathbf{a}’_1=\begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{12} \\ \vdots \\ a_{1n} \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}’_2=\begin{pmatrix} a_{21} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{2n} \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \cdots, \quad \mathbf{a}’_{n+1}=\begin{pmatrix} a_{1 \ n+1} \\ a_{2 \ n+1} \\ \vdots \\ a_{n \ n+1} \\ 0 \end{pmatrix} $$

を考えます。このとき、行列 \( \widetilde{A} \) を

$$ \begin{align} \widetilde{A}&=\begin{pmatrix} \mathbf{a}’_1 & \mathbf{a}’_2 & \cdots & \mathbf{a}’_n \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1 \ n+1} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2 \ n+1} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \dots & a_{n \ n+1} \\ 0 & 0 & \dots & 0 \end{pmatrix} \end{align} $$

を定めると、1つの行がすべて0であるので、

$$ \det \begin{pmatrix} \mathbf{a}’_1 & \mathbf{a}’_2 & \cdots & \mathbf{a}’_n \end{pmatrix}=|\widetilde{A}|=0 $$

したがって、連立一次方程式 \( \widetilde{A}\mathbf{x}=\mathbf{0} \) は自明でない解をもちます。

これは、

$$ x_1\mathbf{a}’_1+x_2\mathbf{a}’_2+\cdots+x_{n+1}\mathbf{a}’_{n+1}=\mathbf{0} $$

において、ある \( i \) で \( x_i\not=0 \) となることを意味しているので、 \( \mathbf{a}’_1,\mathbf{a}’_2,\cdots,\mathbf{a}’_{n+1} \) は1次従属となります。とくに、

$$ x_1\begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{12} \\ \vdots \\ a_{1n} \\ 0 \end{pmatrix}+x_2\begin{pmatrix} a_{21} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{2n} \\ 0 \end{pmatrix}+\cdots+x_{n+1}\begin{pmatrix} a_{1 \ n+1} \\ a_{2 \ n+1} \\ \vdots \\ a_{n \ n+1} \\ 0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$

の \( n+1 \) 項を除いたところを考えることにより、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_{n+1} \) も1次従属となります。


(2) \( \mathbb{R}^n \) 内の \( r \) 個のベクトルの組 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) のうち、 \( (n+1) \) 個のベクトル \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_{n+1} \) は(1)より1次従属であるので、

$$ x_1\mathbf{a}_1+\cdots+x_{n+1}\mathbf{a}_{n+1}=\mathbf{0} $$

とおくと、ある \( i \) で \( x_i\not=0 \) となります。

よって、

$$ x_1\mathbf{a}_1+\cdots+x_{n+1}\mathbf{a}_{n+1}+0\mathbf{a}_{n+2}+\cdots+0\mathbf{a}_r=\mathbf{0} $$

と表してあげると、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) も1次従属となります。

定理5 (線形写像と1次独立性)

\( V,W \) をベクトル空間とし、 \( f:V\to W \) を線形写像とする。

また、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n\in V \) をとる。

(1) \( f(\mathbf{a}_1),\cdots,f(\mathbf{a}_n) \) が1次独立であれば、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) も1次独立である。

(2) \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) が1次独立であり、 \( f \) が単射であるならば、 \( f(\mathbf{a}_1),\cdots,f(\mathbf{a}_n) \) も1次独立である。

定理5の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) が1次独立であることを示すために、

$$ c_1\mathbf{a}_1+\cdots+c_n\mathbf{a}_n=\mathbf{0} $$

とします。両辺を \( f \) で移して、 \( f \) の線形性を用いると、

$$ c_1f(\mathbf{a}_1)+\cdots+c_nf(\mathbf{a}_n)=f(\mathbf{0})=\mathbf{0} $$

\( f(\mathbf{a}_1),\cdots,f(\mathbf{a}_n) \) は1次独立であるので、

$$ c_1=\cdots=c_n=0 $$

したがって、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) も1次独立となります。


(2) \( f(\mathbf{a}_1),\cdots,f(\mathbf{a}_n) \) が1次独立であることを示すために、

$$ c_1f(\mathbf{a}_1)+\cdots+c_nf(\mathbf{a}_n)=\mathbf{0} $$

とします。 \( f \) の線形性より、

$$ f(c_1\mathbf{a}_1+\cdots+c_n\mathbf{a}_n)=\mathbf{0} $$

ここで \( f \) は単射なので、線形代数学続論05の定理6より \( \text{Ker} \ f=\{\mathbf{0} \} \) となるので、

$$ c_1\mathbf{a}_1+\cdots+c_n\mathbf{a}_n=\mathbf{0} $$

となります。( \( f(\mathbf{x})=\mathbf{0} \) となる \( \mathbf{x} \) は \( \mathbf{0} \) しかないため)

したがって、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) は1次独立であるので、

$$ c_1=\cdots=c_n=0 $$

よって、 \( f(\mathbf{a}_1),\cdots,f(\mathbf{a}_n) \) も1次独立となります。

定理6 (行列と1次独立性)

\( A \) を \( n \) 次正方行列、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) を \( A \) の行ベクトル、 \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_n \) を \( A \) の列ベクトルとする。

このとき、次の3つは同値である。

(1) \( |A|\not=0 \)

(2) \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_n \) が1次独立である。

(3) \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n \) が1次独立である。

定理6の証明(気になる方だけクリックしてください)

((1)⇒(2)) \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_n \) が1次独立であることを示すために、

$$ c_1\mathbf{a}’_1+\cdots+c_n\mathbf{a}’_n=\mathbf{0} $$

とします。行列 \( A \) を

$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix} $$

として、左辺を計算すると、

$$ \begin{align} &c_1\mathbf{a}’_1+\cdots+c_n\mathbf{a}’_n=c_1\begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{n1} \end{pmatrix}+\cdots+c_n\begin{pmatrix} a_{1n} \\ a_{2n} \\ \vdots \\ a_{nn} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{n1} & a_{n2} & \dots & a_{nn} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix}=A\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix} \end{align} $$

したがって、

$$ A\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} $$

いま、 \( A \) は正則行列であるので、逆行列 \( A^{-1} \) を左からかけると、

$$ \begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} $$

となるので、 \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_n \) は1次独立となる。


((2)⇒(1)) 背理法で示します。 \( |A|\not=0 \) を仮定します。

$$ c_1\mathbf{a}’_1+\cdots+c_n\mathbf{a}’_n=\mathbf{0} $$

とすると、上と同じような計算により

$$ A\begin{pmatrix} c_1 \\ c_2 \\ \vdots \\ c_n \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} $$

となります。これは連立一次方程式であるので、 \( |A|=0 \) より非自明な解

$$ \begin{pmatrix} d_1 \\ d_2 \\ \vdots \\ d_n \end{pmatrix}\not=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix} $$

が存在します。

したがって、 \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_n \) は1次従属となり矛盾します。

よって、 \( |A|=0 \) となります。


((1)⇔(3)) 線形代数学続論04の定理7より \( |{}^tA|=|A| \) であるので、上の議論の \( A \) を \( {}^tA \) で置き換えればそのまま成り立ちます。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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