線形代数学続論05:ベクトル空間(線形空間)の定義と性質

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学続論からベクトル空間(線形空間)の定義と性質について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • ベクトル空間(線形空間)の定義と例について
  • 1次結合と部分(ベクトル)空間について
  • ベクトル空間上の線形写像について
目次

ベクトル空間(線形空間)の定義と例

ここでは、その数ベクトル空間に限らない一般のベクトル空間の定義を与えたいと思います。

線形代数学01では \( n \) 次元数ベクトルに対して、さまざまな性質を示しました。

それを踏まえて、ベクトルを定義してからその性質を見るのではなく、ベクトルに必要とされる性質そのものを定義とすることにより、一般のベクトル空間を定めることができます。

つまり、次のように定義します。

定義1 (ベクトル空間の定義)

集合 \( V \) に対して、和とスカラー倍の2つの演算が定義されているとする。つまり、

和: \( \mathbf{a},\mathbf{b}\in V \) に対して、 \( \mathbf{a}+\mathbf{b}\in V \) が定まる。

スカラー倍: \( \mathbf{a}\in V \) とスカラー \( k\in\mathbb{R} \) に対して、 \( k\mathbf{a}\in V \) が定まる。

このとき、任意の \( \mathbf{a},\mathbf{b},\mathbf{c}\in V \) とスカラー \( \lambda,\mu\in \mathbf{R} \) に対して、次の8つの性質をみたすとき、集合 \( V \) を \( \mathbb{R} \) 上のベクトル空間、もしくは実ベクトル空間という。

(1) \( \mathbf{a}+\mathbf{b}=\mathbf{b}+\mathbf{a} \)

(2) \( (\mathbf{a}+\mathbf{b})+\mathbf{c}=\mathbf{a}+(\mathbf{b}+\mathbf{c}) \)

(3) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) に対して、 \( \mathbf{a}+\mathbf{0}=\mathbf{a} \) となる \( \mathbf{0}\in V \) が存在する。

(4) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) に対して、 \( \mathbf{a}+\mathbf{a}’=\mathbf{0} \) となる \( \mathbf{a}’\in V \) が存在する。

(5) \( (\lambda\mu)\mathbf{a}=\lambda(\mu \mathbf{a}) \)

(6) \( (\lambda+\mu)\mathbf{a}=\lambda \mathbf{a}+\mu\mathbf{a} \)

(7) \( \lambda(\mathbf{a}+\mathbf{b})=\lambda\mathbf{a}+\mu\mathbf{a} \)

(8) \( 1\mathbf{a}=\mathbf{a} \)

ベクトル空間は線形空間ともよばれますが、このサイトではベクトル空間で統一します。

また、スカラーを実数 \( \mathbb{R} \) からでなく、複素数 \( \mathbb{C} \) からとることもできます。

その場合は \( V \) を \( \mathbb{C} \) 上のベクトル空間、もしくは複素ベクトル空間といいます。

スカラーをとくに意識しないときは、単にベクトル空間とよぶことにして、スカラーの属する集合を \( K \) で表します。

つまり、 \( K=\mathbb{R} \ もしくは \ \mathbb{C} \) とします。

それでは、ベクトル空間の性質を見ていきましょう。

定理1 (ベクトル空間の性質)

\( V \) をベクトル空間とする。

(1) 定義1(3)の \( \mathbf{0}\in V \) はただ一つ存在する。

(よって、この \( \mathbf{0}\in V \) のことをゼロベクトルという)


(2) 定義1(4)の \( \mathbf{a}’\in V \) は与えられた \( \mathbf{a}\in V \) に対してただ一つ存在する。

(よって、この \( \mathbf{a}’\in V \) のことを \( \mathbf{a} \) の逆ベクトルといい、 \( -\mathbf{a} \) と表す)


(3) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) に対して、 \( 0\mathbf{a}=\mathbf{0} \)

(つまり、 \( \mathbf{a} \) を \( 0 \) 倍すると、ゼロベクトルになる)


(4) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) に対して、 \( (-1)\mathbf{a}=-\mathbf{a} \)

(つまり、 \( \mathbf{a} \) を \( -1 \) 倍すると、 \( \mathbf{a} \) の逆ベクトルになる)


(5) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) に対して、 \( -(-\mathbf{a})=\mathbf{a} \)

(つまり、 \( \mathbf{a} \) の逆ベクトルの逆ベクトルはもとの \( \mathbf{a} \) となる)


(6) 任意のスカラー \( \lambda\in K \) に対して、 \( \lambda \mathbf{0}=\mathbf{0} \)

(つまり、ゼロベクトルを何倍してもゼロベクトルのままである)


(7) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) とスカラー \( \lambda\in K \) に対して、 \( \lambda \mathbf{a}=\mathbf{0} \) であれば、 \( \lambda=0 \) もしくは \( \mathbf{a}=\mathbf{0} \) である。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) 2つのゼロベクトル \( \mathbf{0},\mathbf{0}’\in V \) をとります。すると、

$$ \begin{align} \mathbf{0}&=\mathbf{0}+\mathbf{0}’ \quad (\mathbf{0}’は定義1(3)をみたす) \\ &=\mathbf{0}’+\mathbf{0} \quad (定義1(1)より) \\ &=\mathbf{0}’ \quad (\mathbf{0}は定義1(3)をみたす) \end{align} $$

よって、 \( \mathbf{0}\in V \) はただ一つ存在します。


(2) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) に対して、2つの逆ベクトル \( \mathbf{a}’,\mathbf{a}^{\prime\prime}\in V \) をとります。すると、

$$ \begin{align} \mathbf{a}’&=\mathbf{a}’+\mathbf{0} \quad (ゼロベクトルの定義) \\ &=\mathbf{a}’+(\mathbf{a}+\mathbf{a}^{\prime\prime}) \quad (\mathbf{a}^{\prime\prime}は\mathbf{a}の逆ベクトル) \\ &=(\mathbf{a}’+\mathbf{a})+\mathbf{a}^{\prime\prime} \quad (定義1(2)より) \\ &=(\mathbf{a}+\mathbf{a}’)+\mathbf{a}^{\prime\prime} \quad (定義1(1)より) \\ &=\mathbf{0}+\mathbf{a}^{\prime\prime} \quad (ゼロベクトルの定義) \\ &=\mathbf{a}^{\prime\prime}+\mathbf{0} \quad (定義1(1)より) \\ &=\mathbf{a}^{\prime\prime} \quad (ゼロベクトルの定義) \end{align} $$

よって、 \( \mathbf{a}’\in V \) はただ一つ存在します。


(3) 定義1(6)より、

$$ 0\mathbf{a}=(0+0)\mathbf{a}=0\mathbf{a}+0\mathbf{a} $$

したがって、最両辺に \( 0\mathbf{a} \) の逆ベクトル \( -(0\mathbf{a}) \) を足してあげると、

$$ \mathbf{0}=0\mathbf{a} $$


(4) 定義1(6)と定理1(3)より、

$$ \mathbf{a}+(-1)\mathbf{a}=(1+(-1))\mathbf{a}=0\mathbf{a}=\mathbf{0} $$

したがって、逆ベクトルの定義より、

$$ -\mathbf{a}=(-1)\mathbf{a} $$


(5) 任意の \( \mathbf{a}\in V \) に対して、

$$ \begin{align} -(-\mathbf{a})&=-((-1)\mathbf{a}) \quad(定理1(4)より) \\ &=(-1)((-1)\mathbf{a}) \quad(定理1(4)より) \\ &=((-1)\cdot(-1))\mathbf{a} \quad(定義1(5)より) \\ &=1\mathbf{a}=\mathbf{a} \quad(定義1(8)より) \end{align} $$


(6) ゼロベクトルの定義と定義1(7)より、

$$ \lambda\mathbf{0}=\lambda(\mathbf{0}+\mathbf{0})=\lambda\mathbf{0}+\lambda\mathbf{0} $$

したがって、最両辺に \( \lambda\mathbf{0} \) の逆ベクトル \( -(\lambda\mathbf{0}) \) を足してあげると、

$$ \mathbf{0}=\lambda\mathbf{0} $$


(7) 背理法で示します。つまり、次を仮定します。

$$ \lambda\not=0 \ かつ \ \mathbf{a}\not=\mathbf{0} $$

このとき、定理の仮定 \( \lambda\mathbf{a}=\mathbf{0} \) と定理1(6)より、

$$ \frac{1}{\lambda}(\lambda\mathbf{a})=\frac{1}{\lambda}\mathbf{0}=\mathbf{0} $$

一方で、定義1(5)と定義1(8)より、

$$ \frac{1}{\lambda}(\lambda\mathbf{a})=\left( \frac{1}{\lambda}\lambda \right)\mathbf{a}=1\mathbf{a}=\mathbf{a} $$

よって、まとめると、

$$ \mathbf{a}=\mathbf{0} $$

となるが、これは \( \mathbf{a}\not=\mathbf{0} \) に矛盾します。

したがって、 \( \lambda \mathbf{a}=\mathbf{0} \) であれば、 \( \lambda=0 \) もしくは \( \mathbf{a}=\mathbf{0} \) となります。

例1

(1) \( n \) 次元実数ベクトル空間 \( \mathbb{R}^n \) や \( n \) 次元複素数ベクトル空間 \( \mathbb{C}^n \) はベクトル空間である。


(2) \( m\times n \) 行列全体の集合は行列の和とスカラー倍によって、ベクトル空間となる。

1次結合と部分(ベクトル)空間

1次結合

今後よく用いる1次結合について定義しておきます。

定義2 (1次結合)

ベクトル空間 \( V \) の元 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) とスカラー \( c_1,c_2,\cdots,c_n\in K \) に対して、

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+\cdots+c_n\mathbf{a}_n $$

をベクトル \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\cdots,\mathbf{a}_n \) の1次結合という。

例2

(1) \( n \) 次元実ベクトル空間 \( \mathbb{R}^n \) の標準基底

$$ \mathbf{e}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_2=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \cdots, \quad \mathbf{e}_n=\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ \vdots \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$

とおくと、任意の \( \mathbf{x}\in \mathbb{R}^n \) は

$$ \begin{align} \mathbf{x}&=\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} x_1 \\ 0 \\ \vdots \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} 0 \\ x_2 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\cdots+\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ \vdots \\ 0 \\ x_n \end{pmatrix} \\ &=x_1\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+x_2\begin{pmatrix} 0 \\ 2 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\cdots+x_n\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ \vdots \\ 0 \\ n \end{pmatrix} \\ &=x_1\mathbf{e}_1+x_2\mathbf{e}_2+\cdots+x_n\mathbf{e}_n \end{align} $$

というように、 \( \mathbb{R}^n \) の標準基底の1次結合で表現できる。


(2) 標準基底でなくとも、1次結合は作れる。例えば、

$$ \mathbf{x}=\begin{pmatrix} 6 \\ 7 \\ -3 \end{pmatrix} $$

$$ \mathbf{a}_1=\begin{pmatrix} 3 \\ 1 \\ -2 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_2=\begin{pmatrix} 2 \\ 4 \\ 1 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{a}_3=\begin{pmatrix} -2 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} $$

の1次結合で表すと、次のようになる。

$$ \begin{align} \mathbf{x}&=\begin{pmatrix} 6 \\ 7 \\ -3 \end{pmatrix}=2\begin{pmatrix} 3 \\ 1 \\ -2 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} 2 \\ 4 \\ 1 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} -2 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} \\ &=2\mathbf{a}_1+\mathbf{a}_2+\mathbf{a}_3 \end{align} $$

部分(ベクトル)空間

ベクトル空間 \( V \) に対して、その部分集合 \( W\subset V \) がベクトル空間であるかについて考えます。

定義3 (部分(ベクトル)空間)

ベクトル空間 \( V \) の空でない部分集合 \( W\subset V \) が \( V \) に定まっている和とスカラー倍をもとにして、 \( W \) もベクトル空間となるとき、 \( W \) を \( V \) の部分空間、または部分ベクトル空間という。

\( \mathbf{a},\mathbf{b} \in W \) をとると \( \mathbf{a},\mathbf{b}\in V \) でもあるので、 \( V \) の和とスカラー倍により \( \mathbf{a}+\mathbf{b} \) や \( \lambda\mathbf{a} \) を定めることができます。ただし、 \( \mathbf{a}+\mathbf{b},\lambda\mathbf{a}\in W \) となるとは限りません。(もちろん \( V \) には入ります) もし、 \( \mathbf{a}+\mathbf{b},\lambda\mathbf{a}\in W \) となって、その和とスカラー倍においてベクトル空間となるとき、部分空間であるというわけです。

では、どのようなときに、 \( W \) が \( V \) の部分空間となるのでしょうか。

定理2 (部分空間の条件)

ベクトル空間 \( V \) の空でない部分集合 \( W \) が部分空間であるための必要十分条件は、次の2条件をみたすことである。

(1) 任意の \( \mathbf{a},\mathbf{b} \in W \) に対して、 \( \mathbf{a}+\mathbf{b}\in W \)

(2) 任意の \( \mathbf{a}\in W \) とスカラー \( \lambda\in K \) に対して、 \( \lambda\mathbf{a}\in W \)

(1)と(2)をあわせて、次が成り立つとしても定理2は成り立ちます。任意の \( \mathbf{a},\mathbf{b}\in W \) とスカラー \( \lambda,\mu\in K \) に対して、 \( \lambda\mathbf{a}+\mu\mathbf{b}\in W \)

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

部分空間であれば(1)と(2)をみたすことは、部分空間の定義よりわかります。

( \( W \) に \( V \) の和とスカラー倍が定まっているということは、(1),(2)をみたすということです)

よって、(1)と(2)をみたすときに、部分空間になることを示します。

(1)と(2)をみたすということは、 \( W \) に \( V \) の和とスカラー倍が定まっていることになるので、あとは \( W \) がベクトル空間の公理(定義1の(1)から(8))をみたすことを示せばよいです。

定義1の(1),(2),(5),(6),(7),(8)に関しては、もともとの \( V \) で成り立っているので、 \( W \) においても成り立ちます。

よって、定義1の(3),(4)であるゼロベクトル \( \mathbf{0}\in \color{red}{W} \) と、 \( \mathbf{a}\in W \) の逆ベクトル \( -\mathbf{a}\in \color{red}{W} \) の存在を示します。

( \( V \) がベクトル空間なので、 \( \mathbf{0}\in V \) 、 \( -\mathbf{a}\in V \) では存在しますが、 \( W\subset V \) の中に存在するかはわかりません)

任意に \( \mathbf{a}\in W \) をとります。(ここで、 \( W \) が空でないことを用いています)

このとき、定理の仮定(2)より \( 0\mathbf{a}\in W \)

また、 \( V \) がベクトル空間であるので定理1(3)より \( 0\mathbf{a}=\mathbf{0} \) となります。

( \( \mathbf{a}\in W \subset V \) より、 \( V \) に対する定理1(3)を用いています)

よって、まとめると \( \mathbf{0}\in W \) となります。

次に、定理の仮定(2)より \( (-1)\mathbf{a}\in W \)

また、 \( V \) がベクトル空間であるので定理1(4)より \( (-1)\mathbf{a}=-\mathbf{a} \) となります。

( \( \mathbf{a}\in W \subset V \) より、 \( V \) に対する定理1(4)を用いています)

よって、まとめると \( -\mathbf{a}\in W \) となります。

したがって、 \( W \) 上でベクトル空間の公理をすべて満たすので \( W \) は部分空間となります。

例3

(1) ベクトル空間 \( V \) に対して、 \( V \) 自身と \( V \) のゼロベクトル \( \mathbf{0} \) のみからなる集合 \( \{ \mathbf{0} \} \) は \( V \) の部分空間である。


(2) \( m\times n \) 行列 \( A \) に対して、

$$ W=\{ \mathbf{x}\in \mathbb{R}^n \ | \ A\mathbf{x}=\mathbf{0} \} $$

は \( \mathbf{R}^n \) の部分空間である。

ベクトル空間 \( V \) に対して、 \( V \) の部分空間 \( W \) を構成する方法を紹介します。

定理3 (生成される部分空間)

\( V \) をベクトル空間とし、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \in V \) とする。

このとき、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) の1次結合全体の集合、つまり、

$$ W=\{ x_1\mathbf{a}_1+\cdots+x_r\mathbf{a}_r \ | \ x_i\in K, \ i=1,\cdots,r \} $$

は \( V \) の部分空間となる。

この \( W \) を \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) によって生成される部分空間、または張られる部分空間といい、 \( S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r] \) と表す。

また、 \( \mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_r \) を \( W \) の生成系という。

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

まず、 \( \mathbf{a}_i\in W \) より、 \( W \) は空ではないことに注意してください。

任意に \( \mathbf{x},\mathbf{y}\in W \) をとると、次のように表されます。

$$ \mathbf{x}=x_1\mathbf{a}_1+\cdots+x_r\mathbf{a}_r, \quad \mathbf{y}=y_1\mathbf{a}_1+\cdots+y_r\mathbf{a}_r $$

このとき、定理2の(1)と(2)をみたすことを示します。

(1) $$ \begin{align} \mathbf{x}+\mathbf{y}&=(x_1\mathbf{a}_1+\cdots+x_r\mathbf{a}_r)+(y_1\mathbf{a}_1+\cdots+y_r\mathbf{a}_r) \\ &=(x_1+y_1)\mathbf{a}_1+\cdots+(x_r+y_r)\mathbf{a}_r\in W \end{align} $$

(2) $$ \begin{align} \lambda\mathbf{x}&=\lambda(x_1\mathbf{a}_1+\cdots+x_r\mathbf{a}_r) \\ &=(\lambda x_1)\mathbf{a}_1+\cdots+(\lambda x_r)\mathbf{a}_r\in W \end{align} $$

したがって、 \( W \) は \( V \) の部分空間となります。

例4

ベクトル空間 \( V \) を次のように定める。

$$ V=\{ a_0+a_1x+a_2x^2+a_2x^2+a_3x^3 \ | \ a_0,a_1,a_2,a_3\in \mathbb{R} \} $$

このとき、部分空間 \( W \) として

$$ W=\{ a(x-x^3)+b(x^2-x^3) \ | \ a,b\in\mathbb{R} \} $$

とおくと、これは \( x-x^3 \) と \( x^2-x^3 \) から生成される部分空間である。つまり、

$$ W=S[x-x^3,x^2-x^3] $$

ベクトル空間上の線形写像

線形写像の定義と像空間・核空間

まず、一般のベクトル空間に対する線形写像を定義します。

ただし、定義自体は数ベクトル空間の間の線形写像と変わりません。

定義4 (線形写像)

\( V,W \) をベクトル空間とする。

このとき、写像 \( f:V\to W \) が線形写像であるとは、任意の \( \mathbf{a}, \mathbf{b}\in V \) とスカラー \( k\in K \) に対して、次の2つをみたすことをいう。

(1) $$ f(\mathbf{a}+\mathbf{b})=f(\mathbf{a})+f(\mathbf{b}) $$

(2) $$ f(k\mathbf{a})=kf(\mathbf{a}) $$

また、線形写像の性質も線形代数学続論02で紹介したものと変わりません。

定理4 (線形写像の性質)

\( V,W,X \) をベクトル空間とする。

(1) 線形写像 \( f:V\to W \) は \( V \) のゼロベクトルを \( W \) のゼロベクトルに移す。つまり、

$$ f(\mathbf{0})=\mathbf{0} $$


(2) \( f:V\to W \) が線形写像ならば、次が成り立つ。

\( V \) 上のベクトル \( \mathbf{x}_1,\cdots\mathbf{x}_k \) とスカラー \( a_1,\cdots a_k \) に対して、

$$ f(a_1\mathbf{x}_1+a_2\mathbf{x}_2+\cdots+a_k\mathbf{x}_k)=a_1f(\mathbf{x}_1)+a_2f(\mathbf{x}_2)+\cdots+a_kf(\mathbf{x}_k) $$


(3) 2つの線形写像

$$ f:V\to W, \quad g:W\to X $$

に対して、その合成写像

$$ g\circ f:V\to X $$

も線形写像である。

ここで、線形写像の像空間と核空間を定義します。

定義5 (線形写像の像空間と核空間)

\( V,W \) をベクトル空間、 \( f:V\to W \) を線形写像とする。

このとき、 \( f \) の像空間 \( \text{Im} \ f \) を次で定める。

$$ \text{Im} \ f=\{ f(\mathbf{x}) \ | \ \mathbf{x}\in V \} \ (\subset W) $$

また、 \( f \) の核空間 \( \text{Ker} \ f \) を次で定める。

$$ \text{Ker} \ f=\{ \mathbf{x}\in V \ | \ f(\mathbf{x})=\mathbf{0} \} \ (\subset V) $$

像空間と核空間には、次の重要な性質が得られます。

定理5 (像空間と核空間は部分空間)

\( V,W \) をベクトル空間、 \( f:V\to W \) を線形写像とする。

(1) \( f \) の像空間 \( \text{Im} \ f \) は \( W \) の部分空間である。

(2) \( f \) の核空間 \( \text{Ker} \ f \) は \( V \) の部分空間である。

定理5の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) まず、定理4(1)より \( \mathbf{0}\in \text{Im} \ f \) であるので、 \( \text{Im} \ f \) は空ではないことに注意してください。

任意に \( \mathbf{y}_1,\mathbf{y}_2\in \text{Im} \ f \) をとると、

$$ \mathbf{y}_1=f(\mathbf{x}_1), \quad \mathbf{y}_2=f(\mathbf{x}_2) $$

となる \( \mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2\in V \) が存在します。

このとき、定理2の(1)と(2)をみたすことを示します。

(1) \( f \) は線形写像なので、

$$ \mathbf{y}_1+\mathbf{y}_2=f(\mathbf{x}_1)+f(\mathbf{x}_2)=f(\mathbf{x}_1+\mathbf{x}_2)\in \text{Im} \ f $$

(2) \( f \) は線形写像なので、

$$ \lambda\mathbf{y}_1=\lambda f(\mathbf{x}_1)=f(\lambda\mathbf{x}_1)\in \text{Im} \ f $$

したがって、 \( \text{Im} \ f \) は \( W \) の部分空間となります。


(2) まず、定理4(1)より \( \mathbf{0}\in \text{Ker} \ f \) であるので、 \( \text{Ker} \ f \) は空ではないことに注意してください。

任意の \( \mathbf{x}_1,\mathbf{x}_2\in \text{Ker} \ f \) に対して、定理2の(1)と(2)をみたすことを示します。

(1) \( f \) は線形写像なので、

$$ f(\mathbf{x}_1+\mathbf{x}_2)=f(\mathbf{x}_1)+f(\mathbf{x}_2)=\mathbf{0}+\mathbf{0}=\mathbf{0} $$

よって、

$$ \mathbf{x}_1+\mathbf{x}_2\in \text{Ker} \ f $$

(2) \( f \) は線形写像なので、

$$ f(\lambda\mathbf{x}_1)=\lambda f(\mathbf{x}_1)=\lambda\mathbf{0}=\mathbf{0} $$

よって、

$$ \lambda\mathbf{x}_1\in \text{Ker} \ f $$

したがって、 \( \text{Ker} \ f \) は \( V \) の部分空間となります。

例5

線形写像 \( f:\mathbb{R}^4 \to \mathbb{R}^3 \) を次で定める。

$$ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \\ w \end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix} z+w \\ x+w \\ x-z \end{pmatrix} $$

このとき、 \( \text{Im} \ f, \ \text{Ker} \ f \) を求める。まず、

$$ \text{Im} \ f=\left\{ \begin{pmatrix} z+w \\ x+w \\ x-z \end{pmatrix}\in \mathbb{R}^3 \ \left|\right. \ x,z,w\in\mathbb{R} \right\} \ (\subset \mathbb{R}^3) $$

であるが、 \( \text{Im} \ f \) の元を変形してみると、

$$ \begin{align} \begin{pmatrix} z+w \\ x+w \\ x-z \end{pmatrix}&=x\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}+y\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix}+w\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 0 \end{pmatrix} \\ &=x\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}+y\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix}+w\left\{ \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix} \right\} \\ &=(x+w)\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix}+(z+w)\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix} \end{align} $$

\( x,z,w\in\mathbb{R} \) は任意であるので、

$$ \text{Im} \ f=S\left[ \begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ -1 \end{pmatrix} \right] $$

次に、

$$ \text{Ker} \ f=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \\ w \end{pmatrix}\in \mathbb{R}^4 \ | \ \begin{pmatrix} z+w \\ x+w \\ x-z \end{pmatrix}=\mathbf{0} \right\} \ (\subset \mathbb{R}^4) $$

であるが、まず条件

$$ \begin{pmatrix} z+w \\ x+w \\ x-z \end{pmatrix}=\mathbf{0} $$

より、

$$ z=x, \quad w=-x $$

となるので、 \( \text{Ker} \ f \) は次のように表される。

$$ \text{Ker} \ f=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ x \\ -x \end{pmatrix}\in \mathbb{R}^4 \ | \ x,y\in \mathbb{R} \right\} \ (\subset \mathbb{R}^4) $$

ここで、 \( \text{Ker} \ f \) の元を変形してみると、

$$ \begin{pmatrix} x \\ y \\ x \\ -x \end{pmatrix}=x\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix}+y\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$

\( x,y\in\mathbb{R} \) は任意であるので、

$$ \text{Ker} \ f=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ 1 \\ -1 \end{pmatrix},\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right] $$

最後に、線形写像の単射性に関する重要な定理を紹介します。

定理6 (線形写像の単射性の必要十分条件)

\( V,W \) をベクトル空間、 \( f:V\to W \) を線形写像とする。このとき、

$$ fが単射 \ \iff \text{Ker} \ f=\{\mathbf{0} \} $$

定理6の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( (\Rightarrow) \) \( f \) は単射なので、 \( \mathbf{x}\not=\mathbf{0} \) ならば

$$ f(\mathbf{x})\not=f(\mathbf{0})=\mathbf{0} $$

したがって、 \( \text{Ker} \ f=\{\mathbf{0}\} \)


\( (\Leftarrow) \) 任意の \( \mathbf{x},\mathbf{y}\in V \) に対して、 \( f(\mathbf{x})=f(\mathbf{y}) \) であると仮定します。

よって、

$$ f(\mathbf{x})-f(\mathbf{y})=\mathbf{0} $$

であり、 \( f \) の線形性より、

$$ f(\mathbf{x}-\mathbf{y})=\mathbf{0} $$

ここで、 \( \text{Ker} \ f=\{\mathbf{0} \} \) であるので、

$$ \mathbf{x}-\mathbf{y}=\mathbf{0} $$

したがって、 \( \mathbf{x}=\mathbf{y} \) であるので、 \( f \) は単射となります。

例6

(1) 線形写像 \( f:\mathbb{R}^2 \to \mathbb{R}^3 \) を次で定める。

$$ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix} x+y \\ x-y \\ 2x-3y \end{pmatrix} $$

この写像の単射性を見るために、 \( \text{Ker} \ f \) を考える。

$$ \text{Ker} \ f=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \end{pmatrix}\in \mathbb{R}^2 \ | \ \begin{pmatrix} x+y \\ x-y \\ 2x-3y \end{pmatrix}=\mathbf{0} \right\} \ (\subset \mathbb{R}^2) $$

であるが、まず条件

$$ \begin{pmatrix} x+y \\ x-y \\ 2x-3y \end{pmatrix}=\mathbf{0} $$

より、

$$ x=0, \quad y=0 $$

となるので、 \( \text{Ker} \ f \) は次のように表される。

$$ \text{Ker} \ f=\left\{ \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \right\}=\{\mathbf{0} \} $$

したがって、定理6より \( f \) は単射である。


(2) 線形写像 \( f:\mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^2 \) を次で定める。

$$ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix} x-y \\ x-2y+z \end{pmatrix} $$

この写像の単射性を見るために、 \( \text{Ker} \ f \) を考える。

$$ \text{Ker} \ f=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix}\in \mathbb{R}^3 \ | \ \begin{pmatrix} x-y \\ x-2y+z \end{pmatrix}=\mathbf{0} \right\} \ (\subset \mathbb{R}^3) $$

であるが、まず条件

$$ \begin{pmatrix} x-y \\ x-2y+z \end{pmatrix}=\mathbf{0} $$

より、

$$ y=x, \quad z=x $$

となるので、 \( \text{Ker} \ f \) は次のように表される。

$$ \text{Ker} \ f=\left\{ \begin{pmatrix} x \\ x \\ x \end{pmatrix}\in \mathbb{R}^3 \ | \ x\in \mathbb{R} \right\} \ (\subset \mathbb{R}^3) $$

ここで、 \( \text{Ker} \ f \) の元を変形してみると、

$$ \begin{pmatrix} x \\ x \\ x \end{pmatrix}=x\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix} $$

\( x\in\mathbb{R} \) は任意であるので、

$$ \text{Ker} \ f=S\left[ \begin{pmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \end{pmatrix} \right]\not=\{ \mathbf{0} \} $$

したがって、定理6より \( f \) は単射ではない。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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