こんにちは、ひかりです。
今回は線形代数学続論から線形写像の定義と行列との関係について解説していきます。
この記事では以下のことを紹介します。
- 数ベクトル空間の間の線形写像の定義と性質について
- 線形写像の行列表現について
- 線形写像の合成と行列の積との関係について
数ベクトル空間の間の線形写像の定義と性質
まず、数ベクトル空間の間の線形写像について定義していきたいと思います。
写像 \( f:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^m \) が線形写像であるとは、 \( \mathbb{R}^n \) 上のベクトル \( \mathbf{a}, \mathbf{b} \) とスカラー \( k \) に対して、次の2つをみたすことをいう。
(1) $$ f(\mathbf{a}+\mathbf{b})=f(\mathbf{a})+f(\mathbf{b}) $$
(2) $$ f(k\mathbf{a})=kf(\mathbf{a}) $$
(1) 次の \( \mathbb{R} \) から \( \mathbb{R} \) への写像を考える。
$$ f(x)=ax $$
これは線形写像である。なぜなら、
$$ f(x_1+x_2)=a(x_1+x_2)=ax_1+ax_2=f(x_1)+f(x_2) $$
$$ f(kx_1)=a(kx_1)=k(ax_1)=kf(x_1) $$
(2) 次の \( \mathbb{R} \) から \( \mathbb{R} \) への写像を考える。
$$ f(x)=ax+b, \quad (b\not=0) $$
これは線形写像ではない。なぜなら、
$$ \begin{align} f(x_1+x_2)&=a(x_1+x_2)+b=ax_1+ax_2+b \\ &=(ax_1+b)+(ax_1+b)-b=f(x_1)+f(x_2)-b\not=f(x_1)+f(x_2) \end{align} $$
(3) 次の \( \mathbb{R} \) から \( \mathbb{R} \) への写像を考える。
$$ f(x)=x^2 $$
これは線形写像ではない。なぜなら、 \( x_1,x_2\not=0 \) とすると、
$$ \begin{align} f(x_1+x_2)&=(x_1+x_2)^2=x_1^2+x_2^2+2x_1x_2 \\ &=f(x_1)+f(x_2)+2x_1x_2\not=f(x_1)+f(x_2) \end{align} $$
(4) 次の \( \mathbb{R}^2 \) から \( \mathbb{R}^3 \) への写像を考える。
$$ f\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2x_1 \\ x_1-x_2 \\ 3x_1+5x_2 \end{pmatrix} $$
これは線形写像である。なぜなら、
$$ \begin{align} &f\begin{pmatrix} \begin{pmatrix}x_1 \\ x_2\end{pmatrix}+\begin{pmatrix} y_1 \\ y_2 \end{pmatrix} \end{pmatrix}=f\begin{pmatrix} x_1+y_1 \\ x_2+y_2 \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} 2(x_1+y_1) \\ (x_1+y_1)-(x_2+y_2) \\ 3(x_1+y_1)+5(x_2+y_2) \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2x_1+2y_1 \\ (x_1-x_2)+(y_1-y_2) \\ (3x_1+5x_2)+(3y_1+5y_2) \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} 2x_1 \\ x_1-x_2 \\ 3x_1+5x_2 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} 2y_1 \\ y_1-y_2 \\ 3y_1+5y_2 \end{pmatrix}=f\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}+f\begin{pmatrix} y_1 \\ y_2 \end{pmatrix} \end{align} $$
$$ \begin{align} &f\begin{pmatrix} k\begin{pmatrix}x_1 \\ x_2\end{pmatrix}\end{pmatrix}=f\begin{pmatrix} kx_1 \\ kx_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2(kx_1) \\ (kx_1)-(kx_2) \\ 3(kx_1)+5(kx_2) \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} k(2x_1) \\ k(x_1-x_2) \\ k(3x_1+5x_2) \end{pmatrix}=k\begin{pmatrix} 2x_1 \\ x_1-x_2 \\ 3x_1+5x_2 \end{pmatrix}=kf\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} \end{align} $$
線形写像の性質についていくつか紹介します。
(1) 線形写像 \( f:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^m \) は \( \mathbb{R}^n \) のゼロベクトルを \( \mathbb{R}^m \) のゼロベクトルに移す。つまり、
$$ f(\mathbf{0})=\mathbf{0} $$
(2) \( f:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^m \) が線形写像ならば、次が成り立つ。
\( \mathbb{R}^n \) 上のベクトル \( \mathbf{x}_1,\cdots\mathbf{x}_k \) とスカラー \( a_1,\cdots a_k \) に対して、
$$ f(a_1\mathbf{x}_1+a_2\mathbf{x}_2+\cdots+a_k\mathbf{x}_k)=a_1f(\mathbf{x}_1)+a_2f(\mathbf{x}_2)+\cdots+a_kf(\mathbf{x}_k) $$
(3) 2つの線形写像
$$ f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m, \quad g:\mathbb{R}^m\to\mathbb{R}^{\ell} $$
に対して、その合成写像
$$ g\circ f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^{\ell} $$
も線形写像である。
定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)
(1)
$$ \begin{align} f(\mathbf{0})&=f(0\cdot \mathbf{0}) \quad (ゼロベクトルなので、スカラー0を前に出せる) \\ &=0f(\mathbf{0}) \quad (線形写像の定義\text{(ii)}より) \\ &=\mathbf{0} \quad (f(\mathbf{0})\in\mathbb{R}^m) \end{align} $$
(初めの3つのゼロベクトルは \( \mathbb{R}^n \) 上のゼロベクトルであり、最後のゼロベクトルは \( \mathbb{R}^m \) 上のゼロベクトルであることに注意)
(2)
$$ \begin{align} &f(a_1\mathbf{x}_1+a_2\mathbf{x}_2+\cdots+a_k\mathbf{x}_k) \\ &=f(a_1\mathbf{x}_1)+f(a_2\mathbf{x}_2)+\cdots+f(a_k\mathbf{x}_k) \quad (線形写像の定義\text{(i)}をくり返し用いる) \\ &=a_1f(\mathbf{x}_1)+a_2f(\mathbf{x}_2)+\cdots +a_kf(\mathbf{x}_k) \quad (各項に線形写像の定義\text{(ii)}を用いる) \end{align} $$
(3) 線形写像の定義の(i),(ii)を見ていきます。 \( \mathbb{R}^n \) 上のベクトル \( \mathbf{a}, \mathbf{b} \) とスカラー \( k \) に対して、
$$ \begin{align} g\circ f(\mathbf{a}+\mathbf{b})&=g(f(\mathbf{a}+\mathbf{b}))=g(f(\mathbf{a})+f(\mathbf{b})) \quad (fの線形性) \\ &=g(f(\mathbf{a}))+g(f(\mathbf{b})) \quad (gの線形性) \\ &=g\circ f(\mathbf{a})+g\circ f(\mathbf{b}) \end{align} $$
$$ \begin{align} g\circ f(k\mathbf{a})&=g(f(k\mathbf{a}))=g(kf(\mathbf{a})) \quad (fの線形性) \\ &=k(g(f(\mathbf{a})) \quad (gの線形性) \\ &=k(g\circ f)(\mathbf{a}) \end{align} $$
よって、 \( g\circ f \) も線形写像となります。
線形写像と行列との関係
「線形代数学」シリーズで扱ってきた行列と線形写像との間には、密接な関係があります。
今回は、数ベクトル空間の間の線形写像に関して、それらの関係性について見ていきたいと思います。
線形写像の行列による表現
まずは、数ベクトル空間の間の線形写像が行列によって表現できることを見ていきます。
そのために、 \( n \) 次元数ベクトル空間 \( \mathbb{R}^n \) の標準基底を定義します。
\( \mathbb{R}^n \) のベクトルの中で次のようなベクトルを考える。
$$ \mathbf{e}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}, \ \mathbf{e}_2=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}, \ \cdots, \ \mathbf{e}_n=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1 \end{pmatrix} $$
つまり、各 \( j \) に対して、 \( j \) 番目の成分が \( 1 \) でそれ以外の成分が \( 0 \) のベクトルが \( \mathbf{e}_j \) である。
このとき、 \( n \) 個のベクトルの組
$$ (\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_n) $$
を \( \mathbb{R}^n \) の標準基底という。
では、線形写像 \( f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m \) を考えましょう。
このとき、 \( \mathbb{R}^n \) の標準基底
$$ (\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_n) $$
をそれぞれ \( f \) で移した \( \mathbb{R}^m \) 上のベクトルを
$$ f(\mathbf{e}_1)=\begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{m1} \end{pmatrix}, \quad f(\mathbf{e}_2)=\begin{pmatrix} a_{12} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{m2} \end{pmatrix}, \quad \cdots, \quad f(\mathbf{e}_n)=\begin{pmatrix} a_{1n} \\ a_{2n} \\ \vdots \\ a_{mn} \end{pmatrix} $$
とおきます。
今度は、 \( \mathbb{R}^n \) の任意のベクトル \( \mathbf{x} \) を次のように表します。
$$ \mathbf{x}=\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} $$
このベクトル \( \mathbf{x} \) は \( \mathbb{R}^n \) の標準基底
$$ (\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_m) $$
を用いると、次のように書き表せます。
$$ \begin{align} \mathbf{x}&=\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} x_1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} 0 \\ x_2 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\cdots+\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \\ &=x_1\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+x_2\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}+\cdots+x_n\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ \vdots \\ 1 \end{pmatrix} \\ &=x_1\mathbf{e}_1+x_2\mathbf{e}_2+\cdots+x_n\mathbf{e}_n \end{align} \tag{1} $$
したがって、
$$ \begin{align} f(\mathbf{x})&=f(x_1\mathbf{e}_1+x_2\mathbf{e}_2+\cdots+x_n\mathbf{e}_n) \\ &=x_1f(\mathbf{e}_1)+x_2f(\mathbf{e}_2)+\cdots+x_nf(\mathbf{e}_n) \quad (fの線形性より) \\ &=x_1\begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{m1} \end{pmatrix}+x_2\begin{pmatrix} a_{12} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{m2} \end{pmatrix}+\cdots+x_n\begin{pmatrix} a_{1n} \\ a_{2n} \\ \vdots \\ a_{mn} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} x_1a_{11}+x_2a_{12}+\cdots+x_na_{1n} \\ x_1a_{21}+x_2a_{22}+\cdots+x_na_{2n} \\ \vdots \\ x_1a_{m1}+x_2a_{m2}+\cdots+x_na_{mn} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix} \end{align} $$
と表すことができます。よって、行列 \( A \) を
$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix} $$
と定めると、
$$ f(\mathbf{x})=A\mathbf{x} $$
まとめると、
\( \mathbb{R}^n \) の標準基底を \( (\mathbf{e}_1,\mathbf{e}_2,\cdots,\mathbf{e}_m) \) とする。
線形写像 \( f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m \) に対して、
$$ f(\mathbf{e}_1)=\begin{pmatrix} a_{11} \\ a_{21} \\ \vdots \\ a_{m1} \end{pmatrix}, \quad f(\mathbf{e}_2)=\begin{pmatrix} a_{12} \\ a_{22} \\ \vdots \\ a_{m2} \end{pmatrix}, \quad \cdots, \quad f(\mathbf{e}_n)=\begin{pmatrix} a_{1n} \\ a_{2n} \\ \vdots \\ a_{mn} \end{pmatrix} $$
によって、行列
$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \cdots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \cdots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \cdots & a_{mn} \end{pmatrix} $$
が定まり、任意の \( \mathbf{x}\in\mathbb{R}^n \) に対して、
$$ f(\mathbf{x})=A\mathbf{x} $$
が成り立つ。
例1(4)の \( \mathbb{R}^2 \) から \( \mathbb{R}^3 \) への線形写像を考える。
$$ f\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2x_1 \\ x_1-x_2 \\ 3x_1+5x_2 \end{pmatrix} $$
\( \mathbb{R}^2 \) の標準基底は
$$ \mathbf{e}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \mathbf{e}_2=\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$
これらを \( f \) で移すと、
$$ f(\mathbf{e}_1)=\begin{pmatrix} 2\times 1 \\ 1-0 \\ 3\times 1+5 \times 0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2 \\ 1 \\ 3 \end{pmatrix}, \quad f(\mathbf{e}_2)=\begin{pmatrix} 2\times 0 \\ 0-1 \\ 3\times 0+5 \times 1 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ -1 \\ 5 \end{pmatrix} $$
これにより、行列
$$ A=\begin{pmatrix} 2 & 0 \\ 1 & -1 \\ 3 & 5 \end{pmatrix} $$
が定まり、
$$ f(\mathbf{x})=A\mathbf{x}=\begin{pmatrix} 2 & 0 \\ 1 & -1 \\ 3 & 5 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} $$
行列の線形写像による表現
逆に、行列 \( A \) を与えたときに、線形写像が1つ定まることを見ていきましょう。
\( m\times n \) 行列 \( A \) を1つ与えます。
このとき、写像
$$ f_A:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^m $$
を次のように定めます。
$$ \mathbf{x}\in\mathbb{R}^n \ に対して、 \ f_A(\mathbf{x})=A\mathbf{x} $$
このとき、 \( f_A \) が線形写像となることを示しましょう。
\( \mathbb{R}^n \) の任意のベクトル \( \mathbf{x},\mathbf{y} \) とスカラー \( k \) に対して、
$$ f_A(\mathbf{x}+\mathbf{y})=A(\mathbf{x}+\mathbf{y})=A\mathbf{x}+A\mathbf{y}=f_A(\mathbf{x})+f_A(\mathbf{y}) $$
$$ f_A(k\mathbf{x})=A(k\mathbf{x})=k(A\mathbf{x})=kf_A(\mathbf{x}) $$
よって、 \( f_A \) は線形写像となります。まとめると、
任意の \( m\times n \) 行列 \( A \) が与えられたとき、
$$ f_A(\mathbf{x})=A\mathbf{x}, \quad (\mathbf{x}\in\mathbb{R}^n) $$
によって、線形写像 \( f_A:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m \) が定まる。
\( 2\times 3 \) 行列 \( A \) を次で与える。
$$ A=\begin{pmatrix} 3 & -1 & 0 \\ 1 & 2 & -3 \end{pmatrix} $$
このとき、定理3より線形写像 \( f_A:\mathbb{R}^3\to\mathbb{R}^2 \) が次のように定まる。
$$ \begin{align} f_A\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix}&=A\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 3 & -1 & 0 \\ 1 & 2 & -3 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \\ x_3 \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} 3x_1-x_2 \\ x_1+2x_2-3x_3 \end{pmatrix} \end{align} $$
よって、定理2と定理3より、線形写像 \( f:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^m \) と \( m\times n \) 行列 \( A \) は1対1に対応します。
線形写像の合成と行列の積との関係
定理1の(3)で2つの線形写像の合成も線形写像であることを紹介しました。
ではその線形写像の行列表現はどのようになるのでしょうか。
それを与えたのが次の定理になります。
2つの線形写像
$$ f:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}^m, \quad g:\mathbb{R}^m\to \mathbb{R}^{\ell} $$
に対して、それぞれに対応する行列を \( A,B \) とする。
また、それらの合成関数
$$ g\circ f:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^{\ell} $$
に対応する行列を \( C \) とする。
このとき、 \( C=BA \) となる。
定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)
\( A=(a_{ij}) \) は \( m\times n \) 行列、 \( B=(b_{ij}) \) は \( \ell\times m \) 行列、 \( C=(c_{ij}) \) は \( \ell \times n \) 行列であることに注意します。
ここで、 \( \mathbb{R}^n \) の標準基底を \( \mathbf{e}_1,\cdots,\mathbf{e}_n \) 、 \( \mathbb{R}^m \) の標準基底を \( \mathbf{e}’_1,\cdots,\mathbf{e}’_m \) 、 \( \mathbb{R}^{\ell} \) の標準基底を \( \mathbf{e}^{\prime\prime}_1,\cdots,\mathbf{e}^{\prime\prime}_{\ell} \) とします。
このとき、
$$ \begin{align} g\circ f(\mathbf{e}_i)&=g(f(\mathbf{e}_i))=g\begin{pmatrix} a_{1i} \\ \vdots \\ a_{mi} \end{pmatrix}=g\left( \sum_{j=1}^ma_{ji}\mathbf{e}’_j \right) \quad (式(1)より) \\ &=\sum_{j=1}^ma_{ji}g(\mathbf{e}’_j) \quad (gは線形写像) \\ &=\sum_{j=1}^ma_{ji}\begin{pmatrix} b_{1j} \\ \vdots \\ b_{\ell j} \end{pmatrix}=\sum_{j=1}^ma_{ji}\sum_{k=1}^{\ell}b_{kj}\mathbf{e}^{\prime\prime}_k \quad (式(1)より) \\ &=\sum_{j=1}^m\sum_{k=1}^{\ell}a_{ji}b_{kj}\mathbf{e}^{\prime\prime}_k=\sum_{k=1}^{\ell}\left( \sum_{j=1}^mb_{kj}a_{ji} \right)\mathbf{e}^{\prime\prime}_k \end{align} $$
であり、また、
$$ g\circ f(\mathbf{e}_i)=\begin{pmatrix} c_{1i} \\ \vdots \\ c_{\ell i} \end{pmatrix}=\sum_{k=1}^{\ell}c_{ki}\mathbf{e}^{\prime\prime}_k $$
より、これは
$$ \sum_{k=1}^{\ell}\left( \sum_{j=1}^mb_{kj}a_{ji} \right)\mathbf{e}^{\prime\prime}_k=\sum_{k=1}^{\ell}c_{ki}\mathbf{e}^{\prime\prime}_k $$
となります。したがって、
$$ \sum_{j=1}^mb_{kj}a_{ji}=c_{ki} $$
これはすべての \( i=1,\cdots,n \) と \( k=1,\cdots,\ell \) に対して、なりたつので、
$$ BA=C $$
2つの線形写像
$$ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^3, \quad g:\mathbb{R}^3\to \mathbb{R}^2 $$
を次で与える。
$$ f\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2x_1 \\ x_1-x_2 \\ 3x_1+5x_2 \end{pmatrix}, \quad g\begin{pmatrix} y_1 \\ y_2 \\ y_3 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 3y_1-y_2 \\ y_1+2y_2-3y_3 \end{pmatrix} $$
このとき、 \( f,g \) に対応する行列 \( A,B \) は例2と例3より、
$$ A=\begin{pmatrix} 2 & 0 \\ 1 & -1 \\ 3 & 5 \end{pmatrix}, \quad B=\begin{pmatrix} 3 & -1 & 0 \\ 1 & 2 & -3 \end{pmatrix} $$
よって、合成写像 \( g\circ f \) に対応する行列 \( C \) は
$$ C=BA=\begin{pmatrix} 3 & -1 & 0 \\ 1 & 2 & -3 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 2 & 0 \\ 1 & -1 \\ 3 & 5 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 5 & 1 \\ -5 & -17 \end{pmatrix} $$
であり、合成写像 \( g\circ f:\mathbb{R}^2\to\mathbb{R}^2 \) は
$$ \begin{align} g\circ f\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}&=C\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 5 & 1 \\ -5 & -17 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x_1 \\ x_2 \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} 5x_1+x_2 \\ -5x_1-17x_2 \end{pmatrix} \end{align} $$
今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。