線形代数学11:行列の階数と同次連立一次方程式の解法

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学から行列の階数と同次連立一次方程式の解法について解説していきます。

クラーメルの公式と掃き出し法を用いた連立一次方程式の解法について知りたい方は前回の記事をご覧ください。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 行列の階数(ランク)について
  • 同次連立一次方程式の解法について
目次

行列の階数(ランク)

前回の記事では必ず解が一組存在する場合を見てきました。

そこで、一般的な連立一次方程式を調べるために準備として行列の階数(ランク)というものを考えていきます。

まず、行列の階数の定義に必要な階段行列について定義します。

定義1 (階段行列)

行の番号が増えるにしたがって、左から連続して並ぶ0の個数が増えていくような行列を階段行列という。

つまり、

$$ \begin{pmatrix} 0 & \dots & 0 & a_{1\ell_1} & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{1n} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{2\ell_2} & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{2n} \\ \vdots & & & & & & & \ddots & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{r\ell_r} & \dots & a_{rn} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \\ \vdots & & & & & & & & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \end{pmatrix} $$

ここで、 \( a_{1\ell_1}\not=0, \dots ,a_{r\ell_r}\not=0 \)

例1

(1) 次は階段行列である。

$$ \begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 \\ 0 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} 1 & 2 & 1 \\ 0 & 3 & 4 \\ 0 & 0 & 2 \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} 1 & 2 & 0 \\ 0 & 0 & 3 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} 0 & 1 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix} $$


(2) 次は階段行列ではない。

$$ \begin{pmatrix} 1 & 2 & 1 \\ 3 & 4 & 3 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 \\ 3 & 3 & 2 \\ 0 & 0 & 5 \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} 0 & 1 & 2 \\ 0 & 0 & 2 \\ 0 & 1 & 1 \end{pmatrix}, \ \begin{pmatrix} 0 & 0 & 0 \\ 1 & 0 & 0 \\ 2 & 1 & 0 \end{pmatrix} $$

この階段行列をもとに行列の階数(ランク)を次で定めます。

定義2 (行列の階数(ランク))

行列 \( A \) を行基本変形により階段行列に変形したとき、0でない成分の残っている行の数 \( r \) を \( A \) の階数(ランク)といい、 \( \text{rank}A=r \) と表す。

行列の行基本変形について知りたい方は以下の記事をご覧ください。

どんな行列も行基本変形により必ず階段行列に直すことができることが知られています。

さまざまな行基本変形によりさまざまな階段行列ができますが、0でない成分の残っている行の数は行列により必ず一通りに定まることが知られています。

例2

(1) \( A=\begin{pmatrix} -1 & 2 \\ 2 & -7 \end{pmatrix} \) の階数を求める。

$$ \begin{align} \begin{pmatrix} -1 & 2 \\ 2 & -7 \end{pmatrix} \xrightarrow{\text{②+①×2}} \begin{pmatrix} -1 & 2 \\ 0 & -3 \end{pmatrix} \end{align} $$

よって、 \( \text{rank}A=2 \)


(2) \( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 & -1 \\ 2 & 3 & 0 \\ 1 & 3 & 2 \end{pmatrix} \) の階数を求める。

$$ \begin{align} \begin{pmatrix} 1 & 2 & -1 \\ 2 & 3 & 0 \\ 1 & 3 & 2 \end{pmatrix} \xrightarrow[\text{③+①×(-1)}]{\text{②+①×(-2)}} \begin{pmatrix} 1 & 2 & -1 \\ 0 & -1 & 2 \\ 0 & 1 & 3 \end{pmatrix} \xrightarrow{\text{③+②×1}} \begin{pmatrix} 1 & 2 & -1 \\ 0 & -1 & 2 \\ 0 & 0 & 5 \end{pmatrix} \end{align} $$

よって、 \( \text{rank}A=3 \)

同次連立一次方程式の解法

一般的な連立一次方程式を考える前に

$$ \begin{align} \begin{cases} a_{11}x_1+a_{12}x_2+\dots+a_{1n}x_n=0 \\ a_{21}x_1+a_{22}x_2+\dots+a_{2n}x_n=0 \\ \quad \vdots \\ a_{m1}x_1+a_{m2}x_2+\dots+a_{mn}x_n=0 \end{cases} \tag{1} \end{align} $$

のように右辺の定数項がすべて0である連立一次方程式について考えます。

これを同次連立一次方程式といいます。

この方程式は \( n \) 個の未知数 \( x_1,\dots,x_n \) と \( m \) 個の式から成り立っています。

まず、(1)は \( x_1=x_2=\dots=x_n=0 \) という解を必ずもちます。この解を自明な解といいます。

そのため、このほかに解がないかを考えていきます。係数行列

$$ A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \dots & a_{mn} \end{pmatrix} $$

に対して、行基本変形を行って次のような階段行列 \( B \) が得られたとします。

$$ B=\begin{pmatrix} 0 & \dots & 0 & b_{1\ell_1} & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & b_{1n} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & b_{2\ell_2} & \dots & \dots & \dots & \dots & b_{2n} \\ \vdots & & & & & & & \ddots & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & b_{r\ell_r} & \dots & b_{rn} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \\ \vdots & & & & & & & & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \end{pmatrix} $$

つまり、 \( \text{rank}A=r \) となったとします。これは(1)が

$$ \begin{align} \begin{cases} b_{1\ell_1}x_{\ell_1}+\dots+b_{1n}x_n=0 \\ b_{2\ell_2}x_{\ell_2}+\dots+b_{2n}x_n=0 \\ \quad \vdots \\ b_{r\ell_r}x_{\ell_r}+\dots+b_{rn}x_n=0 \end{cases} \tag{2} \end{align} $$

と変形され、これ以上式の数が減らないことを意味しています。

(2)は \( (n-\ell_1+1) \) 個の未知数 \( x_{\ell_1},\dots,x_n \) と \( r \) 個の式から成り立っています。

行列 \( B \) は階段行列なので、 \( n-\ell_1+1≧ r \) となります。( \( r \) 段の階段の高さと幅を比べてみてください)

つまり、 \( (n-\ell_1+1)-r \) 個の未知数、たとえば \( x_{\ell_1},x_{\ell_1+1},\dots,x_{n-r} \) を任意に与えると、残りの \( r \) 個の未知数 \( x_{n-r+1},x_{n-r+2},\dots,x_n \) は(2)からただ一組定まります。

また、最初の行基本変形によって消えてしまった未知数 \( x_1,\dots,x_{\ell_1-1} \) もどんな値でもよいということになります。

まとめると、解 \( x_1,\dots,x_n \) について、

\( x_1,\dots,x_{\ell_1-1} \):変形中に消える。任意

\( x_{\ell_1},\dots,x_{n-r} \) :任意

\( x_{n-r+1},\dots,x_n \) :(2)から定まる。

このとき、任意の値でよい未知数の数 \( (n-r) \) を(1)の自由度といいます。

つまり、 自由度=未知数の数ー係数行列 \( A \) の階数 で与えられます。

このとき、この自由度によって解がいくつ存在するかがわかります。

自由度\( =0 \) \( \Longrightarrow \) 任意にとれる未知数がない \( \Longrightarrow \) 解は自明の解のみ

自由度\( >0 \) \( \Longrightarrow \) 解は無数に存在する。

ここまでの同次連立一次方程式の解法について簡単にまとめてみましょう。

STEP
同次連立一次方程式の係数行列の階数を求める。

同次連立一次方程式

$$ \begin{cases} a_{11}x_1+a_{12}x_2+\dots+a_{1n}x_n=0 \\ a_{21}x_1+a_{22}x_2+\dots+a_{2n}x_n=0 \\ \quad \vdots \\ a_{m1}x_1+a_{m2}x_2+\dots+a_{mn}x_n=0 \end{cases} $$

の係数行列 \( A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12} & \dots & a_{1n} \\ a_{21} & a_{22} & \dots & a_{2n} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ a_{m1} & a_{m2} & \dots & a_{mn} \end{pmatrix} \) の \( \text{rank}A=r \) を行列の行基本変形によって求める。

STEP
自由度を求めて、自由度が0か0より大きいかを見る。

自由度は考えている同次連立一次方程式の未知数の数 \( n \) とStep 1でもとめた係数行列の階数 \( r \) を用いて、自由度\( =n-r \) で与えられる。

この自由度が0であれば解は自明の解のみとなり、0より大きければ解は無数に存在する。

例3

(1) \( \begin{cases} 3x_1+3x_2=0 \\ 2x_2+x_3=0 \\ -x_1+x_2+x_3=0 \end{cases} \) を解く。

係数行列は \( A=\begin{pmatrix} 3 & 3 & 0 \\ 0 & 2 & 1 \\ -1 & 1 & 1 \end{pmatrix} \) である。

$$ \begin{align} \begin{pmatrix} 3 & 3 & 0 \\ 0 & 2 & 1 \\ -1 & 1 & 1 \end{pmatrix} &\xrightarrow{\text{①×}\frac{1}{3}} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 2 & 1 \\ -1 & 1 & 1 \end{pmatrix} \xrightarrow{\text{③+①×1}} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 2 & 1 \\ 0 & 2 & 1 \end{pmatrix} \\ &\xrightarrow{\text{③+②×(-1)}} \begin{pmatrix} 1 & 1 & 0 \\ 0 & 2 & 1 \\ 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}=B \end{align} $$

よって、 \( \text{rank}A=2 \)

したがって、自由度\(=3-2=1 \)

\( B \) より、もとの方程式は次のように変形できる。

$$ \begin{align} \begin{cases} x_1+x_2=0 \\ 2x_2+x_3=0 \end{cases} \tag{3} \end{align} $$

自由度=1より、\( x_1 \) を任意に \( k \) とおくと、

式(3)の第1行より、 \( x_2=-x_1=-k \)

式(3)の第2行より、 \( x_3=-2x_2=2k \)

よって、解は \( x_1=k, \ x_2=-k, \ x_3=2k \quad (k:\text{任意}) \)


(2) \( \begin{cases} x_1+2x_2-2x_3+2x_4=0 \\ 3x_2+3x_4=0 \\ 3x_1+x_2-6x_3+x_4=0 \end{cases} \) を解く。

係数行列は \( A=\begin{pmatrix} 1 & 2 & -2 & 2 \\ 0 & 3 & 0 & 3 \\ 3 & 1 & -6 & 1 \end{pmatrix} \) である。

$$ \begin{align} &\begin{pmatrix} 1 & 2 & -2 & 2 \\ 0 & 3 & 0 & 3 \\ 3 & 1 & -6 & 1 \end{pmatrix} \xrightarrow{\text{③+①×(-3)}} \begin{pmatrix} 1 & 2 & -2 & 2 \\ 0 & 3 & 0 & 3 \\ 0 & -5 & 0 & -5 \end{pmatrix} \\ \xrightarrow[\text{③×}(-\frac{1}{5})]{\text{②×}\frac{1}{3}} &\begin{pmatrix} 1 & 2 & -2 & 2 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \end{pmatrix} \xrightarrow[\text{③+②×(-1)}]{\text{①+②×(-2)}} \begin{pmatrix} 1 & 0 & -2 & 0 \\ 0 & 1 & 0 & 1 \\ 0 & 0 & 0 & 0 \end{pmatrix}=B \end{align} $$

よって、 \( \text{rank}A=2 \)

したがって、自由度\(=4-2=2 \)

\( B \) より、もとの方程式は次のように変形できる。

$$ \begin{align} \begin{cases} x_1-2x_3=0 \\ x_2+x_4=0 \end{cases} \tag{4} \end{align} $$

この式(4)より、 \( x_1 \)と\( x_3 \)、\( x_2 \)と\( x_4 \)が関係しているので、任意にとることができるのは、\( x_1 \)と\( x_2 \)、\( x_1 \)と\( x_4 \)、\( x_2 \)と\( x_3 \)、\( x_3 \)と\( x_4 \) のいずれかとなる。

よって、 \( x_3=k_1, \ x_4=k_2 \) とおくと、

式(4)の第1行より、 \( x_1=2x_3=2k_1 \)

式(4)の第2行より、 \( x_2=-x_4=-k_2 \)

よって、解は

$$ x_1=2k_1, \ x_2=-k_2, \ x_3=k_1, \ x_4=k_2 \quad (k_1,k_2:\text{任意}) $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

目次