線形代数学続論10:行列のランクと線形写像の基本定理

こんにちは、ひかりです。

今回は線形代数学続論から行列のランクと線形写像の基本定理について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 行列のランクの定義と同値な条件について
  • 線形写像の基本定理について
目次

行列のランクの定義と同値な条件

行列のランクの定義

線形代数学11の記事で階段行列を用いた行列のランクの定義をしました。

ここでは、別の方法で行列のランクを定義してみましょう。

定義1 (行列のランク)

\( m\times n \) 行列 \( A \) に対して、線形写像 \( f_A:\mathbb{R}^n\to \mathbb{R}^m \) を次で与える。

$$ \mathbf{v}\mapsto A\mathbf{v} $$

このとき、 \( f_A \) の像空間 \( \text{Im} \ f_A\subset \mathbb{R}^m \) の次元を \( A \) のランク(階数)といい、 \( \text{rank} \ A \) と表す。つまり、

$$ \text{rank} \ A=\dim \text{Im} \ f_A $$

このままだと計算しづらいので次の定理を示します。

定理1

\( m\times n \) 行列 \( A \) を列ベクトルを用いて、

$$ A=\begin{pmatrix} \mathbf{a}_1 & \cdots & \mathbf{a}_n \end{pmatrix} \quad (\mathbf{a}_j\in\mathbb{R}^m, \ 1≦j≦n) $$

と表しておく。このとき、

$$ \text{rank} \ A=\dim S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n] $$

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

\( \mathbb{R}^n \) の標準基底

$$ \mathbf{e}_1=\begin{pmatrix} 1 \\ 0 \\ \vdots \\ 0 \end{pmatrix}, \quad \cdots, \quad \mathbf{e}_n=\begin{pmatrix} 0 \\ \vdots \\ 0 \\ 1 \end{pmatrix} $$

をランクの定義の線形写像 \( f_A \) で移すと、

$$ f_A(\mathbf{e}_j)=A\mathbf{e}_j=\mathbf{a}_j, \quad (1≦j≦n) $$

このとき、任意の

$$ \mathbb{R}^n \ni \mathbf{x}=\begin{pmatrix} x_1 \\ \vdots \\ x_n \end{pmatrix}=x_1\mathbf{e}_1+\cdots+x_n\mathbf{e}_n $$

に対して、

$$ \begin{align} f_A(\mathbf{x})&=f_A(x_1\mathbf{e}_1+\cdots+x_n\mathbf{e}_n) \\ &=x_1f_A(\mathbf{e}_1)+\cdots+x_nf_A(\mathbf{e}_n) \quad (f_Aは線形) \\ &=x_1\mathbf{a}_1+\cdots+x_n\mathbf{a}_n\in S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n] \end{align} $$

となるので、

$$ \text{Im} \ f_A=S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n] $$

したがって、

$$ \text{rank} \ A=\dim \text{Im} \ f_A=\dim S[\mathbf{a}_1,\cdots,\mathbf{a}_n] $$

例1

$$ A=\begin{pmatrix} 2 & 0 & -1 \\ 5 & 1 & 1 \\ -1 & 2 & 0 \\ 0 & 1 & 0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} \mathbf{a}_1 & \mathbf{a}_2 & \mathbf{a}_3 \end{pmatrix} $$

のランク \( \text{rank} \ A \) を求める。

定理1より、

$$ \text{rank} \ A=\dim S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3] $$

である。

線形代数学続論07の定理1の証明より、 \( \dim S[\mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3] \) は \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3 \) の中の1次独立なベクトルの最大個数となる。

そこで、

$$ c_1\mathbf{a}_1+c_2\mathbf{a}_2+c_3\mathbf{a}_3=\mathbf{0} $$

とすると、

$$ c_1\begin{pmatrix} 2 \\ 5 \\ -1 \\ 0 \end{pmatrix}+c_2\begin{pmatrix} 0 \\ 1 \\ 2 \\ 1 \end{pmatrix}+c_3\begin{pmatrix} -1 \\ 1 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2c_1-c_3 \\ 5c_1+c_2+c_3 \\ -c_1+2c_2 \\ c_2 \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \\ 0 \end{pmatrix} $$

したがって、

$$ c_1=c_2=c_3=0 $$

であるので、 \( \mathbf{a}_1,\mathbf{a}_2,\mathbf{a}_3 \) は1次独立である。よって、 \( \text{rank} \ A=3 \)

定理1と線形代数学続論06の定理6を組み合わせると、次が成り立ちます。

定理2 (行列式とランクの関係)

\( n \) 次正方行列 \( A \) に対して、次の2つは同値である。

(1) \( |A|\not=0 \)

(2) \( \text{rank} \ A=n \)

2つの行列のランクの定義の同値性

線形代数学11の記事の階段行列を用いた行列のランクの定義を再掲します。

定義2 (階段行列)

行の番号が増えるにしたがって、左から連続して並ぶ0の個数が増えていくような行列を階段行列という。

つまり、

$$ \begin{pmatrix} 0 & \dots & 0 & a_{1\ell_1} & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{1n} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{2\ell_2} & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{2n} \\ \vdots & & & & & & & \ddots & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{r\ell_r} & \dots & a_{rn} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \\ \vdots & & & & & & & & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \end{pmatrix} $$

ここで、 \( a_{1\ell_1}\not=0, \dots ,a_{r\ell_r}\not=0 \)

定義3 (階段行列を用いた行列のランク)

行列 \( A \) を行基本変形により階段行列に変形したとき、0でない成分の残っている行の数 \( r \) を \( A \) の階数(ランク)といい、 \( \text{rank}A=r \) と表す。

この2つの行列のランクの定義が同値であることを示しておきましょう。

定理3 (2つの行列のランクの定義の同値性)

定義1で行列のランクを定めるとする。

このとき、 \( m\times n \) 行列 \( A \) に対して、次の2つは同値である。

(1) \( \text{rank} \ A=r \) (定義1の意味で)

(2) \( A \) を行基本変形により階段行列 \( A’ \) に変形したとき、0でない成分の残っている行の数が \( r \) である。

   (つまり、定義3の意味で \( \text{rank} \ A=r \) )

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

((2)⇒(1))  \( A \) を行基本変形により階段行列に変形して、次のようになったとします。

$$ A’=\begin{pmatrix} 0 & \dots & 0 & a_{1\ell_1} & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{1n} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{2\ell_2} & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{2n} \\ \vdots & & & & & & & \ddots & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{r\ell_r} & \dots & a_{rn} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \\ \vdots & & & & & & & & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \end{pmatrix} $$

また、 \( A \) の第 \( i \) 行を \( \mathbf{a}’_i, \ (1≦i≦m) \) とします。

このとき、定理1より、 \( \text{rank} \ A’ \) は \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_m \) の中の1次独立なベクトルの最大個数となります。

(定理1は行ベクトルに対しても成り立ちます。)

とくに、

$$ \mathbf{a}’_{r+1}=\cdots=\mathbf{a}’_m=\mathbf{0} $$

より、 \( \text{rank} \ A’ \) は \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_r \) の中の1次独立なベクトルの最大個数となります。

実は \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_r \) が1次独立であるということが分かります。実際、

$$ c_1\mathbf{a}’_1+\cdots+c_r\mathbf{a}’_r=\mathbf{0} $$

となっているとする。計算していくと、

$$ \begin{align} &c_1\begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 & a_{1\ell_1} & \cdots & a_{1n} \end{pmatrix}+\cdots+c_r\begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 & a_{r\ell_r} & \cdots & a_{rn} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 & c_1a_{1\ell_1} & \cdots & c_1a_{1n}+\cdots+c_ra_{rn} \end{pmatrix} \\ &=\mathbf{0} \end{align} $$

よって、第 \( \ell_1 \) 番目の成分を比べると、 \( c_1a_{1\ell_1}=0 \) となり、 \( a_{1\ell 1}\not=0 \) より \( c_1=0 \)

次に、第 \( \ell_2 \) 番目の成分を比べると、 \( c_1a_{1\ell_2}+c_2a_{2\ell_2}=0 \) となり、 \( c_1=0,a_{2\ell_2}\not=0 \) より、 \( c_2=0 \)

したがって、これを繰り返していくと、

$$ c_1=c_2=\cdots=c_r=0 $$

よって、 \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_r \) は1次独立であるので、定理1より、

$$ \text{rank} \ A’=r $$

\( \text{rank} \ A’=\text{rank} \ A \) であるので、(行基本変形によって、行列のランクは変わらないということが知られています。)

$$ r=\text{rank} \ A’=\text{rank} \ A=\dim \text{Im} \ f_A $$


((1)⇒(2))  \( A \) を行基本変形により階段行列に変形して、次のようになったとします。

$$ A’=\begin{pmatrix} 0 & \dots & 0 & a_{1\ell_1} & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{1n} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{2\ell_2} & \dots & \dots & \dots & \dots & a_{2n} \\ \vdots & & & & & & & \ddots & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 & a_{s\ell_s} & \dots & a_{sn} \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \\ \vdots & & & & & & & & & & & \vdots \\ 0 & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & \dots & 0 \end{pmatrix} $$

また、

$$ \text{rank} \ A=\dim \text{Im} \ f_A=r $$

とします。このとき、 \( \text{rank} \ A’=\text{rank} \ A \) であるので、(行基本変形によって、行列のランクは変わらないということが知られています。)

$$ \text{rank} \ A’=r $$

(したがって、 \( r=s \) を示せばよいです。)

定理1の行ベクトル版より、 \( A’ \) を行ベクトル表示

$$ A’=\begin{pmatrix} \mathbf{a}’_1 \\ \vdots \\ \mathbf{a}’_m \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} \mathbf{a}’_1 \\ \vdots \\ \mathbf{a}’_s \\ \mathbf{0} \\ \vdots \\ \mathbf{0} \end{pmatrix} $$

したときに、 \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_s \) の中の1次独立であるベクトルの最大個数が \( r \) となります。

よって、ベクトルの個数の関係から \( r≦s \) となります。

ここで、もし \( r<s \) であるとします。すると、 \( r+1≦s \)

このとき、 \( \mathbf{a}’_1, \cdots,\mathbf{a}’_r \) が1次独立であるとすると、 \( \mathbf{a}’_1, \cdots,\mathbf{a}’_r,\mathbf{a}’_{r+1} \) は1次従属となります。

よって、線形代数学続論06の定理1より、 \( \mathbf{a}’_{r+1} \) は \( \mathbf{a}’_1,\cdots,\mathbf{a}’_r \) の1次結合で表すことができます。つまり、

$$ \begin{align} \mathbf{a}’_{r+1}&=d_1\mathbf{a}’_1+\cdots+d_r\mathbf{a}’_r \\ &=d_1\begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 & a_{1\ell_1} & \cdots & a_{1n} \end{pmatrix}+\cdots+d_r\begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 & a_{r\ell_r} & \dots & a_{rn} \end{pmatrix} \\ &=\begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 & d_1a_{1\ell_1} & \cdots & d_1a_{1n}+\cdots+d_ra_{rn} \end{pmatrix} \end{align} $$

一方で、

$$ \mathbf{a}’_{r+1}=\begin{pmatrix} 0 & \cdots & 0 & a_{r+1 \ \ell_{r+1}} & \dots & a_{r+1 \ n} \end{pmatrix} $$

よって、第 \( \ell_1 \) 番目の成分を比べると、 \( d_1a_{1\ell_1}=0 \) となり、 \( a_{1\ell 1}\not=0 \) より \( d_1=0 \)

次に、第 \( \ell_2 \) 番目の成分を比べると、 \( d_1a_{1\ell_2}+d_2a_{2\ell_2}=0 \) となり、 \( d_1=0,a_{2\ell_2}\not=0 \) より、 \( d_2=0 \)

したがって、これを繰り返していくと、

$$ d_1=d_2=\cdots=d_r=0 $$

よって、 \( \mathbf{a}’_{r+1}=\mathbf{0} \) となるが、これは \( \mathbf{a}’_{r+1}\not=\mathbf{0} \) に矛盾します。

したがって、 \( r=s \) となり(2)が成り立ちます。

線形写像の基本定理

線形写像 \( f \) の核空間 \( \text{Ker} \ f \) と像空間 \( \text{Im} \ f \) の次元について次が成り立ちます。

定理4 (線形写像の基本定理)

\( V,W \) をベクトル空間として、線形写像 \( f:V\to W \) を考える。

このとき、次が成り立つ。

$$ \dim V=\dim \text{Im} \ f+\dim \text{Ker} \ f $$

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

$$ s=\dim \text{Ker} \ f, \quad r=\dim \text{Im} \ f $$

とおきます。そして、 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s \) を \( \text{Ker} \ f \) の1つの基底、 \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_r \) を \( \text{Im} \ f \) の1つの基底とします。

すると、

$$ f(\mathbf{u}_1)=\mathbf{w}_1, \quad f(\mathbf{u}_r)=\mathbf{w}_r $$

となる \( \mathbf{u}_1,\cdots,\mathbf{u}_r\in V \) が存在します。

このとき、

$$ \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s,\mathbf{u}_1,\cdots,\mathbf{u}_r $$

が \( V \) の基底となることを示します。

(生成性) 任意に \( \mathbf{v}\in V \) をとり、 \( f \) で移すと

$$ f(\mathbf{v})\in \text{Im} \ f=S[\mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_r] $$

となるので、

$$ \begin{align} f(\mathbf{v})&=b_1\mathbf{w}_1+\cdots+b_r\mathbf{w}_r \quad (こうなるb_1,\cdots,b_rが存在する) \\ &=b_1f(\mathbf{u}_1)+\cdots+b_rf(\mathbf{u}_r) \\ &=f(b_1\mathbf{u}_1+\cdots+b_r\mathbf{u}_r) \quad (fは線形) \end{align} $$

したがって、

$$ \begin{align} \mathbf{0}&=f(\mathbf{v})-f(b_1\mathbf{u}_1+\cdots+b_r\mathbf{u}_r) \\ &=f(\mathbf{v}-b_1\mathbf{u}_1-\cdots-b_r\mathbf{u}_r) \end{align} $$

より、

$$ \mathbf{v}-b_1\mathbf{u}_1-\cdots-b_r\mathbf{u}_r\in \text{Ker} \ f=S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s] $$

したがって、

$$ \mathbf{v}-b_1\mathbf{u}_1-\cdots-b_r\mathbf{u}_r=a_1\mathbf{v}_1+\cdots+a_s\mathbf{v}_s $$

となる \( a_1,\cdots,a_s \) が存在するので、

$$ \mathbf{v}=a_1\mathbf{v}_1+\cdots+a_s\mathbf{v}_s+b_1\mathbf{u}_1+\cdots+b_r\mathbf{u}_r $$

となり、

$$ \mathbf{v}\in S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s,\mathbf{u}_1,\cdots,\mathbf{u}_r] $$

よって、

$$ V=S[\mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s,\mathbf{u}_1,\cdots,\mathbf{u}_r] $$

(1次独立性) いま、

$$ a_1\mathbf{v}_1+\cdots+a_s\mathbf{v}_s+b_1\mathbf{u}_1+\cdots+b_r\mathbf{u}_r=\mathbf{0} $$

とする。両辺 \( f \) で移すと、

$$ a_1f(\mathbf{v}_1)+\cdots+a_sf(\mathbf{v}_s)+b_1f(\mathbf{u}_1)+\cdots+b_rf(\mathbf{u}_r)=f(\mathbf{0})=\mathbf{0} $$

ここで、 \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s\in \text{ker} \ f \) と \( f(\mathbf{u}_i)=\mathbf{w}_i \) より、この式は

$$ b_1\mathbf{w}_1+\cdots+b_r\mathbf{w}_r=\mathbf{0} $$

と変形できて、 \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_r \) は \( W \) の基底なので、

$$ b_1=\cdots=b_r=0 $$

したがって、初めの関係式に戻ると、

$$ a_1\mathbf{v}_1+\cdots+a_s\mathbf{v}_s=\mathbf{0} $$

が成り立ちます。これは \( \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s \) が \( \text{Ker} \ f \) の基底であるので、

$$ a_1=\cdots=a_s=0 $$

よって、

$$ \mathbf{v}_1,\cdots,\mathbf{v}_s,\mathbf{u}_1,\cdots,\mathbf{u}_r $$

は1次独立であることがわかり、生成性とあわせて \( V \) の基底であることが示せた。したがって、

$$ \dim V=r+s=\dim \text{Im} \ f+\dim \text{Ker} \ f $$

例2

線形写像 \( f:\mathbb{R}^3 \to \mathbb{R}^3 \) を次で定める。

$$ \begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} \mapsto \begin{pmatrix} y+z \\ x+y \\ x-z \end{pmatrix} $$

このとき、 \( \text{Ker} \ f \) と \( \text{Im} \ f \) の次元を求める。

$$ \begin{pmatrix} y+z \\ x+y \\ x-z \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 0 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & -1 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} x \\ y \\ z \end{pmatrix} $$

より、

$$ A=\begin{pmatrix} 0 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & -1 \end{pmatrix} $$

とおくと、

$$ |A|=\begin{vmatrix} 0 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 0 \\ 1 & 0 & -1 \end{vmatrix}=0 $$

なので、定理1より \( \text{rank} \ A≦2 \)

1次独立性を考えると、 \( \text{rank} \ A=0,1 \) にはならないので、 \( \text{rank} \ A=2 \)

したがって、行列のランクの定義と線形写像の基本定理より

$$ \dim \text{Im} \ f=\text{rank} \ A=2 $$

$$ \dim \text{Ker} \ f=\dim V-\dim \text{Im} \ f=3-2=1 $$

線形写像の基本定理より、同型写像の同値な条件を得ることができます。

定理5 (同型写像の同値な条件)

\( V,W \) は \( \dim V=\dim W \) であるようなベクトル空間とする。

このとき、線形写像 \( f:V\to W \) に対して、次の3つは同値である。

(1) \( f \) は同型写像

(2) \( f \) は単射

(3) \( f \) は全射

(つまり、単射か全射のどちらかがいえればもう一方は自動的に得られて、同型写像となる)

定理4の証明(気になる方だけクリックしてください)

(\((1)\Rightarrow(2), (1)\Rightarrow(3)\)) 同型写像の定義より、明らか


(\((2)\Rightarrow(3)\)) \( f \) は単射であるとします。

このとき、線形代数学続論05の定理6より、 \( \text{Ker} \ f=\{\mathbf{0}\} \)

よって、 \( \dim \text{Ker} \ f=0 \) であるので、定理の仮定と線形写像の基本定理より

$$ \dim W=\dim V=\dim \text{Im} \ f+\dim \text{Ker} \ f=\dim \text{Im} \ f $$

ここで、もし \( \text{Im} \ f⊊W \) とすると、 \( \mathbf{w}\in W \) かつ \( \mathbf{w}\not\in \text{Im} \ f \) となる \( \mathbf{w} \) がとれます。

\( \dim \text{Im} \ f=n \) として、 \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_n \) を \( \text{Im} \ f \) の1つの基底とします。

このとき、 \( \mathbf{w} \) は \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_n \) の1次結合で表すことができないので、

(表すことができると、 \( \mathbf{w}\in \text{Im} \ f \) となってしまうため)

線形代数学続論06の定理1(の対偶)より、 \( \mathbf{w}_1,\cdots,\mathbf{w}_n,\mathbf{w} \) は1次独立となります。

したがって、 \( \dim W≧n+1=\dim \text{Im} \ f+1 \) となり矛盾します。

よって、 \( W=\text{Im} \ f \) となるので \( f \) は全射となります。


(\((3)\Rightarrow(2)\)) \( f \) は全射であるとします。

すると、 \( W=\text{Im} \ f \) であるので、 \( \dim W=\dim \text{Im} \ f \)

よって、線形写像の基本定理より、

$$ \dim W=\dim V=\dim \text{Ker} \ f+\dim \text{Im} \ f=\dim \text{Ker} \ f+\dim W $$

となるので、

$$ \dim \text{Ker} \ f=0 $$

よって、 \( \text{Ker} \ f=\{ \mathbf{0} \} \) となるので、線形代数学続論05の定理6より、 \( f \) は単射となります。


(\((2)\Rightarrow(1), (3)\Rightarrow(1)\)) 上より、単射か全射のどちらかがいえればもう一方は自動的に得られるので、 \( f \) は同型写像となります。

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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