複素関数論05:複素数のベキ級数

こんにちは、ひかりです。

今回は複素関数論から複素数のベキ級数について解説していきます。

この記事では以下のことを紹介します。

  • 複素数のベキ級数と収束半径について
  • 収束半径の求め方について
目次

複素数のベキ級数と収束半径

まず、複素数のベキ級数を次で定めます。

定義1 (複素数のベキ級数)

複素数列 \( \{c_n\} \subset \mathbb{C} \) と複素数 \( z\in \mathbb{C} \) に対して、

$$ \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n=c_0+c_1z+c_2z^2+\cdots $$

という形をした級数をベキ級数または整級数という。

このベキ級数の収束・発散について見ていきましょう。

まず、無限級数の収束・発散は次のように定義されます。

定義2 (無限級数の収束・発散)

(1) 無限級数 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n \) の部分和

$$ S_n=a_0+a_1+\cdots+a_n \quad (n\in \mathbb{N}) $$

からなる列 \( \{S_n\} \) が収束するときこの無限級数は収束するという。

また、上の列 \( \{S_n\} \) が発散するときこの無限級数は発散するという。


(2) 無限級数 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}a_n \) に対して \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}|a_n| \) が収束するとき、この無限級数は絶対収束するという。

複素数のベキ級数の収束・発散については次のことが成り立ちます。

定理1 (複素数のベキ級数の収束・発散)

(1) ベキ級数 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) が \( z=z_0(\not=0) \) で収束すれば、 \( |z|<|z_0| \) となるすべての \( z \) に対して絶対収束する。


(2) ベキ級数 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) が \( z=z_0 \) で発散すれば、 \( |z|>|z_0| \) となるすべての \( z \) に対して発散する。

定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)

(1) \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz_0^n \) が収束するので、

\[ c_nz_0^n \to 0 \quad (n\to \infty) \]

よって、ある \( M>0 \) が存在して、

\[ |c_nz_0^n|≦M \quad (n\in \mathbb{N}\cup\{0\}) \]

したがって、

\[ \sum_{n=0}^{\infty}|c_nz^n|≦\sum_{n=0}^{\infty}|c_nz_0^n|\left|\frac{z}{z_0}\right|^n≦M\sum_{n=0}^{\infty}\left|\frac{z}{z_0}\right|^n \]

となり、最右辺の級数は仮定より公比 \( \left|\frac{z}{z_0}\right|<1 \) の等比級数であるので収束します。

したがって、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) は絶対収束します。


(2)  \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz_0^n \) が発散するとき、 \( |z|>|z_0| \) をみたすある \( z \) に対して、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) が収束したとします。

すると、(1)より \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz_0^n \) が収束することになり矛盾します。

したがって、 \( |z|>|z_0| \) となるすべての \( z \) に対して、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) は発散します。

定理1より複素数のベキ級数に対して、次の3つの場合が起こることがわかります。

(i) すべての \( z \) に対して収束する。

(ii) ある \( r>0 \) が存在して \( |z|<r \) となる \( z \) では収束して、 \( |z|>r \) となる \( z \) では発散する。

(iii) \( z\not=0 \) となる \( z \) で発散する。つまり、 \( z=0 \) でしか収束しない。

よって、次を定義します。

定義3 (収束半径)

(ii)の \( r>0 \) のことをベキ級数の収束半径という。ただし、(i)の場合は \( r=\infty \) 、(iii)の場合は \( r=0 \) とする。

収束半径の求め方

収束半径の求め方の1つに次が成り立ちます。

定理2 (ダランベールの判定法)

ベキ級数 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) に対して、

$$ \lim_{n\to \infty}\left|\frac{c_{n+1}}{c_n}\right|=\frac{1}{r} $$

が成り立つならば \( r \) は収束半径である。

定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)

(i) まず、 \( \rho<r, \ z\in D_{\rho}(0) \) に対して、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}|c_nz^n|<\infty \) を示します。ここで、

$$ D_{\rho}(0)=\{ z\in \mathbb{C} : |z|<\rho\} $$

まず、

\[ \left| \frac{c_{n+1}z^{n+1}}{c_nz^n}\right|=\left|\frac{c_{n+1}}{c_n}\right||z|\to \frac{|z|}{r} \quad (n\to \infty) \]

となります。よって、 \( \frac{|z|}{r}<\frac{\rho}{r}<1 \) より、 \( \varepsilon=\frac{1}{2}\left( 1-\frac{\rho}{r} \right)>0 \) とおくと、ある \( N\in\mathbb{N} \) が存在して、 \( n≧N \) ならば次が成り立ちます。(\(\varepsilon\)-\(n\)論法)

\[ \left|\left|\frac{c_{n+1}z^{n+1}}{c_nz^n}\right|-\frac{|z|}{r}\right|<\varepsilon \]

とくに、

\[ \left|\frac{c_{n+1}z^{n+1}}{c_nz^n}\right|<\varepsilon+\frac{|z|}{r}<\frac{1}{2}\left( 1-\frac{\rho}{r}\right)+\frac{\rho}{r}=\frac{1}{2}\left( 1+\frac{\rho}{r}\right)=:\rho_0<1 \]

(ここで、 \( \frac{1}{2}\left( 1+\frac{\rho}{r}\right) \) を \( \rho_0 \) とおいています。それを \( =: \) と表します)

よって、 \( n≧N \) ならば、

\[ |c_{n+1}z^{n+1}|<\rho_0|c_nz^n|<\rho_0^2|c_{n-1}z^{n-1}|<\cdots<\rho_0^{n-N+1}|c_Nz^N| \]

より、

\[ \sum_{n=N}^{\infty}|c_nz^n|≦\sum_{n=N}^{\infty}\rho_0^{n-N}|c_Nz^N|=|c_Nz^N|\sum_{n=0}^{\infty}\rho_0^n=|c_Nz^N|\frac{1}{1-\rho_0}<\infty \quad (\rho_0<1より) \]

したがって、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) は絶対収束します。

(ii) 次に、 \( |z|>r \) となる \( z\in\mathbb{C} \) に対して、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) が発散することを示します。まず、

\[ \left| \frac{c_{n+1}z^{n+1}}{c_nz^n}\right|=\left|\frac{c_{n+1}}{c_n}\right||z|\to \frac{|z|}{r}>1 \quad (n\to \infty) \]

となります。よって、 \( \varepsilon=\frac{1}{2}\left( \frac{|z|}{r}-1 \right)>0 \) とおくと、ある \( N\in\mathbb{N} \) が存在して、 \( n≧N \) ならば次が成り立ちます。(\(\varepsilon\)-\(n\)論法)

\[ \left|\left|\frac{c_{n+1}z^{n+1}}{c_nz^n}\right|-\frac{|z|}{r}\right|<\varepsilon \]

とくに、 \( -\varepsilon<\left|\frac{c_{n+1}z^{n+1}}{c_nz^n}\right|-\frac{|z|}{r} \) より、

\[ \left|\frac{c_{n+1}z^{n+1}}{c_nz^n}\right|>\frac{|z|}{r}-\varepsilon=\frac{1}{2}\left( 1+\frac{|z|}{r}\right)=:\rho_1>1 \]

(ここで、 \( \frac{1}{2}\left( 1+\frac{|z|}{r}\right) \) を \( \rho_1 \) とおいています。それを \( =: \) と表します)

よって、 \( n≧N \) ならば、

\[ |c_{n+1}z^{n+1}|>\rho_1|c_nz^n|>\rho_1^2|c_{n-1}z^{n-1}|>\cdots>\rho_1^{n-N+1}|c_Nz^N| \]

より、 \( \rho_1>1 \) であるので \( n\to\infty \) とすると、 \( |c_nz^n|\to \infty \) がいえます。

したがって、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) は発散します。

よって、(i),(ii)より \( r \) は収束半径となります。

例1

(1) 次のベキ級数を考える。

$$ \sum_{n=0}^{\infty}n!z^n $$

このベキ級数の収束半径を求める。

$$ \left|\frac{c_{n+1}}{c_n}\right|=\left|\frac{(n+1)!}{n!}\right|=(n+1)\to \infty=\frac{1}{0} \quad (n\to\infty) $$

であるので、定理2より収束半径は0である。


(2) 次のベキ級数を考える。

$$ \sum_{n=0}^{\infty}\frac{1}{n!}z^n$$

このベキ級数の収束半径を求める。

$$ \left|\frac{c_{n+1}}{c_n}\right|=\left|\frac{n!}{(n+1)!}\right|=\frac{1}{n+1}\to 0=\frac{1}{\infty} \quad (n\to\infty) $$

であるので、定理2より収束半径は \( \infty \) である。


(3) 次のベキ級数を考える。

$$ \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}z^{2n} $$

このベキ級数の収束半径を求める。 \( w=z^2 \) とおくと、

$$ \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}z^{2n}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}w^n $$

であり、

$$ \left|\frac{c_{n+1}}{c_n}\right|=\left|\frac{(-1)^{n+1}}{(2(n+1))!}\frac{(2n)!}{(-1)^n}\right|=\frac{1}{(2n+2)(2n+1)}\to 0=\frac{1}{\infty} \quad (n\to\infty) $$

であるので、定理2より \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}w^n \) の収束半径は \( \infty \) である。

したがって、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}z^{2n} \) の収束半径は \( \sqrt{\infty}=\infty \) である。


(4) 次のベキ級数を考える。

$$ 1+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{(-1)^n}{n}z^n $$

このベキ級数の収束半径を求める。

$$ \left|\frac{c_{n+1}}{c_n}\right|=\left|\frac{(-1)^{n+1}}{n+1}\frac{n}{(-1)^n}\right|=\frac{n}{n+1}\to 1=\frac{1}{1} \quad (n\to\infty) $$

であるので、定理2より収束半径は1である。

また、収束半径内でのベキ級数と微分との関係として次が成り立ちます。

定理3

ベキ級数 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) の収束半径を \( R \) とすると、 \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) は

$$ D_R(0)=\{z\in\mathbb{C} \ | \ |z|<r\} $$

上で正則であり、

$$ \left( \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \right)’=\sum_{n=1}^{\infty}nc_nz^{n-1} \tag{1} $$

さらに、右辺の級数の収束半径も \( R \) である。

(つまり、収束半径内では級数と微分は交換してもよい)

定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)

証明の概略のみ述べます。

(i) はじめに、式(1)の右辺の級数の収束半径を \( R’ \) とするとき、 \( R’=R \) であることを示します。

まず、右辺の級数 \( \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}nc_nz^{n-1} \) の各項に \( z \) をかけた級数 \( \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}nc_nz^n \) の収束半径も \( R’ \) であることに注意します。

(級数の収束半径は係数 \( nc_n \) のみに依存するためです)

よって、 \( |c_nz^n|≦|nc_nz^n| \) より \( \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}nc_nz^n \) が収束するならば \( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) も収束することがいえるので、 \( R’≦R \) が成り立ちます。

次に、 \( |z|<R \) となる \( z\in\mathbb{C} \) に対して、 \( |z|<R_0<R \) となる \( R_0 \) をとると、ある \( M>0 \) が存在して \( |c_nR_0^n|≦M \) となるので、(\(\displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}c_nR_0^n \) が収束するため)

\[ |nc_nz^n|=\left| nc_n\frac{z^n}{R_0^n}R_0^n\right|≦n|c_nR_0^n|\left( \frac{|z|}{R_0}\right)^n≦nM\left( \frac{|z|}{R_0}\right)^n \]

したがって、

\[ \sum_{n=0}^{\infty}nM\left( \frac{|z|}{R_0}\right)^n<\infty \quad \left( \frac{|z|}{R_0}<1より\right) \]

であるので、 \( R≦R’ \) となり、上と合わせて \( R’=R \) であることが示せました。

(ii) 次に、式(1)の等号について示します。

\( z\in D_R(0), \ h\in\mathbb{C} \) に対して、 \( \displaystyle f(z)=\sum_{n=0}^{\infty}c_nz^n \) とおきます。すると、二項定理より

\[ \begin{align} f(z+h)-f(z)&=\sum_{n=0}^{\infty}c_n((z+h)^n-z^n) \\ &=\sum_{n=1}^{\infty} c_n\left( {}_nC_1z^{n-1}h+\cdots+{}_nC_kz^{n-k}h^k+\cdots+h^n \right) \end{align} \]

よって、

\[ \begin{align} &\left| \frac{f(z+h)-f(z)}{h}-\sum_{n=0}^{\infty}nc_nz^{n-1} \right| \\ &=\left| \sum_{n=1}^{\infty}c_n\left( {}_nC_2z^{n-2}h+\cdots+{}_nC_kz^{n-k}h^{k-1}+\cdots+h^{n-1}\right)\right|=(*) \end{align} \]

となります。(i)での \( M \) を用いると、

\[ \begin{align} (*)&≦|h|\left( \sum_{n=1}^{\infty}|c_n|\left( {}_nC_2|z|^{n-2}+\cdots+{}_nC_k|z|^{n-k}|h|^{k-2}+\cdots+|h|^{n-2}\right)\right) \\ &≦\frac{M|h|}{R_0^2}\left( \sum_{n=2}^{\infty}\left( {}_nC_2\left( \frac{|z|}{R_0}\right)^{n-2}+\cdots+{}_nC_k\left( \frac{|z|}{R_0}\right)^{n-k}\left( \frac{|h|}{R_0}\right)^{k-2}+\cdots+\left(\frac{|h|}{R_0}\right)^{n-2}\right)\right) \\ &=\frac{M|h|}{R_0^2}\cdot \frac{1}{\left(1-\frac{|z|+|h|}{R_0}\right)\left( 1-\frac{|z|}{R_0}\right)^2}\to 0 \quad (h\to 0) \end{align} \]

したがって、

\[ \frac{f(z+h)-f(z)}{h}\to \sum_{n=1}^{\infty}nc_nz^{n-1} \quad (h\to 0) \]

となるので、式(1)が示せました。

例2

\( \displaystyle \sum_{n=0}^{\infty}z^n \) の収束半径は1であり、

$$ \sum_{n=0}^{\infty}z^n=\frac{1}{1-z} $$

となる。よって、 \( z\in D_1(0) \) に対して左辺は正則であり、

$$ \sum_{n=1}^{\infty}nz^{n-1}=\frac{1}{(1-z)^2} $$

今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。

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