こんにちは、ひかりです。
今回はベクトル解析から1変数のベクトル値関数とその微分について解説していきます。
この記事では以下のことを紹介します。
- 1変数のベクトル値関数の定義とその微分について
- ベクトル値関数の微分公式について
- ベクトル値関数の大きさと向きの条件について
1変数のベクトル値関数の定義とその微分
これまで、考えてきた関数 \( y=f(x) \) は1つのスカラー \( x \) に対して1つのスカラー \( y \) を対応させるというものでした。
これをスカラー値関数といいます。
ここでは、それを拡張して1つのスカラー \( t \) に対して、1つのベクトル \( \mathbf{a}(t)=(a_1(t),a_2(t),a_3(t)) \) を対応させる関数 \( \mathbf{a}(t) \) を考えます。
これを1変数のベクトル値関数といいます。(このシリーズでは3次元ベクトルを考えます。)
これは変数 \( t \) で表されているベクトルであるので、内積や外積などはベクトル解析01の定義と同様に計算することができます。
次の1変数のベクトル値関数を考える。
$$ \mathbf{a}(t)=(t,1,1-t), \quad \mathbf{b}(t)=(t,t^2,1) $$
このとき、 \( \mathbf{a}(t),\mathbf{b}(t) \) の内積と外積を計算すると、
$$ \mathbf{a}(t)\cdot \mathbf{b}(t)=(t,1,1-t)\cdot (t,t^2,1)=t^2+t^2+(1-t)=2t^2-t+1 $$
$$ \begin{align} \mathbf{a}(t)\times\mathbf{b}(t)&=(t,1,1-t)\times (t,t^2,1) \\ &=\begin{vmatrix} \mathbf{e}_1 & \mathbf{e}_2 & \mathbf{e}_3 \\ t & 1 & 1-t \\ t & t^2 & 1 \end{vmatrix}=(t^3-t^2+1,-t^2,t^3-t) \end{align} $$
また、1変数のベクトル値関数の極限や微分についてもスカラー値関数と同様に定めることができます。
1変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t)=(a_1(t),a_2(t),a_3(t)) \) に対して、
\[ \lim_{t\to t_0}a_1(t)=b_1, \quad \lim_{t\to t_0}a_2(t)=b_2, \quad \lim_{t\to t_0}a_3(t)=b_3 \]
となるとき、 \( \mathbf{b}=(\mathbf{b}_1,\mathbf{b}_2,\mathbf{b}_3) \) とする。
このとき、 \( \mathbf{a}(t) \) は \( t\to t_0 \) のとき \( \mathbf{b} \) に収束するといい、 \( \displaystyle \lim_{t\to t_0}\mathbf{a}(t)=\mathbf{b} \) と表す。
また、 \( \mathbf{b} \) のことを \( \mathbf{a}(t) \) の \( t\to t_0 \) における極限ベクトルという。
1変数のベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t)=(a_1(t),a_2(t),a_3(t)) \) に対して、
\[ \lim_{h\to 0}\frac{a_1(t+h)-a_1(t)}{h}, \quad \lim_{h\to 0}\frac{a_2(t+h)-a_2(t)}{h}, \quad \lim_{h\to 0}\frac{a_3(t+h)-a_3(t)}{h} \]
が存在するとき、 \( \mathbf{a}(t) \) は微分可能であるという。
このとき、 \( \mathbf{a}(t) \) の導関数 \( \mathbf{a}'(t) \) は各成分の導関数を用いて次のように表される。
\[ \mathbf{a}'(t)=(a’_1(t),a’_2(t),a’_3(t)) \]
次の1変数のベクトル値関数を考える。
$$ \mathbf{a}(t)=\left(\frac{1}{t},1,\frac{2t}{t-1}\right), \quad \mathbf{b}(t)=(t-3,3t^2+t,1) $$
このとき、
$$ \lim_{t\to \infty}\mathbf{a}(t)=\lim_{t\to \infty}\left(\frac{1}{t},1,\frac{2t}{t-1}\right)=(0,1,2) $$
$$ \mathbf{b}'(t)=(t-3,3t^2+t,1)’=(1,6t+1,0) $$
ベクトル値関数の微分公式
スカラー値関数の場合と似たようにして、ベクトル値関数に対しても次のような微分公式が成り立ちます。
ベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t),\mathbf{b}(t),\mathbf{c}(t) \) 、スカラー値関数 \( f(t) \) に対して、次が成り立つ。
(1) $$ \{ \mathbf{a}(t)+\mathbf{b}(t) \}’=\mathbf{a}'(t)+\mathbf{b}'(t) $$
(2) $$ \{ f(t)\mathbf{a}(t)\}’=f'(t)\mathbf{a}(t)+f(t)\mathbf{a}'(t) $$
(3) $$ \left\{ \frac{\mathbf{a}(t)}{f(t)} \right\}’=\frac{f(t)\mathbf{a}'(t)-f'(t)\mathbf{a}'(t)}{\{f(t)\}^2}, \quad (f(t)\not=0) $$
(4) $$ \{ \mathbf{a}(t)\cdot \mathbf{b}(t) \}’=\mathbf{a}'(t)\cdot \mathbf{b}(t)+\mathbf{a}(t)\cdot \mathbf{b}'(t) $$
(5) $$ \{ \mathbf{a}(t)\times \mathbf{b}(t) \}’=\mathbf{a}'(t)\times \mathbf{b}(t)+\mathbf{a}(t)\times \mathbf{b}'(t) $$
(6) $$ \begin{align} &(\mathbf{a}(t),\mathbf{b}(t),\mathbf{c}(t))’ \\ &=(\mathbf{a}'(t),\mathbf{b}(t),\mathbf{c}(t))+(\mathbf{a}(t),\mathbf{b}'(t),\mathbf{c}(t))+(\mathbf{a}(t),\mathbf{b}(t),\mathbf{c}'(t)) \end{align} $$
(7) $$ \begin{align} &\{\mathbf{a}(t)\times (\mathbf{b}(t)\times \mathbf{c}(t))\}’ \\ &=\mathbf{a}'(t)\times (\mathbf{b}(t)\times \mathbf{c}(t))+\mathbf{a}(t)\times (\mathbf{b}'(t)\times \mathbf{c}(t))+\mathbf{a}(t)\times(\mathbf{b}(t)\times \mathbf{c}'(t)) \end{align} $$
定理1の証明(気になる方だけクリックしてください)
(2),(4),(5)のみ示します。
((1)は微分の線形性から、(3)は(2)と同様、(6)は(4)と(5)から、(7)は(5)を2回行えば示せます)
(2) $$ \begin{align} \{ f(t)\mathbf{a}(t)\}’&=(f(t)a_1(t),f(t)a_2(t),f(t)a_3(t))’ \\ &=((f(t)a_1(t))’,(f(t)a_2(t))’.(f(t)a_3(t))’) \\ &=(f'(t)a_1(t)+f(t)a’_1(t),f'(t)a_2(t)+f(t)a’_2(t),f'(t)a_3(t)+f(t)a’_3(t)) \\ &=f'(t)(a_1(t),a_2(t),a_3(t))+f(t)(a’_1(t),a’_2(t),a’_3(t)) \\ &=f'(t)\mathbf{a}(t)+f(t)\mathbf{a}'(t) \end{align} $$
(4) $$ \begin{align} &\{ \mathbf{a}(t)\cdot \mathbf{b}(t) \}’ \\ &=\{ (a_1(t),a_2(t),a_3(t))\cdot(b_1(t),b_2(t),b_3(t)) \}’ \\ &=\{ a_1(t)b_1(t)+a_2(t)b_2(t)+a_3(t)b_3(t) \}’ \\ &=a’_1(t)b_1(t)+a_1(t)b’_1(t)+a’_2(t)b_2(t)+a_2(t)b’_2(t)+a’_3(t)b_3(t)+a_3(t)b’_3(t) \\ &=(a’_1(t)b_1(t)+a’_2(t)b_2(t)+a’_3(t)b_3(t))+(a_1(t)b’_1(t)+a_2(t)b’_2(t)+a_3(t)b’_3(t)) \\ &=(a’_1(t),a’_2(t),a’_3(t))\cdot(b_1(t),b_2(t),b_3(t))+(a_1(t),a_2(t),a_3(t))\cdot(b’_1(t),b’_2(t),b’_3(t)) \\ &=\mathbf{a}'(t)\cdot \mathbf{b}(t)+\mathbf{a}(t)\cdot \mathbf{b}'(t) \end{align} $$
(5) $$ \begin{align} &\{ \mathbf{a}(t)\times \mathbf{b}(t) \}’ \\ &=\{ (a_1(t),a_2(t),a_3(t))\times(b_1(t),b_2(t),b_3(t)) \}’ \\ &=((a_2(t)b_3(t)-a_3(t)b_2(t))’,(a_3(t)b_1(t)-a_1(t)b_3(t))’,(a_1(t)b_2(t)-a_2(t)b_1(t))’) \\ &=(a’_2(t)b_3(t)+a_2(t)b’_3(t)-a’_3(t)b_2(t)-a_3(t)b’_2(t), \\ & \quad a’_3(t)b_1(t)+a_3(t)b’_1(t)-a’_1(t)b_3(t)-a_1(t)b’_3(t), \\ & \quad a’_1(t)b_2(t)+a_1(t)b’_2(t)-a’_2(t)b_1(t)-a_2(t)b’_1(t)) \\ &=(a’_2(t)b_3(t)-a’_3(t)b_2(t),a’_3(t)b_1(t)-a’_1(t)b_3(t),a’_1(t)b_2(t)-a’_2(t)b_1(t)) \\ & \quad +(a_2(t)b’_3(t)-a_3(t)b’_2(t),a_3(t)b’_1(t)-a_1(t)b’_3(t),a_1(t)b’_2(t)-a_2(t)b’_1(t)) \\ &=\mathbf{a}'(t)\times \mathbf{b}(t)+\mathbf{a}(t)\times \mathbf{b}'(t) \end{align} $$
次の1変数のベクトル値関数とスカラー値関数を考える。
$$ \mathbf{a}(t)=(2t,t^2-3,1), \quad \mathbf{b}(t)=(t-2,t^2+2t,t), \quad f(t)=3t $$
このとき、
$$ \begin{align} \{ f(t)\mathbf{a}(t)\}’&=\{ 3t(2t,t^2-3,1)\}’=(3t)'(2t,t^2-3,1)+3t(2t,t^2-3,1)’ \\ &=3(2t,t^2-3,1)+3t(2,2t,0) \\ &=(6t,3t^2-9,3)+(6t,6t^2,0) \\ &=(12t,9t^2-9,3) \end{align} $$
$$ \begin{align} \left\{ \frac{\mathbf{b}(t)}{f(t)} \right\}’&=\left\{ \frac{(t-2,t^2+2t,t)}{3t} \right\}’ \\ &=\frac{3t(t-2,t^2+2t,t)’-(3t)'(t-2,t^2+2t,t)}{(3t)^2} \\ &=\frac{3t(1,2t+2,1)-3(t-2,t^2+2t,t)}{9t^2} \\ &=\frac{1}{9t^2}(6,3t^2,0)=\left( \frac{2}{3t^2},\frac{1}{3},0 \right) \end{align} $$
$$ \begin{align} \{ \mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{b}(t)\}’&=\{ (2t,t^2-3,1)\cdot (t-2,t^2+2t,t)\}’ \\ &=(t^4+2t^3-t^2-9t)’=4t^3+6t^2-2t-9 \end{align} $$
$$ \begin{align} \{ \mathbf{a}(t)\times\mathbf{b}(t)\}’&=\{ (2t,t^2-3,1)\times (t-2,t^2+2t,t)\}’ \\ &=\begin{vmatrix} \mathbf{e}_1 & \mathbf{e}_2 & \mathbf{e}_3 \\ 2t & t^2-3 & 1 \\ t-2 & t^2+2t & t \end{vmatrix}’ \\ &=(t^3-t^2-5t,-2t^2+t-2,t^3+6t^2+3t-6)’ \\ &=(3t^2-2t-5,-4t+1,3t^2+12t+3) \end{align} $$
(後半2つは微分公式を用いない方が簡単に計算できる)
ベクトル値関数の大きさと向きの条件
ベクトル値関数の大きさに関する必要十分条件
まず、ベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t) \) は変数をもつベクトルであるので、その長さ \( \|\mathbf{a}(t)\| \) を考えることができます。
この大きさ \( \|\mathbf{a}(t)\| \) はもちろん変数 \( t \) によって変化するので、変数 \( t \) によるスカラー値関数とみなせます。
では、その関数が定数関数である、つまり
\[ \|\mathbf{a}(t)\|=c, \quad (c:定数) \]
となるときはどのようなときでしょうか。
(これはつまり、大きさが変数 \( t \) に依らず一定であるということになります)
実は次のような必要十分条件が成り立ちます。
ベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t) \) に対して、次が成り立つ。
$$ \|\mathbf{a}(t)\|=c \ (c:定数) \iff \mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}'(t)=0 $$
定理2の証明(気になる方だけクリックしてください)
(\(\Rightarrow\)) \( \|\mathbf{a}(t)\|=c \) が成り立つとします。
両辺を2乗すると、 \( \|\mathbf{a}(t)\|^2=c^2 \) であり、この両辺を \( t \) で微分すると、
$$ 0=(\|\mathbf{a}(t)\|^2)’=(\mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}(t))’=\mathbf{a}'(t)\cdot \mathbf{a}(t)+\mathbf{a}(t)\cdot \mathbf{a}'(t)=2\mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}'(t) $$
したがって、
$$ \mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}'(t)=0 $$
(\(\Leftarrow\)) \( \mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}'(t)=0 \) が成り立つとします。
両辺を2倍すると、 \( 2(\mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}'(t))=0 \) となるので、
$$ (\mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}(t))’=0 $$
したがって、
$$ \mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}(t)=c_1, \quad (c_1≧0:定数) $$
よって、
$$ \|\mathbf{a}(t)\|=\sqrt{\mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}(t)}=\sqrt{c_1}=c, \quad (c=\sqrt{c_1}:定数) $$
次の1変数のベクトル値関数を考える。
$$ \mathbf{a}(t)=(it,t,3) $$
このとき、
$$ \mathbf{a}'(t)=(i,1,0) $$
より、
$$ \mathbf{a}(t)\cdot\mathbf{a}'(t)=(it,t,3)\cdot(i,1,0)=0 $$
したがって、定理2より、 \( \mathbf{a}(t) \) の大きさは \( t \) に依らず一定である。実際、
$$ \|\mathbf{a}(t)\|=\sqrt{(it)^2+t^2+3^2}=3 $$
ベクトル値関数の向きに関する必要十分条件
次に、ベクトル値関数の向きが等しい、つまり、
$$ \mathbf{a}(t)=f(t)\mathbf{c}, \quad (f(t):スカラー値関数、\mathbf{c}:定数ベクトル) $$
となるときはどのようなときでしょうか。
実は次のような必要十分条件が成り立ちます。
ベクトル値関数 \( \mathbf{a}(t) \) に対して、次が成り立つ。
$$ \mathbf{a}(t)=f(t)\mathbf{c}, \quad (f(t):スカラー値関数、\mathbf{c}:定数ベクトル) \iff \mathbf{a}(t)\times\mathbf{a}'(t)=\mathbf{0} $$
定理3の証明(気になる方だけクリックしてください)
(\(\Rightarrow\)) \( \mathbf{a}(t)=f(t)\mathbf{c} \) が成り立つとします。
両辺を \( t \) で微分すると、 \( \mathbf{c} \) が定数ベクトルより、
$$ \mathbf{a}'(t)=(f(t)\mathbf{c})’=f'(t)\mathbf{c} $$
したがって、
$$ \mathbf{a}(t)\times\mathbf{a}'(t)=f(t)\mathbf{c}\times f'(t)\mathbf{c}=f(t)f'(t)\mathbf{c}\times\mathbf{c}=\mathbf{0} $$
(\(\Leftarrow\)) \( \mathbf{a}(t)\times\mathbf{a}'(t)=\mathbf{0} \) が成り立つとします。
このとき、 \( \mathbf{a}(t),\mathbf{a}'(t) \) は平行になるので、
$$ \mathbf{a}'(t)=g(t)\mathbf{a}(t), \quad (g(t):スカラー値関数) $$
つまり、
$$ (a’_1(t),a’_2(t),a’_3(t))=g(t)(a_1(t),a_2(t),a_3(t))=(g(t)a_1(t),g(t)a_2(t),g(t)a_3(t)) $$
となるので、3つの微分方程式
$$ a’_1(t)=g(t)a_1(t), \quad a’_2(t)=g(t)a_2(t), \quad a’_3(t)=g(t)a_3(t) $$
が現れます。これらは変数分離形の微分方程式であるので、これらを解くと、
$$ a_i(t)=c_ie^{G(t)}, \quad (i=1,2,3, \ c_i:定数, \ G(t):g(t)の原始関数) $$
したがって、
$$ \mathbf{c}=(c_1,c_2,c_3), \quad f(t)=e^{G(t)} $$
とおくと、
$$ \mathbf{a}(t)=f(t)\mathbf{c} $$
次の1変数のベクトル値関数を考える。
$$ \mathbf{a}(t)=(2t,4t,6t) $$
このとき、
$$ \mathbf{a}'(t)=(2,4,6) $$
より、
$$ \begin{align} \mathbf{a}(t)\times \mathbf{a}'(t)&=(2t,4t,6t)\times (2,4,6)=\begin{vmatrix} \mathbf{e}_1 & \mathbf{e}_2 & \mathbf{e}_3 \\ 2t & 4t & 6t \\ 2 & 4 & 6 \end{vmatrix}=0 \end{align} $$
したがって、定理3より、 \( \mathbf{a}(t) \) の向きは等しい。実際、
$$ \mathbf{a}(t)=(2t,4t,6t)=2t(1,2,3) $$
今回はここまでです。お疲れ様でした。また次回にお会いしましょう。